第87話 移動手段

 

「それで、相談というのは?」


 全員がソファに腰を下ろすと、狼の顔をした人狼族のガリウル局長は、早速話を切り出した。


 誠治は『どこから説明したものか』と一瞬悩むと、話し始めた。


「僕らは近く、ノートバルトに派遣されることになりました」


「……そうか。ヴァンダルクと戦いに行くんだな」


 ガリウルはわずかに目を細める。


 ノートバルト王国防衛のために魔王国が援軍を派遣する話は、今朝のトップニュースとして各新聞社が報道していた。


 誠治たちも駅の売店で新聞を買って、すでに報道内容は知っている。


「はい。……あ、いえ。魔王様からは『できるだけ戦わずにヴァンダルクを退けて欲しい』と言われてます。なので『まずは交渉、やむを得ない場合は力づくでお帰り頂く』ですかね」


「なるほど。あの方らしい指示だが、難題だな。…………いや。人族の国との交渉の難しさは、誰よりもあの方が身にしみてご存知か。その上でそれが必要だとお考えなのだな」


「ええ。『対ライラナスカ大同盟のため、できるだけ争いは避けたい』と。そう仰ってました。そしてそのために僕らに頼むのだ、とも」


「つまり君たちのミッションは、第一に工作活動、第二に戦闘、ということか」


「その通りです」


 誠治が頷くと、ガリウルは「ふむ」と腕を組んで考えこんだ。




 しばしの思案の後、人狼族の技術開発局長は口を開いた。


「ひょっとして相談というのは、移動手段の話かね?」


 その言葉に、三人は驚いて顔を見合わせた。


「なぜ、分かったんです?」


 誠治が問うと、彼の上司は苦笑した。


「戦闘に必要なものはある程度揃ってるからな。両国軍と君らがその気になれば、現有の兵器類でも十分ヴァンダルクを圧倒できる。……例え向こうに勇者がいたとしてもね」


「やはりそう思われます?」


「ああ、そう思うね。……だが、君らが何もなく工作活動を行えるかと言えば、かなり大きな疑問符がつく」


 ガリウルはラーナを見て、次に詩乃と誠治を見た。


「情報局のラーナ君はともかく、シノ君とセージは敵国での潜入活動の経験などないだろう。ちなみに君たち、馬には乗れるかい?」


「乗れる」


 ガリウルの質問に即答するラーナ。


「わたしは乗れません」


「同じく」


 首を振る詩乃と誠治。


「だろうね。敵国内や紛争地域で敵野戦軍に対して工作活動をするなら、ある程度の機動力が必要だ。密かに接近し、工作を仕掛け、速やかに離脱する。つまり、馬に乗れなきゃ話にならない。違うかね?」


「仰る通りです」




 ––––やれやれ、全部お見通しか。


 日頃から上司の察しのよさに驚かされている誠治は、首をすくめた。


「それで『馬の代わりになるものはないか』、それを訊くために私を訪ねてきたのかな?」


「相変わらずの洞察力ですね。説明の時間が省けましたよ」


「お世辞を言っても、何もおごらんぞ?」


「おごらなくていいので、何かいいアイデアを下さい」


 即答する誠治に、ガリウルはニヤリと笑った。


「先人の知恵と汗の結晶に答えを求めてみる、というのはどうだろうね?」




 ☆




 一時間後。


 職員食堂で一緒に昼食をとったガリウルと誠治たち三人は、公用馬車で官庁街から二十分ほど離れた『ウェノ公園駅』近くまでやって来ていた。


「これは……」


「すごいです!」


 息を飲む誠治と詩乃。


 馬車を降りた彼らの目の前に広がっているのは、綺麗に整備された大規模な公園施設だった。

 隣の案内看板に描かれた絵を見る限り、奥行きもかなりのもので、ゆるやかな丘陵地にいくつもの建屋が点在しているらしかった。


「君たちは、ここに来るのは初めてかね?」


 ガリウルの言葉に頷く異世界人の二人。

 ラーナだけが首を振る。


「小さい頃から遠足で何度も来てる」


「うむ。セントルシアで生まれ育った者にとっては、遠足の定番スポットだね。かく言う私も子供の頃から何度来たか分からないよ。遊具も多いし、様々な博物館や美術館が集まっているから、歴史や科学、美術の勉強にもちょうどいい」


 ガリウルは言いながら、左手を指差した。


「さあ、あれに乗って目的の建屋まで移動するぞ」


「えっ?」


「あれって……」


 目を丸くする詩乃と誠治。


 幅狭のレールの上を煙を吐きながらトコトコと走って来たのは、かつて遊園地などでよく見た、ミニSLだった。







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本作が第3回ドラゴンノベルス新世代ファンタジー小説コンテストにて特別賞を頂きました!!


https://kakuyomu.jp/contests/dragon_novels_2021


応援頂いた皆様、本当にありがとうございます。順調にいけば、本作は2022年中に書籍化致します。


今後、少しだけ頻度を上げて更新してまいりますので、引き続きどうぞよろしくお願い致します!





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