第38話 先着二名様、試射会にご招待
翌日の昼過ぎ。
昼食を食べ、部屋でゆっくりしていた一行に、来客があった。
「あんたらが注文してたブツ、できたみたいだぜ」
呼びに来たトーリは、十代半ばくらいの少年を連れていた。少年はトーリの前に出て、挨拶する。
「俺は鍛治師見習いのノルド。昨日、旦那たちが注文した品ができたから、出来映えを確認してくれ、って親じ……親方が言ってる。よかったら今から工房に来てくれねぇか?」
どうやら鍛治師アルドの息子らしい口下手そうな少年は、ポケットから布に包まれた何かを取り出し、手のひらの上で広げてみせた。
クロフトが、鈍く光るそれをつまみ上げ、自分の目の前にかざして観察する。
「ふむ。これが出来上がった弾丸ですか……。夕方の出来上がりという話でしたが、早かったですね」
クロフトは鉛玉を誠治に渡した。
続いて誠治もそれを観察する。
「…………うん。軽く研磨までしてくれてるんだな。いいんじゃないか? あとは、実際に撃ってみないとーー」
「もちろん、村の外で。……だよな?」
言いかけた言葉を、トーリが遮る。
「「はい…………」」
誠治とクロフトは気まずそうに首をすくめた。
一行は裏門を出て、トーリの家の裏に出た。
目の前にはいくつもの畑があり、その向こうは北の隣村にいたるという草原が広がっていた。
「この辺りの畑は、うちの一族のものだ。事故にだけ気をつけてくれれば、気兼ねなくぶっ放していいぞ」
トーリがそう言ってくれた。
「ではお言葉に甘えて、早速試射といきましょうか」
クロフトは、その日の午前中に誠治や詩乃と一緒に森で切ってきた木片を持って畦道を入って行く。
そして七、八メートルほど離れたところで、近くに転がっていた漬物石くらいの石を拾って道の真ん中に置くと、そこに木片を立て掛けて戻って来た。
「それではセージ。ここからあの木片を撃ってみましょう。ただし、前回のようなフルチャージではなく、今回は少なめのチャージでお願いします」
「わかった。どの程度調整できるかわからんけど、とりあえずやってみようか」
誠治は腰袋から銃を取り出すと、先ほど預かった弾丸を銃口から入れ、上に向けて軽く振った。
弾は銃身の根本まで入ると、内部にある仮押さえ用のストッパーのところで止まる。
これで銃身を真下に向けない限り、弾が銃口から落ちることはない。
誠治は隣に陣取っている詩乃に声をかける。
「暴発すると怖いから、念のため僕の後ろで、離れて見ててね」
「あ、はいっ!」
詩乃は、てててっ、と小走りに誠治の背後に移動した。
もちろん、一番誠治に近い位置に、だが。
全員が自分の後ろに移動したのを確認して、誠治は両手で銃を構える。
「それじゃ、いくよ」
そう言って、銃に魔力を注ごうと意識を集中する。片手にホース、片手に蛇口を持ち、少しずつひねるイメージ。
が、
パァアアア
「うおっ?!」
手の中の銃の輪郭が、一瞬で青白く発光した。
慌てて魔力の蛇口を閉じるが、あとの祭りである。
「「セージ…………」」
後ろで、とても残念なものを見たようなため息を吐く、ラーナとクロフト。
「いやいやいや。これ、調整が難しいんだぞ?!」
銃を構えたまま、背後に苦情を叫ぶ誠治。
「おじさま…………」
毛色の違うため息を吐いた少女が、一人。
「まぁ、今回は仕方ないでしょう。追い追い特訓ですね。差し支えなければ、そのまま撃ってみて下さい」
クロフトの言葉に誠治は口を尖らせる。
「なんか釈然としないんだが……。まぁいいや。撃つぞー」
誠治はあらためて木片に狙いをつけ、二回ゆっくり呼吸する。
そして三回めの息を吐きながら、静かに引き金を引いた。
ーーーーズドン!
パァン!!
弾を撃ち出す強烈な反動。
銃口が白く輝き、弾丸がレーザーのような軌跡を描いた瞬間、派手な破裂音とともに前方の木片と漬物石が粉々に吹き飛んだ。
その破片はさらに、至近距離から散弾銃をぶっ放したかのように畦道を深く抉る。
「「…………」」
あんぐりと口を開け、呆然と木片と漬物石の残骸を見つめる名主と鍛冶屋の息子たち。
クロフトとラーナは「おおぅ……」とか呟いて目を細めていた。
そして、皆が立ち尽くす中、
「やっぱり、おじさまはすごいです!」
そう言って、誠治にかけ寄り、抱きつく女の子。
「ぅおっ?!」
突然、背後から飛びつかれ、誠治はよろめいた。
「…………おい。なんだアレは?」
トーリが隣の、自称・商人に尋ねる。
「『銃』という武器……のはずなんですが。しかも即席の。さすがにあの威力は規格外ですねぇ……ははは」
どこかうわの空で返すクロフト。
「いや、ははは、じゃないだろ。お前らはあれか? あれが普通なのか?!」
「いやいや、そんなワケないですよ? あれは、彼が特別なんです」
クロフトは、気を取り直すように首を振った。
「弾の方は、とりあえず良さそうですね。どこまで安定して飛ぶのか興味は尽きませんが。それよりも、セージのパワーコントロールの方が問題かなぁ」
ため息とともに、ぽつり、と呟く。
「こりゃあ、大変そうだ」
「おう、出来はどうだ?」
「ありがとうございます。一発撃った感じ、なかなか良さそうですよ。研磨が効いてる気がします」
一行は、鍛治師アルドの工房にやって来ていた。
「あとは何発か撃ってみないと分からないですね。とりあえず、今できてる分は全部頂きましょうか」
「分かった。それじゃあこれな。五十発ある」
アルドは皮袋をドスンと台の上に置く。
静かに置いたように見えたが、なかなか重そうだった。
クロフトは中をあらためると、銀貨三枚と大銅貨一枚を取り出してアルドに手渡した。
「約束のお代です。大銅貨は研磨のお礼ということで。とりあえず、残りの分を同じように作り始めてもらっていいですか?」
「承ろう」
アルドは満足げに頷いたのだった。
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