第95話 潜入準備②〜出発

 

 ☆大変お待たせしました!

 書籍化作業がひと段落したので、ぼちぼち更新を再開します。




 ☆




 同時に提案を口にしたラーナと詩乃。


「ん?」と顔を見合わせた二人を前に、誠治がひざを打った。


「そうか! 『戻る』のか!!」


 自分たちの意図を察してくれた誠治に、嬉しそうな笑みを浮かべて頷く二人の少女。

 一方で、上司たちは首を傾げている。


 誠治は傍らに置かれた指示棒を手にとり、円形テーブル中央に広げられた地図の一部を指した。


 棒の先にあるのは、敵軍を示す駒だ。


「敵の現在の位置は不明。では、過去の位置はどうです?」


「……さっきの話だと、二週間前の位置は分かるわね」


 誠治の問いに答えるディートリンデ。


「仮に俺たちが二週間後にノートバルト入りすると仮定すると、敵はその分こちらに近づくわけですから、情報のラグはかなり縮まりますよね」


 誠治は棒を使い、敵軍の駒を北……ノートバルト側に進める。


「そうですな」 「うむ」


 頷くポコナーとゴーダ。


「では、その時点で確認できた敵位置に、俺たちが急行すればどうなるでしょうか?」


 誠治は、敵をさらに北方に動かした後、元々敵がいた位置に自分たちを示す駒を動かす。


 そこでやっと上司たちも理解したようだった。


「なるほど! 直接敵を目指すんじゃなくて、一度敵を飛び越えておいて、ヴァンデルム側から敵の足跡を追うわけね」


「たしかに、この方法なら確実に敵と接触できますね」


「デ号の機動力を活かした、うまい方法じゃな」


 歓声をあげるディートリンデとポコナー。

 ゴッ、ゴッ、ゴッ、と笑うゴーダ。


 誠治が少女たちに親指を立ててみせると、詩乃とラーナは嬉しそうに頷いたのだった。




 ☆




 それから十日間。

 関係者は皆、誠治たちの出発準備に明け暮れることになった。


 ポコナーは会議のときに提案された敵軍接触方法を実現すべく、ヴァンダルク王国に潜入させている間諜たちに指示を伝達。


 ゴーダは誠治たちが軍内で自由に動けるよう、各所に根回しをしてまわった。


 そして主役の誠治たちは、デ号に乗り込み操縦訓練を行う傍ら、ディートリンデと話し合って対勇者用の戦術を考え、連携を確認する。


 誰もが、怒涛のような勢いで準備を進めていた。


 が、一番忙しく仕事をしていたのは、魔導科学省技術開発局の面々だろう。


 彼らは局長ガリウルの指示のもと、


 ①誠治の魔力を魔導エンジンに伝える魔力供給ラインの製作


 ②多方位監視モニターの設置


 ③詩乃の防御シールドを簡易に、定位置に展開できるようにするためのシールド補助装置の製作


 と、急ピッチで設計製作を進めた。


 尚、これらのシステムは魔導飛行実験艦シュバルツシルトに搭載されているものをベースに開発が行われたため、一応、既存技術の範囲で実現することができている。


 とはいえ、それぞれ設計から始めなければならなかった訳で、わずか十日でデ号への実装にこぎつけるために、実に百人近い人間が開発工場に泊まり込み、不眠不休で作業にあたったのだった。



