第13話 ガラスのビンは一本二千円だよ。
わたしと、こまち先生、あとついでにお父さんは、階段を降りて一階の保健室に行った。
ガラリ。
保健室には、保険の先生の
「あれ? こまち先生? どうしたんで……」
「
こまち先生は、いきなり
「
こまち先生は、たおれる
わたしは、保健室の椅子に座って服をぬいだ。上半身ハダカになると、なんだか気まずそうにしているお父さんと目があった。
お父さんは、すぐに目をはなすと、
「さ、さあ、お父さんは準備をしなきゃ!」
って、回れ右をして、
お父さんは、小さいカシューナッツみたいな宝石をかかげると、
「Hey! ミニオルカ!」
ってさけんだ。
イルカとよばれた
『ナンデスカ? ミカグラ センセイ』
「仮想ステージの様子を映して』
『OK!』
そう言うと、蛍光カラーにかがやくミニイルカは、保健室のカベにむかって光をはなった。
保健室のカベは、まるでプロジェクターみたいに「ぼぅ」っと、広い広い草原を映した。
広い広い草原に、おっきな木が一本だけ生えている。
「こちら
そう言うと、プロジェクターから声がした。
「おつかれさまです。
返事をしたのは、
「ミコ様から鬼をひっぺがしたら、すばやく
なんで? あ……わたし、上半身ハダカだった。
「みみみみみみ、見てないですから! なーんも見てないですから!!!」
あせっている。ものすごーく、あせっている。ハダカを見られちゃった、わたしよりもはずかしがっている。いつもクールな
「そそそそっそそそ、それじゃあ、こまち先生!
コチラはいつでも準備OKですから、よろしくお願いします」
そう言って、
「うふふっ、了解や!」
こまち先生は、クスクス笑いながら、カーディガンのポケットから、青色のちっちゃなガラスのビンをとりだした。
「あ、それって、さっき
「そう、お酢や!」
「え? これ、お酢なの?」
「そう、お酢や! でもただのお酢やない。全六十
「そうなんだ。鬼ってお酢でおはらいできるの?」
「効果があるんは、酸っぱいんがニガテな
鬼には、五種類の属性があって、それぞれ弱点がちがう」
そういうと、こまち先生は指をおりはじめた。
「酸っぱいんが苦手な鬼には、お酢。
苦いんが苦手な鬼には、
甘いんが苦手な鬼には、メープルシロップ。
辛いんが苦手な鬼には、とうがらしエキス。
そして、しょっぱいんが苦手な鬼には、瀬戸内海の塩」
こまち先生は、五本の指をおりまげると、最後はピースサインをした。
「どれでも一本二千円! 五本セットならお買いどくな八千八百円や!
新宿にある雑居ビルで売っとる!!」
「高い!」
「とんでもない! めっちゃリーズナブルや!
もうけなんて全然ないって、そこで働いとる先生のいとこが言うとった。実際、ふつうの店ならこんな上等なお酢、一本一万円はするハズや」
「そうなんだ……」
頭がぐるぐるする。
わたしが頭をぐるぐるさせていると、こまち先生は、わたしの左ムネをしんちょうに調べはじめた。
「……あった! めっちゃ、ちっちゃいけどあった!!」
そういうと、こまち先生は、保健室にあった手鏡で、わたしのひだりムネをうつして、そして、鏡の中を指さした。ぱっと見、なーんもないけれど、よーくよーく見ると、こまち先生の指の先に、ほんとうに、ほんとうに小さいほくろがある。
わたし、こんなところにほくろがあったんだ。
こまち先生は、「パキリン」と一本二千円の青いビンに入ったお酢のキャップをあけると、ごくごくと飲んだ。そして、
「ブっ」
って、わたしのムネにふきかけた。
「(ぎ ゃ ぁ ぁ ぁ ぁ … …)」
わたしのムネから、とってもちっちゃな声がした。そして、モクモクとちっちゃな黒いケムリがたちこめて、そしてその黒いケムリはゆっくりと、ちっちゃなヒツジになった。
本当にちっちゃい。ゴマくらいの大きさ。でもね、
ドックン!
心臓みたいな音がひびいたかと思ったら、いきなりグリンピースくらいの大きさになった。
ドックン!
今度は、ピンポン玉くらいになった。心臓みたいな音がひびくたびに、どんどんおっきくなっている。
「
さけんだのはお父さんだった。お父さんがさけんだら、ヒツジの鬼が葉っぱにつつまれて、そしてピンポン球くらいのヒツジが、糸でがんじがらめになった。
お父さんは、糸のはしっこを持って、おおいそぎでミニイルカが保健室のカベに映している、広い広い草原に向かっていった。
ドックン!
糸にからまったヒツジは、ソフトボールくらいになった。
ドックン!
糸にからまったヒツジは、バスケットボールくらいになった。
どんどんおっきくなる。そして、心臓みたいな音がひびくペースが、どんどん早くなっていく。
「急げ!
ドックン!
糸にからまったヒツジは、教室の椅子くらいのおおきさになった。
お父さんが
「うおぉおりゃあぁぁぁぁぁ!」
ドックン!
お父さんは、もっふもふの草原をゴロゴロと転がっていった。そして、ヒツジの鬼は、
ドックン!
ドックン!!
ドックン!!!
ドックン!!!!
ドックン!!!!!
ドックン!!!!!!
ドックン!!!!!!!
ドックン!!!!!!!!
ものすごいスピードで、おっきな心臓みたいな音をひびかせると、一気に、体育館くらいの大きさになった。
「おっきい! ねえ、これ大きすぎない?
こんなのに乱暴されたら、ボク、こわれちゃうよ!」
「メエエエエエエ!」
宙に放り投げられたヒツジの鬼は、おたけびを上げながら、「ズッシーーーーン」って、もっふもふの草原におりたった。
え? ちょっとまって、これ、どうやってたおすの??
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます