第14話 みんな真剣なんだ。笑っちゃダメだよ。

 宙に放り投げられたヒツジの鬼は、おたけびを上げながら、「ズッシーーーーン」って、もっふもふの草原におりたった。


 え? ちょっとまって、これ、どうやってたおすの??


 わたしは、急いで服を着ながら、ミニイルカが保健室のカベに映している草原のモニターを見ていた。

 今までと大きさがちがいすぎる。おっきいなんてもんじゃない。


 相生そうじょうくんが、ものすごくしんけんな顔をして、蛍光カラーに光るイルカに質問した。


「Hey! オルカ」

『なんですか? 相生そうじょう

「ヒツジの鬼の特徴を説明。できるだけ詳しく!」

『OK! ヒツジの鬼。メイン属性は土行どぎょう

 補助属性は、火行かぎょう木行もくぎょう。防御特化型』


「行動を予測!」


『OK! 基本的に、単独行動は行わない鬼です。

 単独行動を今まで行ったケースは二例。

 最優先行動は逃走。

 逃走不可能な場合は、もっとも弱い敵を攻撃。

 攻撃手段は、体を丸めて突撃するローリングアタック』


「ということは……ヤバい!!」


『ヒツジの鬼は、現在気絶中の未神楽みかぐら先生を攻撃します。

 攻撃まで残り十秒……九……』


 え!? 

 ほんとうだ。お父さん、ふわっふわの草の上に倒れている。ピクリとも動かない。


『八……七……』

「やばい! やばい! 風水ふうすい!」


 相生そうじょうくんがさけぶと、風水ふうすいはもう行動していた。


「わかった! まかせて!!」


 蛍光カラーのイルカが、カウントダウンをつげるなか、風水ふうすいくんが、大急ぎでお父さんにかけよって行った。


『四……三……』


 おっきなおっきなヒツジの鬼は、その場で「ギュルギュル」と回転を始めた。そして、


『二……一……零!』

「メエエエエエ!!」


ものすごいスピードで転がって、お父さんの上を通過した。


「お父さん!!」


 お父さんは、ヒツジが攻撃した場所にはいなかった。


「はぁはぁ……金行複写きんぎょうふくしゃ……コピって八卦はっけ……ごめんね♪」


 お父さんは「はぁはぁ」しながら、風水くんのすっごくカワイイ巫女装束みこしょうぞくをまとっていた。似合わない。すっごく似合わない。


 あ、ちがう!


 お父さんじゃ無い! 風水ふうすいくんか!

 風水ふうすいくんが、お父さんに変身したんだ。でもって、お父さんを鏡の中に避難させたんだ。


「はぁはぁ……危なかった……」


 お父さんに変身した風水ふうすいくんは、カワイく女の子座りで「ペタン」と座った。お父さんに変身しちゃったから、風水ふうすいくんのカワイイ仕草がだいなしだ。


 蛍光カラーのイルカは、機械的な電子音でつぶやいた。


『次の攻撃対象は、相生そうじょう。攻撃まで残り十秒……九……』

凪斗なぎと、頼む!!」

「りょーかい!」


『五……四……』


 相生そうじょうくんが叫ぶと、ものすごいスピードで、凪斗なぎとくんが相生そうじょうくんのもとにかけよった。めっちゃ足が速い。


 凪斗なぎとくんは相生そうじょうくんをおんぶすると、


「かかってきやがれ!」


って、ヒツジの鬼を挑発した。


『二……一……零!』


「メエエエエエ!!」

「おりゃぁあ!!」


 猛スピードで転がってきたヒツジの鬼のローリングアタックを、凪斗なぎとくんは、相生そうじょうくんをおんぶしたままジャンプした。


 え? すごい、三十メートルくらい飛んだ!


『次の攻撃対象は、相生そうじょう


「ねぇ! 避けてばっかりじゃ勝てないよ! どうするの?」


 お父さんに変身した風水ふうすいくんが、カワイく両手でメガホンをつくってさけんだ。


 わたしと、こまち先生は、さっきから、口を両手でふさいで、三人の戦いをみている。


 笑いをこらえるためだ。


 お父さんが悪いんだ。あと風水ふうすいくんが悪いんだ。フワッフワのフリルいっぱいの巫女装束みこしょうぞくを着たお父さんに変身した風水ふうすいくんが悪いんだ。面白すぎる。面白すぎるなんてもんじゃない。


 だめだ……笑っちゃダメだ!

 みんな真剣なんだ。笑っちゃダメだ!!

 真剣な人を笑うのは、ダメなんだよ!!!


 それに、このままでは本当にピンチだ。だって、ヒツジの鬼の攻撃をよけつづけるしかできないんだもん。

 本当に、こんなおっきなおっきな鬼、どうやって倒せばいいの!?


