未神楽ミコ。わたし鬼にとりつかれたよ。

第10話 ヒツジの鬼は仲間外れだよ。

「最後の鬼は……わたしの中にいる」


 わたしは、鏡の中のあおみどりいろの部屋で、モニターにうつっている、相生そうじょうくんと、こまち先生を見ながら言った。

 

「(最後の鬼は……わたしの中にいる)」


 わたしの声は、教室のスピーカーから流れていった。

 (ほんとうにどういう仕組みなんだろう……)


「な、なんだってーーーー!?」

「な、なんやってーーーー!?」


 相生そうじょうくんと、こまち先生はおどろいた。

 トンデモなくおどろいた。


 そりゃそうだよね。


 わたしを攻撃するはずの鬼が、わたしのなかにいるんだもん。

 わたしだっておどろいた。 


 だってね。気が付いたの、本当についさっきなんだよ。

 ついさっき、心が「チクン」としたときに、ようやく気がついたんだよ。


 「なんだってー!?」って、わたしの告白におどろいていた相生そうじょうくんは、まるでひとりごとを言うようにつぶやいた。


「なるほど、なるほど……土行どぎょうの鬼はチームワークが強い。本来であれば、四匹でフォーメーションを組んで戦います……Hey! オルカ!!」


「なんでしょう? 相生そうじょう?」


未神楽みかぐら神社の様子を映して!」

「OK!」


 そう言うと、蛍光カラーにかがやくイルカは、黒板にむかって光をはなった。

 黒板は、まるでプロジェクターみたいに「ぼぅ」っと未神楽みかぐら神社の境内けいだいをうつした。

 おっきなイヌと、ドラゴン、そしてウシの鬼が、糸でがんじがらめになっていた。

 鏡の中のあおみどり色の部屋に写っているモニターとおんなじだったから、わたしは、モニターで見ることにした。


「さすがは未神楽みかぐら先生! 風水ふうすいがワープしたあと、すかさずワープゲートに桑柘木そうしゃぼくで糸のトラップをしかけたのか!」


 相生そうじょうくんが、感心してさけんだ。

 モニターに、お父さんが半分にみきれてカッコいいポーズをとっている。


 モニターは、空中にうかんだあおみどり色のうずにきりかわった。

 うずの中から、凪斗なぎとくんが飛び出して、サイコロを投げている。


「きた、きた、最高の目が出た! 城頭土じょうとうど


 凪斗なぎとくんが叫ぶと、突然、あおみどり色の剣があらわれた。

 ちがう、よく見ると剣の先っぽに、でっかいカタマリがくっついている。

 キラキラとかがやくでっかいカタマリ。ハンマーみたい。ゴールデンハンマー。


 ゴールデンハンマーを持った凪斗なぎとくんは、かっこよく「スチャ」と、未神楽みかぐら神社の玉砂利のうえに降り立つと、


「うおりゃあああああ!」


と、思いっきりちからをこめてゴールデンハンマーをふりあげた。


 すっごいちからもち。


土行どぎょう頑丈がんじょう! つぶして八卦はっけ! 御免ごめん!」


 凪斗なぎとくんは、呪文みたいな必殺技にたいなことをさけんで、ゴールデンハンマーを、糸でこんがらがった三匹の鬼にめがけてふりおろした。


「キャンキャン!」

「グオオオオオオッ!」

「モオオオオオオッ!」


 三匹の鬼は、まっくろなけむりになって消えさった。


「楽勝!」

「楽勝♪」

「楽勝! ミコ! お父さんがんばったよ!」


 凪斗なぎとくんが、ピースをしている。

 ミコ風水ふうすいくんが、かわいくポーズをとってる。

 そして、お父さんだけ、よけいな事を言っている。なんだかちょっと恥ずかしい。


 こまち先生は、ビックリした顔で言った。


「さすが巫女のナイトや! 鬼をあっちゅうまにたおしてもうた」


「いえ、今回は、鬼がそろっていなかったからです」


 相生そうじょうくんは、首をふると話をつづけた。


「さきほど言ったように、土行どぎょうの鬼は、四匹一組の鬼です。


  攻撃力特化のウシの鬼。

  素早さ特化のドラゴンの鬼。

  知性特化のイヌの鬼。

  そして、防御特化のヒツジの鬼


 ヒツジの鬼が前衛で攻撃を受けながら、ウシの鬼とドラゴンの鬼が、連携れんけい攻撃をする。そしてイヌの鬼がスキをついて急所をひとみ。それが土行どぎょうの鬼の戦い方です」


