第41話 世界に一つだけの 〜 そして探索へ

 

 事前に誠治がコッソリ教えて練習したというハッピーバースデートゥーユーを皆で歌い、子供たちが地元の民謡を披露するなど、にぎやかに和やかにパーティーは進む。


 料理は品数を揃えようと、半分が村長家女性陣が用意し、あとの半分は村の食堂で作ったものを運びこんでいた。


 この世界の多くの地域では、十五歳で大人として扱われるようになり、家を出て働いたり、結婚が許されるようになるのだという。

 その誕生日は成人の祝いを兼ねたものとなり、特に盛大にお祝いするのだと、詩乃はクロフトからこっそり耳打ちされていた。


(結婚、かぁ……)


 詩乃はちらり、と隣の誠治を見る。

 誠治は詩乃の視線に気づき「どうしたの?」と首を傾げた。


「あの……えーと、おじさま?」


「ん?」


 誠治は賑やかな中で詩乃の声を拾おうと、顔を近づけた。

 詩乃の心拍数が跳ね上がり、顔が熱くなる。


「あ、あのっ……………………髪留め、ありがとうございます!」


 珍しくヘタレる詩乃。

 いつものアグレッシブさはどこかに行ってしまったようだ。


「ああ、どういたしまして。詩乃ちゃんの好みに合ってるといいんだけど……」


 詩乃はテーブルの上に置いた小箱を手元に寄せると、そのフタを開き、中の髪留めを取り出した。


「この髪留め、お花がすごくかわいいです」


 彫り込まれた花は、花びらが白、花弁が黄色に着色されている。花びらの大きいマーガレットという印象だった。


「注文した時は色の選択肢が少なくて『どうかな』とも思ったけど、いざ出来上がったのを見ると、木の色に合っててよかったよ」


 誠治は頰を掻きながら言った。


「これ、マグを買ってもらった、あのお店で作って下さったんですか?」


「うん。あの木工店だよ。あの後、一人でこっそり行って頼んで来た」


 髪留めなど在庫していなかったので、もちろん特注である。

 詩乃に気づかれないように、こそこそ店に足を運んだことを思い出し、苦笑する誠治。


「おじさま…………」


 詩乃は目を潤ませ、きゅっ、と髪留めを握りしめた。


「これ、今つけてみてもいいですか?」


「もちろん」


 詩乃は長い髪を上げてまとめ、それを手際よく髪留めで留めた。


「ええと…………どうでしょうか?」


 恥ずかしそうに尋ねる詩乃。

 魔法具で変装してベージュブラウンになった髪に、その髪留めはとてもよく合い、可憐さが増したように思えた。


「うん。とてもよく似合ってる。きっと、黒い髪につけてもかわいいと思うよ」


「かっ、かわいいですか?!」


 恥ずかしさのあまり下を向き、両手の指を合わせたり絡めたり、せわしなく動かす詩乃。


「うん。詩乃ちゃんの元々の髪にもすごく似合うし、かわいいと思う」


 その言葉を聞いた詩乃は、顔から湯気を出して固まってしまった。


「……セージ? 」


 クロフトが誠治を睨み、小声でクギを刺してくる。


「女の子に思わせぶりな態度をとってると、そのうち刺されますよ?」


「思わせぶりって……父親が娘に『似合ってるよ』、『かわいいよ〜』って言うのは普通だろ?」


 小声で言い返す誠治。


 クロフトは、はぁ、と息を吐いて目を細め、ぼそっ、と呟いた。


「彼女はあなたの娘で収まるつもりはないと思いますけどね」


「え?」


 誠治が聞き返す前に、クロフトは席を立ち、トーリと話をしに行ってしまう。


 顔を真っ赤にして俯く詩乃を前に、ちょっと途方にくれた誠治であった。





「さて。セージの弾丸もできたことですし、明日から南の森の探索を始めようと思います」


 バースデーパーティーの後、一行はクロフトの招集で誠治たちの部屋に集まっていた。


「今、弾丸って五十発くらいあるんだっけ?」


 誠治の問いに、クロフトが頷く。


「鍛治師のアルドさんが頑張ってくれて、手元にあるのは約八十発です。引きあげの目安として、残りが三十発を切ったら、探索途中でも撤収しようかと思います」


「まぁ、予備はちゃんと確保しといた方がいいよね」


 ぼんやりと呟く誠治。


「その通り。なにがあるか分からないですから。ーーさて明日ですが、最初の探索ですし、一番入口に近いポイントを探索しようと思います。シノには気配探知とメンタルリンクをお願いしたいんですが……」


「はいっ、頑張ります!」


 詩乃は両手にこぶしをつくり、ふん、と気合いを入れる。仲間に頼られ必要とされることが嬉しいらしい。


「ありがとう、シノ。あなたは僕らの要です。それで、もしこの間のような化け物が現れたら、まずはセージの銃、次に僕の弓で迎撃します」


「責任重大だなぁ……」


 ぼやく誠治。


「敵が複数現れたら、近い敵から倒すようにして下さい。撃ち漏らしは僕が拾います。が、もしもの時は……」


 視線を向けられたラーナが頷く。


「私が片づける」


「では、そんな感じで。無理せず、安全優先でいきましょう」


 そうしてブリーフィングは終わり、各自翌日に備えて休むのだった。





 翌朝。

 旅の仲間にトーリを加えた五人は、馬車で南の森に出発した。


 今日は少なくとも一ヶ所、できれば二ヶ所の調査を行うのが、目標である。

 お昼をはさんでもいいように、村長家女性陣にランチバスケットを用意してもらった。




 村から森までは二キロほど。

 一直線に伸びる道を、馬車はトコトコ進む。

 一部、誠治のアレでクレーターになっている場所は迂回することになったが。


「南の森の安全が確保されれば、すぐに補修にとりかかるさ。なに、あれくらいなら三日もあれば元どおりだ。あ、補修費よろしくな!」


 トーリの表情は明るい。

 それだけ一行の探索と討伐に期待しているのだろう。そして、ちゃっかりしっかりもしている。

 いや、化け物に襲われたとはいえ、直径三十メートルにも及ぶクレーターを作ったのは、誠治たちだが。


「……うぐ。我々が森の探索を請け負う訳ですし、いくらか負担の軽減を考えて頂いても…………」


 クロフトが反撃を試みる。が、


「魔王国では、公共のものを壊しても損害賠償お咎めなしなのか?」


「ぐふぅ!!」


 初印象では筋肉バカの雰囲気があったトーリだが、なかなかどうして、優秀な村長になるかもしれなかった。


「す、すまん……」


 嫌な汗をかく誠治。


 一行は間もなく、南の森の入口に到着した。

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