未神楽ミコ。わたし運命の人を知ったよ。

第18話 イジメっ子がいなくなったよ。

 凪斗なぎとくんたちがヒツジの鬼を倒した後、わたしは教室にもどった。

 今から三時間目の授業。


 教室にもどったのは、わたしだけ。未神楽ミコのすがたのわたしだけ。

 風水ふうすいくんと、凪斗なぎとくんは、明日転校してくることになった。


 ちょっと、せつめいするね。


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「つまり、クラスのみんなは記憶がなくなっとるんや!」


 こまち先生は、頭のこめかみをひとさし指で「トン」とたたきながら言った。


「え? どういうこと?」


 わたしが質問すると、こまち先生はひとさし指をくるくると回しながら話をつづける。


「二時間目は、かがみさんとつるぎくんは、ヒツジの鬼と戦っとった。いきなりおらんなったら、ヘンやろ?」


「そっか! つじつまあわないね」


「そう! せやから、その記憶をわたしが柘榴木さくろぼくで吸い取って、にしたんや! 陰陽師おんみょうじ丁番ちょうつがいこまちの得意技や!」


 こまち先生は、くるくるとまわしていた指をビシッとまうえに上げて、ノリノリなポーズをとった。


 保健室は、静けさにつつまれた。

 しばらくたって、相生そうじょうくんが、メガネをくもらせながら、


「……で、では、僕たち三人は、未神楽みかぐら先生と校門で授業が終わるのを待っています」


って言ってガラガラと保健室の引き戸をあけた。


 狩衣かりぎぬ姿の相生そうじょうくんとお父さん。フワッフワの水色のワンピース姿の風水そうじょうくんと凪斗なぎとくん。

 凪斗なぎとくんは、封印をとくときに服が燃えちゃったから、風水くんのあおみどり色の鏡の部屋の中にしまってあった、フワッフワの水色のワンピースを着ていた。


凪斗なぎとくん意外と似合う……)


 わたしは、ワンピース姿の凪斗なぎとくんを目でおっていると、


「ふーん、そうなんやぁ……」


って、こまち先生がニコニコしていた。


「それじゃ、美少女コンビは、三時間目の授業や。

 クラスのみんなに、校長先生のながおもんない授業を二時間連続で受けさせるんは、さすがにキツい」


 そう言って、こまち先生は、保健室を出ていった。

 わたしは、こまち先生についていった。そして、ろうかに出てから、さっきからずっと気になっていたことを聞いてみた。


己之上みのうえ先生は、このまま寝かせたままでいいの?」

「しもた! わすれとった!」


 そう言うと、あわてて指を「パチン!」とならした。


木行覚醒もくゔょうかくせい! おめざめ八卦はっけ! かんにんや!」


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 チャイムが鳴った。帰りの会が終わったんだ。


「ほんなら、今日はおしまい!

 あ、明日、転校生がくるから、みんな、よろしゅうに!

 男子と女子ひとりずつ、合わせて二人や」


 こまち先生が言うと、


「きりーつ!」


 出席番号一番の犬飼いぬかいさんが言った。


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 みんながぞろぞろと帰っていくなか、仲良しグループの犬飼いぬかいさん、辰川たつかわさん、牛尾うしおさんが話していた。


 犬飼いぬかいさんが言った。


「転校生って、どんな男の子かな? カッコイイといいな!」


 辰川たつかわさんが言った。


「わたしは、ダンゼン足が早い人がいい! 少なくともわたしより速い人!」


 牛尾うしおさんが言った。


「それならわたしは、わたしより腕相撲がつよい人!」


 全部、凪斗なぎとくんだ。凪斗なぎとくんは、カッコイイし、足も速いし力も強い。しかも足の速さと力の強さは、ふつうの小学生のレベルじゃない。飛びぬけている。


 犬飼いぬかいさんは話を続けた。


「女の子も気になるぅ! カワイイ娘だといいな?」


 辰川たつかわさんが続いた。


「わたしは、ダンスが上手な子がいいな!」


 牛尾うしおさんが続いた。


「それならわたしは、ファッションにくわしい子!」


 全部、風水ふうすいくんだ。あ、でも学校に来るのは私が変身したニコラちゃんだから、ダンスとファッションはふつうだな……。


 わたしが、ぐるぐると考えていると、犬飼いぬかいさんが話しかけてきた。


「ねぇ、未神楽みかぐらさん……やっぱり瑞子みずこさんって……三学期も来ないんだね……」


「え? あ……うん」


 わたしはあわてて返事をした。


 犬飼いぬかいさん、すっごく心配そう。

 瑞子みずこちゃんが学校に来られなくなったのは、自分が瑞子みずこちゃんをイジメてたからだって事、覚えていないんだ。イヌの鬼が、犬飼いぬかいさんといっしょにいなくなっちゃって、記憶がかんぜんにになったんだ。


 わたしは言った。


「今日、学校の帰りに瑞子みずこちゃんの家によってみる」


「そっか、瑞子みずこさん、早く登校できるようになるといいね」


 犬飼いぬかいさんは、とってもやさしい笑顔で言った。


「うん!」


 わたしは、犬飼いぬかいさんに笑顔で答えると、犬飼いぬかいさんたちに手をふって教室を出た。


 やっぱり、鬼の仕業だったんだ。犬飼いぬかいさんが瑞子みずこちゃんをイジメていたのは、イヌの鬼に心をのっとられていたからなんだ。


 このクラスにはもう、瑞子みずこちゃんをイジメる人はいない。


 だからね、わたしはそのことをすぐに瑞子みずこちゃんに教えてあげようって思った。

 学校の校門でまってくれている、お父さんたちには悪いけど、今日は裏門から帰ろう。


 わたしは、クラスのイジメっ子がいなくなったことを、瑞子みずこちゃん教えてあげたかった。すこしでも早く、瑞子ちゃんに教えてあげたかった。


 わたしは、下駄箱で朱色のスニーカーにはきかえると、裏門に向かって走った。

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