第8話 続:わたし、転校生になったよ。

 わたしと凪斗なぎとくんは、こまち先生についていって、二階にある五年二組の教室にむかった。

 五年二組だけ、ちょっとさわがしかった。

 他の教室は、もう、あさの会が始まっているんだ。


 こまち先生は、五年二組の教室のドアを「ガラリ」とあけた。

 たちまち、教室が静かになる。

 クラスメイトのみんなは、こまち先生についてきている、わたしと凪斗なぎとくんをじっと見ている。


「きりーつ!」


 日直の犬居いぬいさんが大きな声をあげた。

 出席番号一番。勉強も一番。クラスのリーダー。そしてかなりカワイイ。右目の下にあるホクロ(「泣ぼくろ」って言うんだよ)が、チャームポイント。


「れーい」

「おはよーございます!」


 いつものあいさつ。そして、こまち先生はいつもとちがうあいさつ。


「はーい。今日からこのクラスに転校してきたかがみさんと、つるぎくん。

 あ、黒板に名前を書いてもらっていいかな?」


 わたしと凪斗なぎとくんは、黒板にチョークを「カツカツ」と言わせながら名前を書いた。

 だいじょうぶ。『かがみ』はキッチリ練習したもの。四年生でならったもの。


 わたしは『かがみニコラ』って、バッチリかいた。

 となりの凪斗なぎとくんもバッチリかいた。『』の点が一個多かったけど。


 わたしたちが、名前をかいてふりむくと、こまち先生が、


「じゃ、かがみさんから自己紹介おねがいね」


と言った。


かがみニコラです。お父さんが日本人で、お母さんはフランス人です。よろしくおねがいします!」


 クラスのみんなの拍手のあとに、つるぎくんがつづいていった。


つるぎ凪斗なぎとです。足の速さには自信があります。よろしくおねがいします!」


 そうなんだ。凪斗なぎとくん、やっぱり、足が早いんだ。


 自己紹介が終わってキンチョウがほぐれたわたしは、クラスのみんなを見た。男の子と目があうと……みんな、目をそらしちゃう……なんで?


 あ! そうか、風水くん……じゃない、ニコラちゃんがカワイイからだ。

 でもって女の子は……みんな凪斗なぎとくんを見ている。イケメンだからだ。


 大人っぽくて、ハーフのカワイイ女の子と、足が速いイケメンくんが転校したんだ。これはちょっとした事件だよね。


「じゃ、席は、未神楽みかぐらさんのりょうどなりね。未神楽みかぐらさん、ふたりのお世話がかりよろしくね」


「はい♪」


 ミコ風水くんが、カワイらしく手をふっている。

 うん、わたし、わたしからみてもけっこうカワイイ♪


 わたしも、ミコ風水くんに手をふりかえすと、日直の犬居いぬいさんが、ミコ風水くんをにらみつけていた。


 やな予感がする。


 ・

 ・

 ・


 あさの会がおわって、一時間目がおわって、休み時間になった。


 わたしが、ミコ風水くんに話しかけようかなと思ったら、犬居いぬいさんがダッシュで近づいてきた。そして、


「わたし、犬居いぬいカナメ。こまったことがあったら、なんでもわたしに聞いてね」


と、言ってすっごく可愛い笑顔をした。


 見たことない笑顔だった。犬居いぬいさんがこんな笑顔で、わたしに話しかけてくるのはじめて。


「あ、ありがとう」


 わたしは、せいいっぱいの笑顔でいった。

 犬居いぬいさんは話をつづける。


「ねえねえ、ニコラちゃんってよんでもいい?」

「……う、うん」


「わたしのことは、カナってよんでね!」

「……う、うん」


「ニコラちゃんは、前の学校はどこだったの? ひょっとしてフランス!?」

「え……えっと……」


 こまったな。こんなにグイグイ質問されちゃうと、わたしが変身しているのがバレちゃいそう。


「ニコラちゃんは、わたしのグループにいれてあげるね」


 ……それは……いやだ。犬居いぬいさんのグループはイヤだ。だって覚えているもの。去年、わたしの友達にしたこと、覚えてるもの。


 わたしは、心が「チクン」とした。


 だからね。わたしは、言うことにした。勇気をだして言うことにした。


「……えっと……わたし……」


 するとね、凪斗なぎとくんがいきなり言った。


「お前は悪いヤツだ!」


「はぁ!?」


 犬居いぬいさんはすっごい顔して凪斗なぎとくんをにらんだ。

 凪斗なぎとくんはポケットに手を突っ込むと、青色のちっちゃなガラスのビンを取り出した。

 そしてキャップを「パキリン」とあけると、ゴクゴクと飲んで、


「ブッ!」


 って、犬居いぬいさんにふきかけた。


「ギャアアア!」


 犬居いぬいさんから、もくもくと黒いケムリがたちこめた。そしてその黒いケムリはゆっくりと、おっきなイヌの形になっていった。ツノが生えた、おっきなイヌの鬼。


 おっきなイヌの鬼を出した犬居いぬいさんは、その場にパタリとたおれた。


 教室はおおさわぎになった。みんなおどろいて、スッゴイおおさわぎ!


