第12話 こまち先生が編集作業をしたよ。

「とっとと覚悟をきめてください。未神楽みかぐらさんからオニをひっぺがすためには、これしか方法ないんですから!」


 こまち先生が、お父さんをピシャリとしかりつけると、お父さんはしぶしぶうなずいた。


「……わかりました」


 こまち先生が、ため息をつく。


「ホンマ、手間かけさせんといてください!

 それじゃ、勾玉まがたま先生、作戦通りおねがいします」


「了解です。

 Hey! オルカ!」


 相生そうじょうくんが叫ぶと、フワフワとういている蛍光カラーのイルカが答えた。


「なんでしょう? 相生そうじょう?」


平地木へいちぼくの演算状況を報告!」


「OK!

 現在、進捗率九十九パーセント………………………………………………………完了しました。ゲートを開きます」


 そう言うと、蛍光カラーにかがやくイルカは、黒板にむかって光をはなった。

 黒板は、まるでプロジェクターみたいに「ぼぅ」っと広い広い草原を映した。

 広い広い草原に、おっきな木が一本だけ生えている。


木行構築もくぎょうこうちく! クラフト八卦はっけ! 失礼致す!」


 相生そうじょうくんは、メガネを「キラリン!」と光らせて、かっこよく言った。


風水ふうすい凪斗なぎと。僕たちは、この仮想フィールドで待機だ。

 こまち先生にミコ様についた鬼をひっぺがしてもらって、未神楽みかぐら先生にこの仮想フィールドへと誘導してもらう」


 風水ふうすいくんが、おどろいた。


「やっぱり、仮想フィールド使うんだ。それだけ強敵ってこと?」


「強敵!? 早く戦いたい!」


 凪斗なぎとくんが、「チャキ!」って剣をかまえてよろこんだ。


「たのんだ。存分にあばれてくれ」


 相生そうじょうくんが答えると、凪斗なぎとくんが、さらによろこんでたずねる。


もありか?」


「ああ。だ」


「よっしゃ!! これはマジモンの強敵だな!」


 よろこびがピークの凪斗なぎとくんを見ながら、風水ふうすいくんがスッゴイいやそうな顔をした。


「えぇ! を使うの? 後片付けするボクの身にもなってよ!」


「しょうがないだろう。ミコ様の力を得たオニだ。全力でいかないとこっちがやられる。頼む!」


 相生そうじょうくんが答えると、風水ふうすいくんがぷっくり頬をふくらませて答えた。


「……はーい」


 スネた風水くんもカワイイ♪


「では、ミコ様、僕たちはスタンバイしますので……あ、コラ! 凪斗なぎと!」


「ひゃっほー!」


 凪斗なぎとくんは、大喜びで、イルカが黒板に映している草原に飛び込んだ。


「ちょっと待ってよ!」


 続いて、風水くんも飛び込んだ。


「それでは、後ほど!」


 そして、相生そうじょうくんが飛び込むと、一緒に蛍光カラーのイルカがフワフワと草原の中に入って、映像はうっすらと消えていった。


「がんばれー!」

「頼んだぞ、みんな!」

「たのんだでー! こっちはまかしとき!」


 わたしと、お父さんとこまち先生は、口々に三人を応援した。


「ほな、ウチは、こっちの後片付けや! 校長先生! 二時間目はお願いします!

 あ、師匠はこんなとこおったら不審者や思われるんで、教室の外で待っといてください!」


 そう言うと、こまち先生は、右手の人差し指をたてて、こめかみをトンと叩いた。そして、


柘榴木ざくろぼく! 編集モード!」


 と叫びながら、今度は、人差し指をくるくる回した。


 するとね、クラスのみんなが、すっくと立ち上がった。辰川たつかわさんと、牛尾うしおさんは、立ち上がったと思ったら、なにかを叫んだあと、バックステップした。

 そして今度は、犬居いぬいさんが立ち上がって、やっぱり何かを叫んだ後、ニコラちゃんの机を見て、ニコニコしながらしゃべってる。


 巻き戻しだ。


 みんな、動画の巻き戻しみたいに動いている。

 こまち先生が指をくるくるまわして、みんなを巻き戻しているんだ。


 そして、こまち先生が指をくるくる回しはじめてから、みんなの頭の上に咲いていた花がかれていって、なんだか不思議な赤い実をつけている。

 こまち先生が指をくるくる回し続けると、犬居いぬいさんが猛バックダッシュして、自分の席についた。


「あとは……あ、そやった! 鏡さんと剣くんが転校してきたのに、二時間目になったらいきなり消えてまう……」


 こまち先生は、こめかみを「トントン、トントン」ってとたたくと、みんなの頭に実っている果実も「ポンポン、ポンポン」ってゆれた。果実は、ほんのちょっとだけおっきくなった。


「よっしゃ! こんなもんやろ!

 木行忘却もくぎょうぼうきゃく! おとぼけ八卦はっけ! かんにんや!」


 こまち先生は、呪文みたいな、必殺技みたいなことを叫ぶと「パチン!」と、指をならした。

 するとクラスのみんなの頭に生えていた赤い実が、「パチン!」って、黒いタネを飛ばして消えさった。みんなは、何事もなかったように目をさました。


「はーい! 二時間目を始めますよ!

 ちょっと未神楽みかぐらさんが気分悪いみたいやから、先生は未神楽みかぐらさんにつきそって、保健室行きます。授業は校長先生にたのんださかい、言うこと聞いてや!」


 とたんに教室がざわつく。


「えー、いやだよ!」

「こまち先生がいい!」

「校長先生の話ながいんだもん」

「こまちせんせー! 寝ててもいいですか?」


 すっごいブーイング!


「静かに!!」


 校長先生がすっごいおこると、教室はとたんに静かになった。


「ほんなら、校長先生、あとはよろしくお願いします。さ、行きましょう、未神楽みかぐらさん」


 そう言って、こまち先生はニコニコしながら、わたしの肩をそっと押した。

 わたしは、教室のドアを開けて外に出ると、お父さんが、ろうかで待っていた。


「いや、いつ見ても、こまち先生の柘榴木ざくろぼくはホレボレするなあ!」


「そんな、師匠にはかないません」


 こまち先生が照れながら言うと、


「とんでもない。この術でなんどミコの神通力じんつうりきの暴走を助けてもらったことか!」


 え? どういうこと?


「ホンマ、この術だけはなれました。未神楽みかぐらさんが起こす超常現象をにするんに、ホンマよう使ったから。かるく百回はこえていると思います」


 え? どういうこと?


「なんや、いきなり空を飛んだり、透明になったり、トイレの花子さん呼び寄せたり、ツチノコ呼び寄せたり、UFO呼び寄せたり、めっちゃ大変でしたから」


「ええ! わたし、そんなことしてたの!?」


「そう。そのたびに、にこまち先生がミコやクラスのみんなの記憶をにしてたんだ」


 そ、そうなんだ……。わたしは、なんとも言えない気持ちになった。なんとも言えない気持ちになったから、思ったことをそのまま言った。


「あの、こまち先生……いままで迷惑かけてごめんなさい……」


「何言ってるんや。こまった生徒を助けるんが先生の仕事や、あと、神様を助けるんが、陰陽師おんみょうじとしてのウチの任務や! 未神楽みかぐらさんは、なんも気にすることない!」


 こまち先生は、とびっきりのニコニコ笑顔でそう言った。

 うん、やっぱりわたしは、こまち先生が大好き。こまち先生のクラスで、本当によかった。

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