第20話 瑞子ちゃんは甘いのがニガテだよ。

 瑞子みずこちゃんは、おぼんをリビングのテーブルにおくと、わたしの前にコーヒーの入ったマグカップとスティックシュガーと使い切りのプラスチック容器に入ったミルクをふたつずつ、そして最後にスプーンをおいてくれた。


「ありがとう」


 わたしがお礼を言って、スティックシュガーをサラサラと入れると、瑞子みずこちゃんはマグカップを持って、わたしのとなりにすわった。

 そうして、ブラックコーヒーをコクリと飲んだ。


 瑞子ちゃんは、甘いものがニガテ。小学校一年生のころからずっとニガテ。

 給食にプリンが出た時なんて、いつも泣きながら食べていた。


 かわってるなって思う。


 反対に苦いものは大好き。特にピーマンが好き。ニンジンは甘くて苦いから好きでもキライでもない。


 かわってるなって思う。


 かわってるなって思う瑞子みずこちゃんを横目でみながら、わたしはもう一本のスティックシュガーを入れて、スプーンでカチャカチャとかきまぜた。

 お砂糖がしっかりとけないと、コーヒーはニガくて飲めない。

 わたしは、お砂糖のザラザラする感じがなくなるまでしっかりとかき混ぜると、プラスチック容器に入ったミルクをのフタを「パキリン」とはずしてそそぎ入れると、またスプーンでかきまぜた。


 これでようやくコーヒーが飲める。わたしはニガイのがキライ。でもって猫舌。瑞子みずこちゃんとは大ちがい。


 瑞子みずこちゃんはコーヒーが大好きだ。お父さんがいれる無駄に時間がかかるこだわりのコーヒーも大好きだ。コーヒー豆の産地をズバリと言い当てた瑞子みずこちゃんに、お父さんはカンゲキしていた。


 あれ? なんの話するんだっけ……そっか!

 

 瑞子みずこちゃんを学校にさそうんだ! イジメっ子がいなくなったことをせつめいして、犬飼いぬかいさんたちが、鬼にあやつられていた事をせつめいするんだ!!


 わたしは、飲みごろになったあまっあまのミルクコーヒーをゴクゴクとのんで「ふー」って息をすると、瑞子みずこちゃんの顔を見て話しかけた。


「あのね、おねがいがあるんだけど……」


「なあに?」


 瑞子みずこちゃんは、わたしを見て優しい笑顔で返事をした。

 

「えっとね……三学期も学校に行かないの?」


「行かない!」


 瑞子ちゃんは「プイ」って、わたしから目をそむけた。おっきな窓の真っ青な空を見ている。


「あのね……ちょっとせつめいがムズカシイんだけど、犬飼いぬかいさんたちは、悪い鬼にあやつられていたの」


「それで?」


 瑞子ちゃんは真っ青な空を見ている。


「だからね、その鬼をお父さんたちが退治したから、犬飼いぬかいさんたちはもうイジメっ子じゃないよ? 学校にはもうイジメっ子はいないよ?」


「関係ない。わたしをイジメたんだ。絶対にゆるさない!」


 瑞子ちゃんは真っ青な空を見たままだ。


犬飼いぬかいさんたちは、瑞子みずこちゃんをイジメていたこと……もう覚えてないんだよ。だから平気だよ?」


「関係ない!!」


 瑞子ちゃんは全然こっちをみてくれない。


「……今日ね、わたしが瑞子みずこちゃんの家に行くって言ったら、犬飼いぬかいさんが心配してたよ。瑞子みずこちゃんに学校来て欲しいって言ってくれたよ?」


「関係ない!! わたしは、あいつらにイジメられたんだ。絶対にゆるさない! 絶対絶対にゆるさない!! 一生ゆるさない!!」


 ……瑞子ちゃんは全然こっちをみてくれない……ダメか……あきらめないとダメなのかな……?


 わたしは、ずっと青空をにらんでいる瑞子みずこちゃんを見た。怖かった。せっかくのカワイイ顔がだいなしだ。


 あきらめよう……。


 わたしは、話をかえることにした。わたしの話をすることにした。わたしの運命の人が誰なのか、瑞子ちゃんに占ってもらうことにした。


「あのね……もうひとつおねがいがあるんだけど」


「なあに?」


 瑞子ちゃんは、真っ青の空を見ながら言った。


「えっとね、占って欲しい人がいるんだけど……」


「なになに? 未神みかちゃんが気になる人!?」


 瑞子ちゃんは、クルリとわたしの方をむいて、すっごくカワイイ笑顔で返事をした。


「あのね? 三人いるんだけど……」


「三人? スゴーイ! 未神みかちゃんモテモテだぁ! 

 ……あ、ちょっと待って!!

 タブレット持ってくる! あとお習字セット!!」


 瑞子ちゃんは、おっきな目をキラキラさせながら、大急ぎで自分の部屋に入っていった。

 占いの道具を取りに行ったんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る