第19話 「瑞子」は名字、名前は「ミコ」だよ。

 わたしは、息をはずませて、飯田橋駅の駅前にある瑞子みずこちゃんのマンションに入った。

 オートロックのおっきな自動ドアの前のよびだしボタンに、瑞子みずこちゃんのマンションの部屋番号をおすと、すぐにスピーカーごしに瑞子みずこちゃんの声が聞こえてきた。


「(あ、未神みかちゃん。スクールバッグ背負って……学校の帰り?)」


「うん、話したいことがあって、学校からそのまま来ちゃった!」


 わたしが答えると、オートロックの自動ドアが「ウィーン」と静かに開いた。

 わたしはマンションの中に入って、エレベーターに入って、エレベーターの最上階のボタンを押した。


 エレベーターは、静かにグングンと昇っていく。


 瑞子みずこちゃんのフルネームは、瑞子みずこミコ。

 そう、わたしとおんなじ名前。カタカナだから字も一緒。


 だからね、わたしと瑞子みずこちゃんは、名字で呼びあっている。

 わたしは瑞子みずこちゃんって呼んで、瑞子みずこちゃんはわたしのことを未神みかちゃんって呼ぶ。

 小学校一年生の時、同じクラスになってからずっとそう。


 わたしと瑞子みずこちゃんは、いろいろと、ソックリな所が多い。

 まず、名前がいっしょ。そして、誕生日も一緒。そして……お母さんがいない。

 わたしも瑞子みずこちゃんも、お母さんがわたしたちを産んでくれたあと、すぐになくなったらしい。


 あとね、家が神社なところもおんなじ。

 瑞子みずこちゃんの場合は、お母さんの実家が神社だけど。

 奈良なら県の桜井さくらい市って所にあるんだっって。


 あとは……どっちも美少女なところ?


 あ、でもわたしにはってつくけど、瑞子ちゃんはの美少女。こまち先生みたいな美少女でもない。風水くんみたいな、ほんとうは男の子の美少女でもない。に本当の美少女。


 陶器みたいにすっごく白い肌で、腰まである黒髪で、キラキラしたおっきな目で、トロンとした二重のまぶたで、背はわたしよりちょっとだけ低い。凪斗なぎとくんとおんなじくらい? とにかくスッゴク美人。風水ふうすいくんとは全くちがうタイプの美人さん。


「まもってあげたい!」


ってなっちゃうタイプの美人さん。


 でもね、性格はものすごくシッカリしている。頭もいいし、絵も上手。それからなんと言っても占いがすっごく当たる!


 わたしがお父さんたちと一緒に帰らなくて真っ先に瑞子みずこちゃんの家に来たのは、ふたつの理由がある。


 ひとつめは、もちろんイジメっ子がいなくなったことを教えるため。

 犬飼いぬかいさんたちは鬼にあやつられてたってことを説明するため。


「また一緒に学校に行こう?」


ってさそってみるため。

(いきなり〝鬼〟なんて言っても信じてもらえないだろうから、どうせつめいしようか頭がぐるぐるしている)


 もうひとつはね、占いをしてもらうため。

 これが今日、わたしがお父さんたちと一緒に家に帰りたくなかった理由。


 相性を占ってもらうんだ。


 わたしと、三人のナイト……相生そうじょうくんと風水ふうすいくんと、そして、凪斗なぎとくんとの相性をてもらうため。


 だってね、今月の山羊やぎ座の恋愛運は最高なんだよ?

 わたしの運命の人って、絶対三人のなかのだれかだと思うんだよね!!


 でも、三人はわたしのことを、毎日、二十四時間ボディーガードする。

 だからね、チャンスは今日、今この時しかないって思ったの。


「わたしの運命の人ってだれかな?」


 こんなこと、三人が見ている前では、はずかしくて絶対に聞けないもん!!


 ……ポーン


 エレベーターが、最上階についた。


 わたしは、エレベーターの目の前にある、瑞子みずこちゃんの家の玄関のインターホンをならした。


 ピンポーン!


 すぐに、インターホンから声が聞こえてくる。


「(未神みかちゃん、今開けるね!)」


 ガチャリ


 ほんのちょっとの時間をおいて、玄関のドアが開いた。


未神みかちゃん、久しぶり! あ、でもお正月に会ったか! 初詣はつもうで! 未神みかちゃんの巫女装束みこしょうぞく、すっごくカワイかったよ!」


 瑞子みずこちゃんは、笑顔で話しかけてきた。やっぱりカワイイ。ちょっとこもった感じの声もすっごくカワイイ。(ウイスパーボイスって言うんだよ)


瑞子みずこちゃん! あ、あのね……」


 わたしは頭がぐるぐるしていた。

 なにから話そう。どこから話そう。新学期のこと? 鬼のこと? それとも三人のナイトのこと?

 ううう……頭がぐるぐるする。こんがらがって何から話せばいいのかわからない!


「あ、あのね……えっとね……」

「顔、赤いよ? 息もちょっとあがってる。ここまで走ってきたの? とりあえず、入りなよ。なにか飲んでから落ち着いてから話そ。コーヒーでもいい?」


 あたまがぐるぐるしているわたしを見て、瑞子みずこちゃんはやさしい笑顔で言った。


「うん。そうする」


 わたしは、朱色のスニーカーをぬいで、瑞子ちゃんの家におじゃました。

 いつきても、すっごくおっきなリビング、そしてすっごくおっきな窓から、飯田橋いいだばし神楽坂かぐらざかの街並みがみわたせる。


 今日は晴れ。雲ひとつない快晴。だから空は真っ青で、おっきな窓でながめる景色は最高だ。


未神みかちゃんは、お砂糖とミルク、二つずつだよね」


 そう言いながら、瑞子みずこちゃんは笑顔でおぼんを持ってきた。

 おぼんの上には、コーヒーの入ったマグカップがふたつ。そして、スティックシュガーと使い切りのプラスチック容器に入ったミルクがふたつ乗っていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る