第16話 黒ネコは干支の仲間外れだよ。

 わたしにとりついていたヒツジの鬼は、黒ヒョウになった凪斗なぎとくんにたおされた。


 黒ヒョウになった凪斗なぎとくんが体にまとっていた炎が、ユラユラとゆらぎながら消えて、黒い翼はシュルシュルと体のなかにおさまった。

 そして、赤色の宝石と緑色の宝石が、「キラリン」とかがやきながら復活した。


 黒ヒョウになった凪斗なぎとくんは、大きなあくびをして、前足をなめると、その前足でごしごしと顔をあらった。本当にネコみたい。本物のネコみたい。


 そして、のんびりとした動きで、でもかろやかにしなやかにすっごいスピードで走ると、広い広い草原に一本だけ生えているおっきな木の上に「ぴょん」っと飛びはねて乗った。そして、ふたたびあくびをすると、からだを丸めて眠りはじめた。


 本当に本物のネコみたい。


 わたしは、保健室のカベのプロジェクターに映っている、黒ネコになった凪斗なぎとくんをずっと見ていた。

 そして、いまさらな質問をつぶやいた。


「(あれ? 凪斗なぎとくんって、ずっとこのままなの……なの……なの……?)」


 わたしの声は、広い広い大草原にひびきわたった。

(本当に、どうゆう仕組みなんだろう)


 そしたらね、保健室のプロジェクターの前に相生そうじょうくんが立って、話しかけてきた。


「いえ〝火車かしゃ〟は、風水ふうすいに封印してもらいます」


「……かしゃ?」


「はい。死者を閻魔えんまさまのもとに運ぶネコの妖怪です。

 干支えとの十二支をきめるレースで、ネズミにウソの開催日を聞かされたためにレースに参加できなくて、十二支に入れなくてスネていたところを閻魔えんまさまにスカウトされたのが、凪斗なぎとのご先祖さまです。

 ですので、凪斗なぎとは封印が解けると、干支えとの十二匹の鬼を目のかたきにします」


 そうなんだ……え? ちょっとまって??


「わたしを襲ってきてる鬼って、干支えとの動物なの?

 ♪うしたつたつ〜♪

 っていう、あれ??」


 相生そうじょうくんは、メガネを「スチャ」っとかまえて返事をした。


「そうです。

 神様の世界はとてもとても複雑なのです。与党と野党があります。

 干支えとを決めた神様は今は野党です。ですから、世間からは〝鬼〟と認識されています」


 頭がぐるぐるする。むずかしすぎる。

 与党とか野党とかって、あれだよね、国会の政治家さんのことだよね?

 つまり国のために頑張ってる人。干支えとの鬼もそうなのかな? わたしをおそってきてるけど、本当は人間のために頑張ってくれるいい鬼なのかな? わからない。むずかしすぎる。


 わたしは、むずかしすぎるので考えるのをやめた。

 そして、今考えなきゃいけないことを風水ふうすいくんが言った。お父さんに変身したままの風水ふうすいくんがプリプリと怒りながら言った。


「ちょっと相生そうじょう! 勝手に凪斗なぎとの封印をとかないでって言ったでしょう!」


 相生そうじょうくんは、ニヤニヤしながら言った。


「ゴメンゴメン。でもあのままじゃ、全滅だったからさ……しょうがなく……」


「もー、ボク! 知らない!!」


 お父さんに変身したままの風水ふうすいくんは、頬っぺたをふくらませて、プイッとカワイく顔をそむけた。


 相生そうじょうくんは、苦しそうにおなかをかかえながら言った。


「と、とりあえず……変身をといてくれ!

 その格好が……面白すぎて……クク……フフフフ……」


 保健室のプロジェクターで見ている、わたしとこまち先生も、おなかが苦しくなった。だって、面白すぎるんだもん。カワイイ巫女装束みこしょうぞくで、カワイイしぐさのお父さんが面白すぎるんだもん。


 お父さんに変身した風水ふうすいくんは、ペンダントみたいに首にかけている、あおみどり色の鏡を見た。


「うそ? これがボク?? そっか、未神楽みかぐら先生に変身してたんだ」

 

 相生そうじょうくんは、笑いながら、おなかをかかえて苦しそうに言った。


「頼む、本当に頼む! 面白すぎるから……似合ってないにもホドがある」


 風水ふうすいくんは、小首をかしげて言った。


「そうかなぁ……結構カワイイと思うんだけど♪」


 そう言うと、お父さんに変身した風水ふうすいくんは、女の子が戦うアニメのエンディングみたいに「シャキン!」とカワイくポーズを決めた。


「わたし、未神楽みかぐら丙路へいじ

 日本最高の陰陽師おんみょうじ♪ よろしくね!!」


「あははははは!」

「あははははは!」

「あははははは!」


 わたしと、こまち先生と、プロジェクターに映った相生そうじょうくんは、大きな声で笑った。息ができないくらい笑った。


「あ、あかん、笑いすぎて、わき腹をつってもうた! 痛い……苦しい!」


 こまち先生は、ヒーヒーと笑いながら顔をゆがめて苦しんだ。わたしは大慌てで、わき腹をおさえるこまち先生の背中をさすった。


「(風水ふうすいくん……くん……くん。

 ふざけていないで、はやく変身をといてくれたまえ……まえ……まえ……。

 お願いだ……いだ……いだ……いだ……。

 本当にお願いします……ます……ます……ます……)」


 広い広い草原に、お父さんの声がひびいた。


「はーい!」


 お父さんに変身をした風水ふうすいくんは、ちょっと意地悪な笑顔をして、とびっきりカワイらしく手をあげた。そして、


「♪金箔金きんぱくきん! したから読よんでも金箔金きんぱくきん! ごめんね♪」


 お父さんに変身していた風水ふうすいくんは、リズムにのって、まるで呪文のような、アニメのエンディング曲のような言葉ことばを歌うようにくちずさみながら、「シャキン!」ってキメポーズをとった。


 風水ふうすいくんは、光につつまれた。


 そして、風水ふうすいくんが首からかけている、あおみどり色の鏡から光が放たれて、お父さんが出てきた。


 お父さんは、まるでこの世の終わりみたいに、ゲッソリとしていた。


 わたしは、なんとも言えない気分になった。だからね、思ったことをそのまま言った。


「ごめんなさい……」


 お父さんのこと、笑っちゃってごめんなさい。

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