第39話 詩乃のワンポイントアドバイス
その後はほぼ解散となり、ラーナはまた「ちょっとお出かけ。」と言って姿を消したりしたが、誠治と詩乃、クロフトの三人は、再びトーリの家の裏にやって来ていた。
「さて。射撃練習です」
クロフトが指を立てた。
「シノのフォローなしでもある程度当てられるようになってないといざという時に困りますし、今のままでは撃った時にターゲットの背後のものを巻き込んで周囲に被害が拡大します。なので、魔力のチャージをコントロールしながら、独力での狙撃を目指す方向で特訓します!」
力説するクロフト。
「な、なんか、えらく気合入ってるんじゃないか?」
ドン引きする誠治。
「当たり前です。命がかかってるんですよ? さぁ、始めましょう!!」
「おじさま、私も応援してます!」
背後から、詩乃の黄色い声援が飛んだ。
結局その日は、夕方までに二十発ほど撃つことになったのだが、射撃の腕は多少向上したものの、魔力のコントロールはさっぱりうまくならなかった。
「大丈夫です。おじさまなら、すぐにできるようになりますよ」
穴だらけになった畦道を前に、詩乃の励ましに慰められる誠治だった。
翌日、誠治は朝から道に穴を掘っていた。
もちろん、鉛玉を使って、である。
尚、クロフトは弓職人のところへ。ラーナはまたちょっとお出かけしている。
「的に当てるのはともかくとして、やっぱり魔力のコントロールがうまくいかないなぁ」
二十発ほど撃ったところで、肩を落とす誠治。
確かに、的に当てるのは上手くなっていた。
二十メートルほど離れたところに置いた二リットルペットくらいの木片を撃って、十発中八発命中。練習二日目で累計四十発と考えれば、まずまずの向上と言えるだろう。
が、魔力のコントロールに関しては、目下四十連敗中であった。
「おじさま、ちょっと休憩しませんか?」
途中どこかへ消えていた詩乃が、いつの間にか戻ってきていて、誠治に水袋を差し出した。
「ああ、そうしようか。ありがとね」
銃を腰袋にしまい、詩乃がくれた水袋に口をつける。と、口の中に爽やかな香りと甘酸っぱい味が広がった。
「あれ? なにこれ、美味しい……」
誠治が驚くのを、いたずらっぽい笑みを浮かべて見ていた詩乃。彼女は、ふふ、と笑って種明かしをした。
「食堂で売ってたベリーのジュースを、水袋に入れてもらったんです。どうですか?」
「ああ、なるほどねぇ。こりゃあ爽やかでいいや。リフレッシュにちょうどいい。詩乃ちゃん、グッジョブ!」
誠治は詩乃の頭をわしゃわしゃする。
くすぐったそうに笑う詩乃。
誠治はもう一口ジュースを飲むと、詩乃に袋を差し出した。
「これ、本当美味しいわ。詩乃ちゃんも飲んでみ?」
「!!」
差し出された袋を前に、一瞬ごくりと唾を飲む詩乃。
「……ん?」
誠治は首を傾げた。
「おじさまと、間接キス…………」
じぃっ、と袋の飲み口を見つめる詩乃。
「ご、ごめん! そうだな。確かに間接になっちゃうな!」
慌てて袋を引っ込めようとする誠治。
詩乃はその腕を、がし、と掴んだ。
「私も、いただきます」
「そ、そう……?」
こくん、と頷いて水袋を受けとり、それを口をあてる詩乃。
こく、こく、こく
「はぁ…………」
「ど、どう?」
「甘酸っぱいです…………」
詩乃は、ほぅ、と顔を上気させて呟いた。
「おじさま、ちょっと質問していいですか?」
近くの木陰に二人並んで腰を下ろして休んでいると、隣の詩乃が誠治に尋ねてきた。
「なんだい?」
「おじさまは魔力をこめる時、どんなイメージでやってますか?」
「そうだなぁ……。少しずつ蛇口をひねって、体内の魔力を銃に注ぐイメージ、かな」
「ああ、なるほど。そういうイメージなんですね」
少女は、ふむふむ、と頷くと、ひとつの提案をしてきた。
「それでは、こんな風にしてはどうでしょうか? 魔力を注ぐ、込めるのではなく、逆に指から『吸いとられる』イメージで……」
指を伸ばし、手を下に向けゆっくり振るしぐさをする詩乃。
「そうか。吸われるイメージか」
誠治は、じっ、と自分の手を見ていたが、おもむろに立ち上がり、腰袋から銃を取り出した。
そして、
「吸われる、吸われる……」
ブツブツと呪文を唱えながら、銃口を下に向け、グリップを軽く握った。
「あ…………」
詩乃が息をのむ。
銃のグリップだけが一瞬青白く光り、やがて消えた。
「これでどうだ?」
誠治は魔石スロットのカバーを指で跳ね上げる。
中に二つ嵌った魔石は、静かに揺らめく光を湛えていた。
「ひょっとして、成功した?!」
誠治ははやる気持ちを抑えて射撃位置まで歩いて行き、鉛玉を装填する。
「うまくいっててくれよ……」
そう呟きながら銃を構え、そして、引き金を引いた。
パンッ
パスッ
軽い反動。
直後、的の木片にきれいな穴があいた。
「…………」
やや茫然とその穴を見つめた後、ゆっくりと振り返る誠治。
詩乃が駆け寄って来る。
「「やった!!」」
詩乃が誠治の首に飛びつき、そのまま二人は抱き合った。
「ありがとう。詩乃ちゃんのアドバイスのおかげだよ!」
「そんな……私は大したことは言ってませんよ? これは、おじさまの努力の成果です」
「いやいや、詩乃ちゃんがコツを教えてくれなきゃ、無理だったよ。君は人にものを教える素質があるよ、絶対!」
「そ、そんなこと…………」
誠治の言葉に、詩乃は顔を赤らめ、うつむいた。
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