第33話 古い新戦力、そして混線
「そう。詰んだ状況を切り開く可能性となる、二つの要素」
クロフトは一度言葉を区切ると、誠治を見た。
「一つ目は、セージの『加護なし』の力です。先ほどやってもらって分かりましたが、その照明石発射機は、彼にとって強力な銃火器(ジュウカキ)となります」
「ちょっと待った」
突然、誠治がクロフトを遮った。
誠治の目が鋭くなる。
今、クロフトは何と言ったか。聞き逃せない単語があった。
「今、銃火器(ジュウカキ)って言葉が聞こえたんだけど。この世界にあるのかい? 銃が……」
そういえばさっきから、違和感なく「銃身」やら「銃口」やら「鉄砲」やらという単語が会話で使われていた。
「はい。我が国には『加護なし』の専用武器として銃……鉄砲があります。他国にある、という話は聞きませんね。基本的な仕組みは、セージの持っているその照明石発射機と同じですよ?」
「つまり、火薬じゃなく、魔力を使ってるわけか」
「ええと、そのカヤクっていうのが何かよく分かりませんが、一発撃つごとに魔石に魔力を充填して、銃身に鉛玉を入れて撃ち出す武器です」
「弾として鉛玉使うところは、僕たちの世界の銃と同じだなぁ」
誠治の言葉に、クロフトがポン、と手を打った。
「問題は、その鉛玉です。話が戻りますが、せっかくセージがその発射機を銃のように扱えたとしても、空気圧だけでは射程距離と威力が足りない。かと言って小石を飛ばすのでは、弾道が安定しないし、威力も劣ります。やはりそれにあった鉛の弾丸が必要です」
皆が頷く。
「鉛玉を作るのは、おそらくこの村の工房でもできるでしょう。ですがそのためには、いくらかの時間が必要です。また、セージにはその銃の扱いに習熟してもらわなければなりませんから、やはり時間は必要なんです」
「訓練は、大事」
ラーナが言った。
「そう。ようするに、この村に何日か滞在しなければならない。ですが、見た所この村には、宿屋らしい施設はありませんでした。もちろん野宿という手もありますが……できれば避けたいですよね?」
コクコク、と頷く一同。
「ここで二つ目の要素、トーリの頼み事です。内容は恐らく、南の森の調査なんじゃないかと思うんですが、それを我々が引き受けることによって、しばらくここにご厄介になることができるんじゃないか、と思う訳です。また、もう一つの懸念として、鍛治師がそんな見たことも聞いたこともないものを作ってくれるのか、という問題があります。知らない人から見たら正体不明な謎の部品をつくってもらう訳ですから、名主であるトーリの家の口添えが不可欠じゃないか、と思うのです。皆さんは、どう思われますか?」
長い長いクロフトの演説が終わった。
誠治は目を閉じ、話の内容を吟味する。
しばらく頭の中を整理し、口を開いた。
「一度、森を抜けて南に戻り、盗賊が出るこの領を迂回する方法は?」
「西の南北街道を通れば警戒が厳しい中で目立ちますし、東の山地を更に東に迂回すれば、また王家直轄領に戻ることになりますよ?」
(なるほど。迂回すれば、追っ手に見つかるリスクが高まる訳か)
誠治は迂回案を棚上げにする。では、クロフト案のリスクはどうだろうか。
「盗賊とやりあって、勝てるかな?」
「シノとあなたが連携すれば、遠距離から一方的に攻撃できるじゃないですか」
確かに、即席銃の威力を考えれば、そこそこの長距離射撃はできるだろう。
詩乃の支援があれば、奇襲を防ぎ、遠距離から射撃して当てることもできる。
「セージが撃ち漏らした敵を、僕が弓で迎撃。もしもそれを抜けてきた場合はラーナが相手する、ということで処理できると思いますよ」
「……確かに」
対空ミサイルに、艦砲、CIWSの三段構え。
まるで護衛艦だな、と誠治は苦笑した。
残る懸念は一つ。
「南の森の調査は、問題ないかな?」
「あの、そのことなんですけど……」
誠治の問いに、詩乃が小さく手をあげた。
「詩乃ちゃん、何か気づいたことがある?」
「はい」
詩乃は、はにかみながら誠治に頷いてみせる。
「先程襲ってきたあの生き物ですけど、多分、もうあの森にはいないんじゃないかと思うんです」
「「「……え?」」」
他の三人は、同時にポカン、とした顔をした。
またあの怪物と戦うことを想定していたら、いきなり敵失と言われてしまったのだから、まぁしょうがない。
詩乃は話を続ける。
「逃げてる時に感じたんですけど、あの生き物は群れ全体でメンタルリンクしてたように思うんです。あの時、馬車で逃げてる時に、少しなんですけど私の意識に引っかかるような感覚がありました」
誠治が考え込む。
「メンタルリンクの混線……? そういえば、ラーナが爆火石を使って敵を吹き飛ばした時、森の中にあった反応が一瞬で全部『敵』に変わってたなぁ」
「う。あれは、予想してなかった…………」
微妙に落ち込むラーナ。
「まぁ、相手が群れ単位で意識を連携させるなんて普通は思いませんよ。ラーナが気に病むことはありません。あの判断は、結果から見ても正しかったと思いますよ?」
珍しくクロフトがフォローを入れ、ラーナは微妙な表情のまま小さく頷いた。
「それで、あの群れのメンタルリンクなんですけど、クロフトさんが最後の一匹をやっつけた時点で、完全に消えるのを感じました。だから、もう森にはあの生き物はいないと思うんです」
「なるほどなあ……」
誠治は宙を見上げた。
トーリの悩み事が森の探索だったとして、確かにリターンは大きい。
リスクが少ないなら、やる価値はあるかもしれなかった。
「ちなみに詩乃ちゃんは、クロフトの意見はどう思う?」
いきなり誠治に自分の意見を聞かれた詩乃は、キョドった。
「わ、私の意見ですか? えーと、そうですね…………。皆さんがいいなら、私は、やってもいいと思います。トーリさんや村の人たちも、このままだと困ると思いますしーーーーきゃっ?!」
誠治は、隣に座る詩乃の頭をワシワシした。
「じゃあ、僕も賛成ということで」
「私も、それでいい」
誠治に引き続き、ラーナも、ちゃっ、と手をあげた。
「分かりました。では、明日の朝トーリに話をしましょう」
こうして一行は、ロミ村の問題に首をつっこむことを決めたのだった。
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