「どうしたのみんな!?」


 さわぎに気がついて、こまち先生がもどってきた、そして、


「うわ、鬼がおるやん! コワッ!! え! なんで? ホンマなんで??」


 教室のだれよりもおっきな声でさけんだ。もう本当にビックリしていた。


 おおさわぎの教室の中、凪斗なぎとくんがさけんだ。ちょっとうれしそう……。

  

「きた! きた! さっそく、おでましになった! 相生そうじょう! 作戦は?」


「バカ! なんて所で戦闘をはじめてるんだ!」


 狩衣かりぎぬを着た相生そうじょうくんが、教室の窓をガラリとあけて入ってきた。

 え? ここ二階だよ??


 相生そうじょうくんは、窓をひらりとまたいで、教室におりたつと、あおみどり色のカシューナッツの宝石をかかげて、


「Hey! オルカ!」


とさけんだ。

 

 オルカとよばれた宝石ほうせきは、「ぼうっ」と光った。そして、ふわりとうかぶと、光はみるみるとイルカみたいな形になって、蛍光カラーでかがやいた。


『なんですか? 相生そうじょう


「作戦を説明!」


『OK! 鬼の数は合計四匹。まだ三匹は生徒の中にかくれています。

 弱点は、木行もくぎょう

 風水ふうすいはミコ様のみがわりを。

 凪斗なぎとは、ひきつづき鬼を探索。

 相生そうじょうは、バトルステージを作成。

 こまち先生は、生徒のアフターケアを』


「りょーかい!」

「りょ〜かい♪」

「了解!」

「了解や! 先生めっちゃがんばる!」


 凪斗なぎとくんとミコ風水ふうすいくんと相生そうじょうくんがさけんだ後、こまち先生だけ、よけいなこといってる。ガンバリすぎてて、ちょっとはずかしい。


 ミコ風水ふうすいくんは、教室の後ろにある荷物置き場から、朱色のスクールバックをとってカバンの中から、あおみどり色の鏡のペンダントをとりだした。そしてそれをすぐさま首にかけると、両手をわたしに広げてさけんだ。


「ニコラちゃんは鏡に入って。金箔金きんぱくきん!」


 ミコ風水ふうすいくんが、両手をわたしのまえに広げると、あおみどり色の鏡から、まぶしい光がでてきた。

 そして、わたしを照らすと、風水ふうすいくんのカラダが光につつまれた。


金行複写きんぎょうふくしゃ! コピって八卦はっけ! ごめんね♪」


 なんだか呪文みたいな、必殺技みたいなことをさけんで、アイドルみたいにシャキンとキメポーズをとった。


 ミコ風水ふうすいくんは、すっごくかわいい巫女装束みこしょうぞくをまとっていた。


 そしてわたしは、ニコラちゃんのすがたのままで、ふしぎなあおみどり色の場所にいた。宙にうかんだでっかいモニターが、ミコ風水ふうすいくん、相生そうじょうくん、凪斗なぎとくん、あとついでにこまち先生をうつしていた。かがみなかだ。


 相生そうじょうくんがさけんだ。


「凪斗、僕が、バトルステージを作る前に、なんとしても鬼に取り憑かれた生徒をさがしだしてくれ!」


「了解。二匹は、もうどこに隠れているかわかっている。だけど本当に四匹か? 三匹しかいないぞ!?」


 ミコ風水ふうすいくんがおどろいた。


「え? 凪斗なぎとでも、気配がわかんないの? ヤバくない?」


 教室がさわがしくなる。もうみんなパニックだ。


「みんな! おちついてや! めっちゃおちついてや!」


 こまち先生が一番あわてている。めっちゃあわてている。

 凪斗なぎとくんも、風水ふうすいくんも、相生そうじょうくんもあわてている。


 そんななか、わたしはすごい落ちついていた。

 だって、鬼に取りつかれた三人が、すぐにわかっちゃったから。

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