『二……一……零!』


「メエエエエエ!!」

「ほい!!」


 相生そうじょうくんをおんぶした凪斗なぎとくんが、軽々とヒツジの鬼の突進をかわすと、とてもおちついた声で言った。


「うん、だいたい理解した。

 なあ、相生そうじょう。次は攻撃してもいいか?」


 凪斗なぎとくんにおんぶされた相生そうじょうくんは、興奮して言った。


「本当か!! 倒せそうか?」

「そこまではわからない。でもとりあえず避けるのにあきたから、攻撃したい!」

「わかった。派手にやってくれ」

「りょーかい!」


『二……一……零!』


「メエエエエエ!!」

「ほい!! そんでもって……どりゃあぁあああああ!」


 凪斗なぎとくんは、ヒツジの鬼の突進をギリギリのところで避けると、相生そうじょうくんを真上にぶんなげた。


「ぎゃああああ!」


 叫ぶ相生そうじょうくんにおかまいなしに、凪斗なぎとくんは、ヒツジの鬼の上に乗ると、


「召喚!」


ってさけんだ。とつぜん、あおみどり色の剣があらわれた。


「それそれそれ!」

 スパ! スパスパ! スパスパスパ!


 凪斗なぎとくんは、ヒツジの鬼を切りまくる。でもね、


「だめだ! 全くてごたえがない! 収納しゅうのう!」


凪斗なぎとくんがさけぶと、あおみどり色の剣が消えた。そして上を見上げる。


「ぎゃああああ!」


 凪斗なぎとくんは、おっこちてくる相生そうじょうくんを「ガシ!」ってお姫様だっこした。


 お姫様だっこされた相生そうじょうくんは、冷や汗をかきながら、凪斗なぎとくんにつめよった。


「お、お前なあ! 僕ふつうの人間なんだ。あんまり無茶するなよ!」


 え? どういうこと?


 頭をぐるぐるさせようとしたら、相生そうじょうくんのそばでずっとフワフワ浮いている、蛍光カラーのイルカがしゃべった。


『ヒツジの鬼の、攻撃目標が、風水ふうすいに変更されました。

 攻撃開始まで……十……九……』


「え! またこっち来るの!?」


 お父さんに変身した風水ふうすいくんが、口に手のひらをあてて、すっごくカワイイポーズでおどろいた。


 だめだ! わらっちゃだめだ!!


『五……四……』


「え! やばいよ。ボクふつうの男のなんだよ?

 こんなのに乱暴されたら、ボク、こわれちゃうよ!」


 え? どういうこと?


『二……一……零!』


「あ、ダメ!! 来る! 来ちゃう!!!」

「メエエエエエ!!」


 ヒツジの鬼は、お父さんに変身した風水ふうすいくんの上を通過して行った。


風水ふうすいくん!?」 

かがみさん!?」 


 わたしと、こまち先生はさけんだ。


 風水くん、やられてないよね!? 死んじゃってないよね!!??


 わたしと、こまち先生は、ヒツジの鬼が通過した場所をみた。お父さんに変身した風水ふうすいくんがいた場所をみた。


 いない。どこにもいない?


 そう思ったら、草原の映像が一気にズームインした。ぐんぐんズームインして、草むらの中を映した。


金行きんぎょう縮小しゅくしょう! かわいく八卦! ごめんね♪」


 お父さんに変身した風水ふうすいくんは、呪文みたいな、必殺技みたいな言葉をさけびながら「シャキン!」とカワイくポーズを決めた。(わらっちゃダメだ!)


 いっしょうけんめい笑いをガマンしたこまち先生が、指を「パチン」とならしながら叫んだ。


「な、なるほど、沙中金さちゅうきんやな!

 いっすんぼうし並にちっちゃくなれる納音なっちん術や!

 めっちゃちっちゃいアリンコが、くつで踏んづけられても死なんのとおんなじや!

 ヒツジの鬼の、モフモフの毛のスキマを上手いことすり抜けたんやな! めっちゃ賢い!」


「(そのとーり!! とーり……とーり…………)」


 広い広い草原から、風水ふうすいくんのあおみどり色の鏡の中にいるお父さんの声がひびきわたった。

(本当にどういう仕組みなんだろう)


『ヒツジの鬼が、風水ふうすいを見失いました。

 攻撃目標が、相生そうじょうに変更されます。

 攻撃開始まで……十……九……』


「(相乗そうじょうくん……くん……くん……

  ヒツジの鬼のメカニズムがわかったよ……たよ……たよ……!

  本体は、バスケットボールくらいの大きさだ……さだ……さだ……!)」


 お父さんお声は、広い広い草原にエコーをきかせまくってひびきまくると、

 保健室のカベに映った大草原は、遠くにいる凪斗なぎとくんと相生そうじょうくんを映した。

 そして、ぐんぐんズームしていく。


 相生そうじょうくんが、蛍光カラーのイルカにむかってなにかしゃべってる。


「……の処理を実行! 大至急!!」


『……六……OK! 処理を実行……五……します』


 蛍光カラーのイルカは、相生そうじょうくんの命令に、機械的な電子音で返事をした。


「なるほど! おもしろくなってきた!!」


 それを聞いていた凪斗なぎとくんが、すっごく楽しそうにしている。

 ヒツジの鬼のやっつけかたが、わかったのかな?

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