第92話 対勇者・対策会議 ②
ノートバルト派遣軍司令官のゴルドー大将は、今回派遣する戦力について説明を始める。
「うちの派遣戦力は、東部第2師団を中核として、砲兵・工兵各1個大隊と1個竜人飛行隊、特殊作戦部1個小隊を加えた、増強師団1万2千だ」
ゴルドーの副官の狐人族の青年が、円卓上に広げられたノートバルト王国の地図に、各部隊を意味する駒を置いてゆく。
ちなみに今回主力の東部第2師団は、首都セントルシア南方のカンタルナ山脈を根拠地として、建国当初よりヴァンダルクとの国境を守ってきた歴史ある師団である。
数十年に一度発生するヴァンダルク軍の侵攻に対応する以外は、ノートバルト領との秘密協定により比較的長いあいだ平和が保たれており、戦闘経験は多くない。
が、彼らは決して弱兵ではなかった。
山脈の国境防衛を担っているだけあって、地形を利用した要塞構築に長け、防衛に徹すれば負け知らず。
つまり『防衛戦闘のエキスパート』というのが国内での共通した認識だった。
ゴルドーは次に、同盟相手であるノートバルト王国の戦力について説明をはじめた。
「一方ノートバルトは、首都の第1師団、西方の第2旅団、東方の第3旅団を結集して1軍を組織すると聞いてる。数は2万3千。ノートバルト現有戦力のほぼ全てと言っていい」
そこで魔王ルシアが口を開いた。
「ノートバルトは比較的豊かな国とはいえ、先の独立宣言でうちを除く周辺国との交易が全面停止になっているわ。……少なくとも表向きは。経済面を考えても、できる限り短期間で決着をつけたいところね」
彼女の言葉に、全員が頷く。
派遣軍司令官のゴルドーは再び口を開いた。
「攻勢の主力はあくまでノートバルトだ。連中に花を持たせなきゃならん。俺たちは穴掘りと火力支援、それに航空偵察が主な仕事で、必要に応じて前線を支えに行くことになる。……以上だ」
熊人族の将軍が一通り説明したところで、進行役のディートリンデが立ち上がった。
「ゴルドー司令官ありがとうございます。ここまでで質問がある方はいらっしゃいますか?」
「……ちょっといいですか?」
手を挙げる、竜人族の青年。
国防軍航空隊の制服を着た彼は、ゴルドーの方を向いて言った。
「当初予定では、海軍の飛行戦艦シュバルツシルトも参加すると聞いていましたが、先ほどの参加戦力の中にはありませんでしたよね。理由をお訊きしても?」
青年の問いに答えたのは、魔王ルシアだった。
「シュバルツシルトは、大型の兵器を運ぶために一度だけノートバルトに向かうけれど、荷を下ろしたらすぐに引き返してもらうことになったわ。……私の決定よ」
ルシアの決定、ということは、つまり星詠みの力に基づく判断ということだ。
会議の出席者たちは彼女のその一言でそれを察した。
「ああ、そういうことですか。分かりました。ありがとうございます」
竜人族の青年も納得したのか、再び腰を下ろす。
他に質問が出なかったため、ディートリンデは次に進むことにした。
「それでは次に、ポコナー局長、敵の戦力についてお願いします。」
エルフの進行役は、ゴルドーの隣に座るタヌキのような種族の男性を指名した。
「どうも。情報局のポコナーです」
汗を拭きふき、といった様子で立ち上がったポッコリお腹の狸人族の中年男。
ぱっと見頼りないそこらのおっさんのような男だが、彼のことを見くびる者はここにはいない。
ポコナーは魔王国の目と耳を統べる、情報部門のトップだ。彼が司る諜報組織は中央大陸全土に根を張り、魔王国を存続させるのに必要な情報を集め続けている。
ついでに言えば、ラーナの上司でもある。
彼は、汗を拭きふき話し始めた。
「我々が集めた情報によれば、ヴァンダルク軍は王都の第1騎士団、百合騎士団の指揮のもと、北部13領、南部15領から戦力を集めて、ノートバルトに進軍しようとしております」
「それは……ヴァンダルクのほぼ全戦力じゃないか?」
誰かが呟く。
「情報局の推定では、敵の総兵力は12万と見込まれます」
ポコナーの言葉に、再び誰かが呟いた。
「3.5対12万……兵力差は3倍以上。しかも五人の勇者つきか」
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