「なるほど、その防御を担当するヒツジの鬼が、未神楽みかぐらさんの中に封じこめられて動けんようになった。ってことやな?」


 こまち先生の質問に、相生そうじょうくんがうなづいた。


「はい。未神楽みかぐら先生から、ミコ様の外出着は、桑柘木そうしゃぼくの糸でつくられた特注品と聞きました。去年までなら、それでほとんどミコ様の神通力を封じ込めることができていたと。

 おそらく、ミコ様と普通の生徒の区別がつかないまま、うっかり体の中にしのびこみ、そのまま出られなくなったのでしょう」


「そっかぁ……」


 こまち先生は、目をゴシゴシとふいた。泣いていた。


「鬼は、心の弱った人にとりつく。でもって、その人の心の中で力をつける。

 犬居さんは、クラスで一番美少女の、瑞子みずこさんに嫉妬してもうて、鬼にとりつかれたんやな。

 鬼にとりつかれた犬居さんが、瑞子みずこさんイジメてもうて、それを止めることができんかった、犬居いぬいさんとなかよしの辰川たつかわさんと牛尾うしおさんにも、他の鬼がとりついてもうて……そして……瑞子みずこさんとなかよしの未神楽みかぐらさんにもとりついてもうた」


 こまち先生は、がっつりおちこんで、その場にへたりこんだ。


「ウチは先生失格や。犬居いぬいさんのイジメを止めることができんかった。

 でも、陰陽師おんみょうじとして……未神楽みかぐらさんを守る仕事があるから、せめて未神楽みかぐらさんが卒業するまでと思うとったけど……イジメの原因が鬼だったことすら見抜けんかった」


「(こまち先生……)」


 わたしがつぶやくと、声が教室のスピーカーから流れた。

 こまち先生は、スピーカーにむかって正座をして、頭を下げた。


「ごめんなぁ! 未神楽みかぐらさん!!

 ごめんなぁ! 瑞子みずこさん! ウチがポンコツなばっかりに!

 ウチは先生失格や! でもって、陰陽師おんみょうじ失格や!!」


「とんでもない!」

「とんでもない!」


 教室の二方向から、声がした。

 ひとつの声は校長先生。教室のドアをガラリとあけて入ってきた。

 もうひとつの声はお父さん。二回の教室の窓に立っていた。


 校長先生は、教室のゆかにへたりこんだこまち先生の前にすわって、こまち先生の目をまっすぐと見て言った。


「こまち先生ほど、生徒に好かれている先生はいませんよ。こまち先生が先生失格なら、生徒に人気のない私は人間失格だ」


 たしかに! 校長先生はお話がものすごく長いから、ものすごくキラわれている。あと全然お話が楽しくない。

 お笑い好きでアイドル好きで、いっつもニコニコしているこまち先生の話とはおおちがい。


陰陽師おんみょうじ失格だなんて、とんでもない!」


 今度はお父さんが言った。お父さんはヨタヨタと教室の窓をまたぎながら言った。


「ミコの神通力が暴走したとき、こまち先生に、どれだけ助けてもらったか。記憶をにできる、柘榴木ざくろぼくを自在につかいこなす、世界で五本のゆびに入る、最高の陰陽師が失格なら、この世界から陰陽師はいなくなってしまう!」


「でも……」


 こまち先生はメソメソとなきづづけた。

 わたしは、胸が「チクン」とした。こんなの全然こまち先生じゃない。

 こまち先生は、いっつもニコニコ笑っている先生なんだよ。

 いっつもニコニコ笑って、天然ボケで楽しい先生なんだよ。


 だからね。わたしは言った。


「(先生がやめるんなら、わたしは学校行きません!! 学校がつまんなくなる!)」


 するとね。


「それはアカン! 学校はオモロいところや! 楽しいところや! いかんとソンや!」


ってこまち先生が言ったから、言いかえしてやった。ビシッと言いかえしてやった。


「(わたしは、こまち先生がいないと楽しくないです!

 わたしは、こまち先生が好きだもん! 小町先生がいないと楽しくないです!)」


 そしたらね。こまち先生は、


「未神楽さん、こんなポンコツな先生をゆるしてくれるん?」


って言った。

わたしはさっぱりわかんないから聞いてみた。


「(ゆるす? なにを?

 こまち先生のせいじゃないって、お父さんも校長先生も言っているよ? こまち先生はがんばってるよ)」


 そしたらね。こまち先生は、すっくと立ち上がっておっきな声をだした。

 ふっきれたようにさけんだ。


「そうやな……それにウチはまだ仕事が残っとる!!

 未神楽みかぐらさんにとりついた、仲間ハズレのヒツジの鬼をひっぺがすんや!!」

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