第93話 対勇者・対策会議 ③

 

「落ち着けぇ」


 浮き足立つ出席者たちに、派遣軍司令官のゴルドーが唸った。


「圧倒的な数の差だが、そこは問題じゃねえ。相手が普通の人間だけならうちの火力ですり潰せる。問題は5人の勇者だ。ヴァンダルクが動いたということは、勇者の育成に目処がついたっつうことだ。奴ら次第で戦局はがらりと変わる。……そうだな、ロベルト?」


 ゴルドーの問いに、傍らに立つ狐人族の副官が答える。


「は。異界の勇者が放つ技や魔法は効果範囲が広く、戦場を一変させます。彼らに敵として力を行使されれば、負けはしなくとも甚大な被害を覚悟しなければなりません。逆に言えば、彼らに仕事をさせなければ我々が優位に戦いを進めることができると考えます。魔王国とノートバルトは先日の大暴走(スタンピード)の後すぐ、ヴァンダルクの侵攻に備え、想定される戦場の陣地構築に取り掛かっているからです」


 その言葉に、一同から「おお」と感嘆の声があがる。

 ゴルドーはニヤリと笑った。


「っつーことだ。勇者対策については、情報局と特殊作戦部に任せることになる。……頼むぜ、お前ら」


 最後の言葉は、どうやら誠治たちに向けられたものらしい。

 誠治と二人の少女は、そろって頷いた。




「それでは続いて、ヴァンダルク側の勇者たちの情報をお願い致します」


 ディートリンデに促され、情報局から敵側勇者の情報が発表される。


 性別、年齢、能力、そして現在の王国内の立ち位置と交友関係。

 加えて、勇者一人ひとりに対する、様々な角度からの分析結果も報告された。


 誠治たちにとって意外だったのは、戦略上最も危険だとされたのが、土の加護を持つOL風美女だったことだ。

 彼女の魔法は土を操り、広範囲に地形を変えることができる。同盟軍側の守りの要である防御陣地が大きく破壊されれば戦線が一気に崩壊しかねない、という見解が出されていた。


 勇者の情報の発表が終わり、いよいよその対策に議題が移る。


 それまで進行役に徹していたディートリンデが、口火を切った。


「さて。ここまでの議論で『いかに敵方の勇者たちを戦闘に参加させないかが重要』という点については異論がないと思います」


 エルフの部長が参加者の顔を見回す。

 魔王ルシアがゆっくりと頷いた。


「そこで特殊作戦部としては、戦闘開始に先立って我が方の勇者であるセイジとシノに敵方の勇者に接触してもらい、彼らの離反を促すことを提案致します」


 あちこちでざわめきが起こった。




 ––––どうやって接触するんだ?


 ––––敵中に潜入するしか……


 ––––勇者とはいえ、何の訓練も受けてないのに、そんなことできるのか?


 ––––無理筋だろう


 そんな声が、誠治たちの耳にも聞こえてきた。


 それらを黙らせたのは、ディートリンデだった。

 彼女は、バンっとテーブルを叩いて立ち上がった。


「陛下の指導によって、シノのメンタルリンクの接続距離は今や1kmを超えるようになりました。また潜入にあたっては情報局のホープである星詠みのラーナも同行します。この二人とセージの膨大な魔力量があれば、不可能ではないと思いますが、いかがでしょうか?」


 彼女の剣幕に、おし黙る会議参加者たち。

 エルフの部長は、さらに言葉を付け加えた。


「セージ。あなたたちの考えを聞かせて」


「え、俺???」


 突然話を振られ、動揺する誠治。


「ええ。あなた達自身はこのミッション、遂行できると思ってる? それとも無理かしら?」


 どこか挑発的なその言葉に、誠治は即答する。


「できます。彼女たちとも話し合いました。相手をうまいこと説得できるかどうかは分かりませんが、少なくともやってみること自体は可能です。……その代わり、使わせて頂きたいものがあるんですが」


 彼は一度エルフの部長に目をやり、その後ルシアを見た。


「なにかしら?」


 首をかしげる魔王。


「国立魔導科学博物館に展示されている『魔導飛行実験機デ号1.21型』を使わせて下さい。あと、あの機体の改造許可もお願いします」


 再び騒めく会議室。


 ルシアも驚いたのか、わずかに目を見開いた。







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