第15話 ヒツジの鬼は仲間外れだったんだ。

「……の処理を実行! 大至急!!」

『……六……OK! 処理を実行……五……します』

「なるほど! おもしろくなってきた!!」


 相生そうじょうくんが、蛍光カラーのイルカに命令をすると、凪斗なぎとくんは楽しそうに答えた。そして、


金行きんぎょうかまえ! いざ参る!」


 凪斗なぎとくんは、あおみどり色の剣を後ろにかまえた。

 ピクリとも動かない、ものすごく集中しているみたい。


『二……一……零!』

「メエエエエエ!!」


 蛍光カラーのイルカのカウントダウンが終わると、ヒツジの鬼がものすごいスピードでとっしんしてきた。


釵釧金さいせんきん!」

『OK!』


 相生そうじょうくんがさけんで、蛍光カラーのイルカが返事をした。そして同時に、


「つらぬけ八卦はっけ!」


凪斗なぎとくんは、あおみどり色の剣を目にもとまらぬ速さでつきだした。

 剣は「バヒューーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!」と、すっごい速度で、ものすごく遠くまでのびて、ヒツジの鬼を「ザシュ!」ってつきさした。


 ヒツジの鬼からは、黒いケムリがたちこめた。


「やったか!?」


 相生そうじょうくんがさけんだ。でも……


「ダメだ浅い。すんでのところで急所をかわされた」


凪斗なぎとくんが冷静にいった。


「メエエエエエ!! メエエエエエ!!」


 ヒツジの鬼は、くるったような悲鳴の様なおたけびをあげた。そして、「ドスン! ドスン!」ととびはねまくった。

 からだに刺さったあおみどり色の剣をひっこぬこうともがいているみたい。


 ・

 ・

 ・

 かわいそう。

 ・

 ・

 ・


 あれ?


 わたしヒツジの鬼のしんぱいしてる? かわいそうって思ってる? 痛そうでかわいそうって思ってる? わたしのホクロの中でいっしょに暮らしていたからかな?


「メエエエエエ!! メエエエエエ!!」


 ヒツジの鬼はスッゴク苦しそうに、黒いケムリをあげながら「ドスン! ドスン!」と、のたうちまわっている。


「ぐっ!」 


 あおみどり色の剣をにぎっている凪斗なぎとくんは、必死で剣を「ぎゅ!」ってにぎっている。少しでも力をぬいたら剣を離してしまいそう。


 凪斗なぎとくんがさけんだ。


相生そうじょう!」

「なんだ?」

「無理だ! こいつを仕留めるには、本体を守っているもっふもふの毛をはぎとらないと!」

「そうか……」

「たのむ、を使わせてくれ! をといてくれ!」


 凪斗なぎとくんは、必死で剣をにぎりながらさけんだ。

 相生そうじょうくんは、メガネをくもらせた。そして、うでを組んで考えて……


「わかった」


って言った。


 相生そうじょうくんはなんだか複雑に手を動かしてカッコいいポーズを取ると、難しそうな言葉をブツブツつぶやいた。


天干てんかんつちのえ地支ちし正午しょうご、これすなわ干支相生えとそうじょう

 てんは、お天道てんと天照あまてらす! これすなわち……」


 相生そうじょうくんは、凪斗くんの背中に両手をつけて大声でさけんだ!


天上火てんじょうか!! 封印解除!!!」


 すると、凪斗なぎとくんの背中に火がついて、火はみるみるうちに凪斗なぎとくんをつつんだ。凪斗なぎとくんの体は、真っ黒コゲになってバラバラとくずれていった。


 そしてが飛び出して、広い広い草原にたった一本だけ生えているおっきな木の上におりたった。


 それは黒猫だった。黒猫って言うにはおっきすぎるかも……ヒョウかな? おっきな黒ヒョウ。


 そして黒ヒョウの後ろには、ふわふわとカラフルな宝石が浮いていた。

 白・黄色・赤色・青色・緑色・紺色・紫色、そしてピンク。全部で八色。

 すっごくキレイ。でも、黒ヒョウのほうがもっとキレイだった。黒くてつややかな毛なみが、「キラリン」と光って、すっごくキレイだった。


 あれが、凪斗なぎとくん?


「メエエエエエ!! メエエエエエ!!」


 ヒツジの鬼は、ずっと狂ったように苦しんでいるように、泣きながらあばれている。ヒツジの鬼があばれるたびに、あおみどり色の剣がブンブンとふりまわされる。

 そして、あおみどり色の剣は、おっきな木に立っている黒ヒョウになった凪斗くんめがけて襲いかかっていった。


「ガギン!!」


 黒ヒョウになった凪斗なぎとくんは、あおみどり色の剣をかるがると口で受け止めた。そして、剣をくわえたまま首をはげしくふりまわした。


「メエエエエエ!! メエエエエエ!!」


 ヒツジの鬼は、剣をくわえた黒ヒョウの凪斗なぎとくんに、ブンブンと振り回された。

 黒ヒョウの凪斗なぎとくんは、しばらくヒツジの鬼を振り回したあと、体をくねらせて剣を上に放り投げた。


「メエエエエエ!!」


 剣がささったヒツジの鬼は、そのまま宙に放り投げ出された。すっごい高くまで飛んで、グリンピースみたいにちっちゃくなった。


ソン!』


 頭の中で、凪斗なぎとくんの声が聞こえた。すると、凪斗なぎとくんの後ろでフワフワと浮いている緑色の宝石が「パキリン!」と砕けた。

 そして、黒ヒョウになった凪斗なぎとくんの背中から、おっきな羽がはえた。カラスみたいな、真っ黒な翼。


 黒ヒョウになった凪斗なぎとくんは翼を羽ばたかせて空を飛んだ。落下してくるヒツジの鬼に向かってまっしぐらに飛んでいった。


!!』


 また、頭の中で、凪斗なぎとくんの声が聞こえた。すると、凪斗なぎとくんが、真っ赤な炎につつまれた。

 炎につつまれた場所から、キラキラと赤い光が舞っている。(赤色の宝石がくだけたのかな?)


 炎をまとった凪斗なぎとくんは、落下してくるヒツジの鬼に、猛スピードでつっこんだ。

 ヒツジの鬼は、あっと言う間に炎につつまれた。そして、凪斗なぎとくんは、ヒツジの鬼をつきやぶって外に飛び出した。

 口には、バスケットボールくらいの、毛がなくてすっぱだかで、痩せ細った真っ黒なヒツジの鬼がくわえられていた。


 凪斗なぎとくんは、くわえた真っ黒なヒツジを、思いっきりかんだ。


「メエエエェェェ……」

 

 真っ黒なヒツジの鬼は、力なく叫ぶと、黒いケムリをあげてきえさった。


 わたしは、なんとも言えない気分になった。


 うっかり、わたしのホクロに入っちゃったばっかりに、友達のイヌの鬼と、ドラゴンの鬼と、ウシの鬼とはぐれて……ひとりぼっちになって、ひとりぼっちのまま死んじゃった……。


 わたしは、なんとも言えない気分になった。だからね。思ったことをそのまま言った。


「ごめんね……」


 ヒツジの鬼がいなくなったハズの左のムネが「チクン!」とした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る