 そして、出発の日がやってきた。




 ☆




「それでは、行ってきます」


 シュバルツシルトのタラップの前で、誠治たちは見送りに来た魔王ルシアに敬礼した。


「向こうの勇者たちのこと、お願いね」


 ルシアの言葉に頷く三人。


「とはいえ、私からあなた達への命令は一つだけよ。『必ず生きて帰って来なさい』」


「「は!!」」 「はい」


 短く応える誠治とラーナ。

 頷く詩乃。


 ブーーーーーーーー


 その時、あたりに劇場のブザーのような音が響いた。


「セージ様、シノ様。発艦しますのでご搭乗願います!」


 タラップの横に立つ兵士が声をかけてくる。


「あ、ああ。分かった。今行く。––––それでは、ちょっと行ってきます!」


「ええ。いってらっしゃい」


 慌ててタラップを駆け上がる誠治たちを、微笑を浮かべて送り出すルシア。


 やがてタラップが跳ね上げられて格納され、乗艦用の扉が閉められる。


「……頼んだわよ、みんな」


 今は亡き夫が遺した白い飛行戦艦を見上げたルシアは、そう呟いたのだった。




 ☆




「セージ殿。また一緒に飛べるとは、感無量ですぞ」


 誠治たちがブリッジに入ると、ドワーフハーフの艦長ガルムが嬉しそうに出迎えてくれた。


「セージさん、しばらくぶりですね!」


「よお、元気にしてたか?!」


「またご一緒できて光栄です」


 砲術担当士官のマイラス、オニ族の砲術長、ヴァンパイアハーフの女性航海長が、それぞれの席から声をかけてくる。


 彼らと顔を合わせるのは、ノートバルトから魔王国にやって来た3ヶ月前以来だ。

 あの時は、誠治の魔力が魔導ジェットエンジンを暴走させてしまい、大変な目にあった。


「みんなも元気そうでなによりだよ」


 手をあげて返す誠治。

 そんな彼に艦長ガルムは手で座席を指してみせた。


「セージ殿は手前の席に。シノ殿は魔王様の座席にお座り下さい。ラーナは前回と同じ補助シートに座ってくれ」


「手前の席って……これ、新しくしつらえたのか?」


 魔王ルシアの専用席に並ぶように設置された、もう一基の座席。

 なにやらごてごてと機器のついたその椅子は、前回搭乗した際にはなかったはずだ。


 ガルムは頷いた。


「セージ殿の専用席ですな。セージ殿の魔力を魔導ジェットエンジンに送ることができるよう、魔力伝達路と非常用の魔力遮断機構がついとります」


「魔力遮断機構ってのは……」


「前回のアレ対策ですな」


 ハッハッハッ、と笑う艦長。

「ははは……」と乾いた笑いを返す誠治。


 いやまあ、笑いごとじゃないよな、と誠治は心の中でツッコミを入れる。


 3ヶ月前の魔力暴走で、シュバルツシルトは建艦以来の最高速度をマーク。

 あわや空中分解というところまでいったのだった。


「……という訳で、今回の航海では最初からセージ殿の魔力をあてにさせて頂きますぞ」


「話は聞いてます。前回と同じ要領でいいですか?」


「ええ、お願いします。––––総員、出港用意!」


「『総員、出港よーい!』」


 艦長の指示を受け、航海長が伝声管に向かって叫ぶ。

 途端に慌ただしく指示と報告が飛び交い始めた。




 そんな中それぞれの席に着き、シートベルトを締める誠治、詩乃、ラーナ。


「さて。前回みたいなことにならなきゃいいが……」


 誠治の呟きに、隣の席の詩乃が反応する。


「おじさまなら大丈夫です。それにもしもの時は、私がいますから」


 その言葉に、今度は後ろの補助席から不満そうな声が上がる。


「シノ、抜けがけはダメ。––––セージ、私とシノがバックアップするから、安心していい」


 もちろん、ラーナだ。


「二人とも、ありがとう。頼りにしてるよ」


「はいっ」 「……どんとこい」


 誠治は苦笑すると椅子に座り直した。


「それではセージ殿、お願いしますぞ」


 ガルム艦長の言葉に、誠治は一度だけ深呼吸をした。


「––––いきます!」


 そう宣言し、両腕を置いた肘掛けに自分の魔力を注ぎ込む。


 フィイイイイーン


 静かな音とともに肘かけが光り、座席が光り始める。


 座席に埋め込まれた配線を通じ、シュバルツシルトの魔導回路に誠治の魔力が供給され始めたのだ。


 反応はすぐに現れた。


「魔導回路、圧力上昇。……35、40、50、70…………100。魔力制限術式、起動。リミッターの稼働を確認」


「メインエンジンスタート。……魔力入力5%で安定」


 オペレーターたちが矢継ぎ早に数字を読み上げてゆく。

 そして、


「平衡維持術式起動。浮上術式起動。浮上します」


 ごうん、という音とともに船台から浮き上がるシュバルツシルト。


「出港用意、完了しました!」


 航海長の報告を受け、艦長のガルムが号令をかける。


「出港!!」


 誠治たちを乗せた白く輝く流線形の船は、同盟国の待つ空に向けて舞い上がった。








 ☆いつも本作を応援頂きありがとうございます。今日は二点ご報告があります。



 ①本作の書籍版の発売日が決まりました!

 7/5(火)、イラストを担当頂いた しあびす様 の素敵な詩乃が目印です。

 物語のあのシーンやそのシーンの挿絵もたくさん入ったお得な一冊となっておりますので、ぜひお手に取って頂ければ幸いです!


 ↓ドラゴンノベルス様作品ページ

 https://dragon-novels.jp/product/dragon3rd/kutabire/322203002014.html



 ②カクヨムフォロワー様向けSS配布について

 カクヨムの本作フォロワー様に、書籍版の発売日前後で特典SSがメール配信されます。

 当分は一般公開できないと思いますので、この機会にぜひフォロワー登録と、できれば☆での応援をお願い致します!


 以上二点、ご報告でした。


 引き続き本作と、並行連載中の「ロープレ世界は無理ゲーでした」の応援をよろしくお願い致します!!



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