第11話 鬼は〇〇〇にかくれるよ。

 こまち先生は、立ち上がってさけんだ。


「そうやな……それにウチはまだ仕事が残っとる!!

 未神楽みかぐらさんにとりついた、仲間ハズレのヒツジの鬼をひっぺがすんや!!」


 忘れてた!

 わたし、鬼にとりつかれていたんだ!!


「ええ! ミコちゃんが、鬼にとりつかれていたの??」


 ミコ風水ふうすいくんはおどろきながら、教室の二階の窓から、巫女装束のフワッフワのフリルのスカートとかわいい袖をゆらしながら、ふわりんと入ってきた。


「全く気配を感じない。強敵だ! 戦いたい!」


 凪斗なぎとくんも、教室の二階の窓を、カッコよくまたいで入ってきた。

 そして、「チャキ!」と教室のスピーカーにむかって、あおみどり色の剣をかまえると、


「かかかってきやがれ!!」


ってさけんだ。すかさず、相生そうじょうくんもさけんだ。


「バカ凪斗なぎと! ミコ様と戦う気か? まずは鬼をおいだしてからだ!」


って言った。


「あ、そっか。」


 凪斗なぎとくんは、頭をかいた。そして、


「ミコ! 服を脱いでくれ!」


て、言った。


「バカ! 女の子がそんなことできるわけないでしょう!」


 ミコ風水くんが言った。いつもニコニコしている風水くんが、すごい怒っていた。


「じゃあ、どうすればいいんだよ……気配でわからないなら、目で見て探すしかないだろう? なにか、ヒントがあるはずなんだ」


 バカと言われた凪斗なぎとくんは、頭かきながらぶつぶつ言っていたら、先生がムネをはって答えた。


「先生にまかしとき! この陰陽師おんみょうじ丁番ちょうつがいこまちにまかしとき! 鬼の探し方バッチリ見つけたから!」


 よかった、いつものこまち先生だ。美少女の、天然キャラのこまち先生だ。

 こまち先生は、倒れている犬居いぬいさんに近寄ると、顔を「ジー」っとみてから、


「ほら! 泣きボクロがなくなっとる」


 って、犬居いぬいさんのけっこうカワイイ顔の目の下を指さした。


「(ほんとだ……)」


 わたしはつぶやいた。教室のスピーカーから声が聞こえてくる。

 こまち先生は、今度は辰川たつかわさんの首元と、牛尾うしおさんの耳を見た。


「うん。辰川たつかわも、牛尾うしおさんもホクロがなくなっとる。まちがいない、鬼はほくろに忍びこむんや。

 この一年で、三人のほくろがちょっと大きくなってたから、気になってたんや」


 さすが、こまち先生。みんなのことよく見ている。


「とくに犬居さんは、よく目が赤く充血しとったから、気になっとたんや。右目だけやし、なんでやろ……? って」


 相生そうじょうくんが感心してうなづいた。


「なるほど……つまりミコ様にも、ヒツジの鬼がしのびこんだホクロがあるってことですね?」


 こまち先生はスピーカーに向かって言った。


未神楽みかぐらさん、瑞子みずこさんのこと思った時に、どっか痛くならんかった?」


「(あ、はい。左のムネが「チクン」ってしました)」


 わたしの声が、スピーカーから流れると、こまち先生は、スピカーに向かってうなずいた。


「うんうん、多分やけど、未神楽みかぐらさんの左ムネに、ちいちゃいホクロがあるハズや、それをひっぺがせばエエ!

 勾玉みかぐら先生、あと、師匠、作戦会議です!」


 こまち先生は、相生そうじょうくんと、お父さんを手招きすると、三人で教室の端っこ、こそこそと話し始めた。


「ねえ? ミコちゃんは、鏡の中から出してあげていいよね?

 あと、変身も解いてあげた方がいい?」


 ミコ風水そうじょうくんは、教室の端っこでコソコソしている三人の背中に話しかけると、相生そうじょうくんがふりむいた。


「うん、よろしく!」


 そして、すぐにまたふりむきなおすと、すぐにまた三人でコソコソと作戦会議をつづけた。


「りょーかい♪」


「♪金箔金きんぱくきん! したから読んでも金箔金きんぱくきん! ごめんね♪」


 ミコ風水ふうすいくんは、リズムにのって、まるで呪文のような、アニメのエンディング曲のような言葉を歌うようにくちずさみながら、シャキンってキメポーズをとった。


 ミコ風水ふうすいくんは、光につつまれた。

 途端にあおみどり色の部屋がきえた。そしてわたしは、教室に立っていた。

 目のまえに、フワッフワのお姫様みたいな水色のワンピースを着た、風水ふうすいくんがいる。そしてわたしは、いっつも着ている、とっても普通の服を着ていた。


「おつかれさま。疲れてない?」


「うん。大丈夫……かな?」


 本音を言うと、ちょっと頭がぐるぐるしている。


 犬居いぬいさんは、鬼にあやつられて瑞子みずこちゃんをイジメていたんだ。辰川たつかわさんと、牛尾うしおさんもそう。

 だからね、きっとこのクラスではもう、イジメはおこらないんじゃないかな? だからね、瑞子みずこちゃんも学校に通えるようになるじゃないかな……?


 わたしは、頭をぐるぐるさせていると、


「えー、イヤだ! やりたくない!」


って、お父さんがさけんだ。体をくねくねモジモジさせている。なんだかちょっとはずかしい。

 そんなお父さんに、こまち先生がため息をつきながら言った。


「しゃーないじゃないですか、師匠しかおらんのですから。それにただの考えすぎやと思いますよ。ウチが聞いてきます。未神楽みかぐらさん、ちょっといい?」


 そう言うと、こまち先生は、スタスタと歩いて教室を出た。

 わたしは、こまち先生を追って教室の外に出ると、こまち先生が教室のトビラをピシャリと閉じて、こそこそと話し始めた。


「ちょっと、聞きたいんやけど(こそこそ)……未神楽みかぐらさん、師匠の前で服をぬぐの平気? 服をぬいで上半身ハダカになるの、平気?(こそこそ)」


「お父さんの前で? うん。平気だよ? なんで?」


「なんや師匠が、イヤがっとるんや。(こそこそ)

 未神楽みかぐらさんにキラワレるって(こそこそ)」


「お父さんをキライになる?? なんで??」


「……なんや、はずかしがっとるだけやと思う。(こそこそ)

 ま、ええわ。未神楽みかぐらさんが平気なんやったら、師匠にはカクゴを決めてもらわんと(こそこそ)」


 そう言うと、先生は、教室の戸をガラリとあけてニコニコにながら言った。


未神楽みかぐらさんのOKもらいました! 師匠、とっとと覚悟をきめてください!!」


「ええー、はずかしいよぉ……」


 お父さんは、くねくねモジモジしている。


「とっとと覚悟をきめてください! 未神楽みかぐらさんからオニをひっぺがすためには、これしか方法ないんですから!!」

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