第6話 わたし、金髪の美少女になったよ。

 朝がきた。月曜日の朝が来た。三学期のさいしょの朝がきた。


 わたしは、ドレスみたいなフリルいっぱいの、ふわっふわの水色のワンピースを着て、水色のスクールバッグをせおって、水色のピカピカのエナメルのくつをはいて、家を出た。


「新しい学校楽しみ♪」


 おにんぎょうさんみたいな風水ふうすいくんが言った。


 肩くらいの長さの黒い髪で、パッツンの前髪。

 でもって、朱色のスクールバックと朱色のスニーカー。そしてとってもふつうな服を着て、どこにでもいそうな、でもけっこうカワイイ(と思う)ふつうの女の子。


 お人形さんみたい。日本人形。


わたしに変身した風水ふうすいくんだ。

そして、わたしは風水ふうすいくんに変身している。


 腰くらいの長さのサラサラの金髪をツインテールにして、ドレスみたいなフリルいっぱいのフワッフワワンピースをきて、だれもがふりかえりそうな、すっごくカワイイハーフの女の子。


 わたしと、風水ふうすいくんは、ふたりならんで学校に登校している。

 でもって、その後ろを、あくびをしながら凪斗なぎとくんがついてきている。


 話はきのうにさかのぼる。ちょっと、せつめいするね。


 ・

 ・

 ・


 夕方、わたしはテレビをみながら、いろいろ説明を受けていた。

 テレビには、カラフルな着物を着た人たちが、手をあげて座布団ざぶとんをほしがる番組が映っている。


「……つまりミコ様には、できればこの未神楽みかぐら神社から、一歩も外に出ていただきたくないのです」


「え? 学校いっちゃダメなの?」


 学校は、べつにそんなに好きじゃない、でもそんなにキライでもない。


 ふつう。


 たまには「休みたいなー……」って思うときもあるけど、休まない。

 よのなかにはね、行きたくてもいけない子もいるんだよ、だからね、わたしはキッパリいった。


「ダメだよ、ズル休みはいけないよ!」


「……です……よね、やっぱり」


 相生そうじょうくんのメガネがくもった。


「そうだよ、ボク、ミコちゃんと学校に行きたいよ! ね、凪斗なぎと!」


「…………」


 風水ゆうすいくんのことばに、凪斗なぎとくんは答えなかった。


座布団さぶとん一枚! もう一枚!!」


 リモコンのdボタンで、オレンジ色の着物の人に、座布団ざぶとんをあげるのに夢中だった。この番組、好きなんだ……。


 相生そうじょうくんは、メガネをとって、ハンカチでふきながらいった。

 メガネをとった相生そうじょうくんも、とってもイケメンだった。切れ長一重ひとえの、塩顔しおがお系イケメン。


「しかたがないですね……まあ、授業は日暮れまえには終わりますし、風水ふうすい凪斗なぎと護衛ごえいがあれば問題ないでしょう」


「さすが、相生そうじょう! 話がわかる! ダイスキ!」


 風水ふうすいくんが笑顔でいった。

 相生そうじょうくんは、メガネを「すちゃ」とかけると、クールにいった。


「ただし、影武者がげむしゃをたてるのが条件です」


「かげむしゃ?」


 なにそれ?


百聞ひゃくぶん一見いっけんにしかずです。風水ふうすい!」


「はーい♪」


 風水ふうすいくんは、テレビの着物をきている人みたいに手をあげたあと、わたしに向かって手をひろげた。


金箔金きんぱくきん!」


 風水ふうすいくんが首からかけている、あおみどり色の鏡から、まぶしい光がでてきた。

 そして、わたしをらすと、風水ふうすいくんのカラダが光につつまれた。


金行複写きんぎょうふくしゃ! コピって八卦はっけ! ごめんね♪」


 風水ふうすいくんは、わたしに変身した。そしてつづけざまにさけんだ。


白鑞金はくろうきん

 金行貼付きんぎょうはりつけ! ペタっと八卦はっけ! ごめんね♪」


 風水ふうすいくんが首からかけている、あおみどり色の鏡から、まぶしい光がでてきた。

 そして、わたしをらすと……あれ? なんにもかわってないよ。


「ミコちゃん! 鏡をみて♪」


 風水ふうすいくんは、首からかけてある、あおみどり色の鏡をゆびさした。


「え? 風水ふうすいくんが映ってる!?」


 鏡に映った風水ふうすいくんは、すっごくおどろいている。ってことは、えーと……。


「ミコちゃんは、今、ボクに変身中♪」


 え? これ、わたし??


「学校では、ミコ様は、風水ふうすいを演じていただきます」


「ややこしいから、『ニコラ』って名乗ってね。ボクのミドルネーム。フランスではそう呼ばれてたんだ。男の子の名前だけど、日本だと女の子っぽくきこえる名前だし」


 え? 女の子??

 わたしは、胸をさわった。わたしにはまだないがあった。


「やっぱり、風水ふうすいくん、本当は女の子だったの!?」


「ちがうちがう。ボクは、それほど神通力じんつうりきがないからね。性別まではかえることができないの♪」


「え? ってことは、目の前にいるわたしに変身した風水ふうすいくんは……」


「そう、男ののままだよ♪」


 そうなんだ……女の子にしかみえない。カンペキにわたしにそっくり……。


 ・

 ・

 ・


 そんなわけで、今、風水ふうすいくんに変身した女の子のわたし。

 そして、わたしに変身した男の風水ふうすいくんがなかよく登校している。


 バレない……よね?

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