第32話 発覚

 

「「「…………」」」


 クロフトの目が、スッ、と細くなる。


「どうして、僕たちが魔王国の関係者だと思うんです?」


「普通の商人が、あんな凄い魔法石やそんな物騒な魔道具を、ホイホイ持ってるわけがないだろう。知ってれば子供でもそこに思い至るさ。隠すならもっとうまくやれ、ってことだな」


 呆れ顔で首を竦めるトーリ。


「それで、あなたはどうするんです?」


 張り詰めた空気の中、一同の鋭い視線がトーリに集中した。


「別にどうもしやしねえよ。こんな小さな村だ。五精霊教の教会もなけりゃ神父も来ない。たまに街のシスターが、慈善活動で治癒に来てくれるくらいだな。街にでも行けば、異端だなんだって話も稀に聞くが、この辺の村の連中は、大概『加護調べ』なんて受けたことも、意識したこともないだろうよ。ぶっちゃけ俺たちにとっちゃ、その日メシが食えるかどうかの方が、よっぽど切実な問題だからな」


 トーリはあっけらかんとして、そんなことを言った。


 クロフトはラーナを振り返る。

 トーリが嘘をついたり悪意を持っていれば、星詠みである彼女が気づくはずだからだ。


 ラーナは小さく頷いた。

 大丈夫、ということらしい。


「分かりました。あなたを信じます。申し訳ないですが、この事は他の方には……」


「安心しな。言やあしねえよ。でもまぁ、あんたらなら……………………いや、やっぱ、なんでもないわ」


 トーリは何かを言いかけて、やめた。


「あんな化け物の大群を相手にできる連中を、俺も敵にまわしたくないからな。ーーーーとにかく、俺はその件は、何も知らないし、聞かなかったことにする。だからあんたらも、この村で余計な揉め事は起こさないでくれよ?」


 あごで誠治の持つ魔道具を示すトーリ。


「あー、その……お騒がせしてすみませんでした」


 クロフトはばつの悪そうな顔で謝罪した。


「よし。話はそれだけだ。それじゃ『静かに』休んでくれ。ーーじゃあな」


 トーリはそう言って帰っていった。





「「「「はぁ〜〜〜〜…………」」」」


 大きく息を吐く一同。


「彼が偏見のない人でよかったですね……」


 クロフトの言葉にラーナが頷く。


「話をしている間、彼から殺気や敵意は感じなかった。たぶん大丈夫」


「私も、トーリさんからは『困った』という気配しか感じませんでした」


 隣に座った詩乃も、ラーナを支持した。


「詩乃ちゃんたちが言うなら、間違いないな。トーリがいい人でよかったよ、本当に……」


 誠治も、他の仲間も、無用なトラブルに巻き込まれずに済み、心底ほっとしたのだった。


「あ、でも…………。んーーーー」


「どうしたの? 詩乃ちゃん」


 誠治が、考えこんでしまった詩乃に尋ねる。


「えーと……。さっきトーリさん、何か言いかけてやめたと思うんですけど」


 誠治は、先ほどのやり取りを思い出す。


「確かに。そういえば、何か言いかけてたなぁ」


「あの時、トーリさんの感情が動いた気がしたんですよね。なんというか『困ったなぁ。頼りたいなぁ』って感じで……」


 再び考えこみ、首を傾げる詩乃。


「頼りたい、ですか…………」


 クロフトが詩乃に続いて、思考の海に沈む。


「それは、あれかな。僕らが魔王国に繋がる人間だと分かった上で……というか『だからこそ』頼みたい、ってことだよね」


 ついに誠治まで考えこんでしまう。





「これは、チャンスかもしれませんね」


 クロフトが、ぽつり、と呟いた。


「何が?」


 言葉の意味を問うラーナ。


「セージの力に気を取られていましたが、本来この場は『我々がこれからどうするのか』を話し合うために設けたものです。……皆さん、覚えてますか?」


『率先して脱線したおまいがゆーな』という言葉を飲み込み、苦笑する誠治。


「今になって言うのもなんですが、実は僕たちは今、状況的に詰んでます。この村と同じようにね。ちなみに詰んでる理由も同じです。一つ目は、我々の行く手にタチの悪い盗賊がいること。二つ目は、補給が受けられず、物資が不足していることです」


「干し肉とパンなら、この村で買えると思う」


 ラーナが小さく胸元で手をあげた。

 が、クロフトは首を振る。


「違うんです、ラーナ。不足してるのは、武器なんですよ。具体的には、魔法石と弓の矢です。矢はこの村で買えるでしょうが、魔法石の調達は、少なくとも伯爵領の領都クラスの大きな街でなければ、無理でしょう」


「……むぅ」


 ラーナが口を尖らす。


「そして、現有の武器と戦力では、二十人を超える盗賊を撃退することは難しい。……違いますか?」


「「「…………」」」


 クロフトの言葉に、他の三人は黙り込む。

 確かに、彼が言う通りだった。


 向こうは、四十人の警備隊を全滅させた二十人の盗賊である。

 十分な準備の上で攻撃してきた倍の数のプロを返り討ちにしているのだ。


 対してこちらは、遠距離担当ひとり、近距離担当ひとり、身を守るのも危ういのがふたり、という有様である。

 どんなにハンデをつけても、全く話にならないだろう。


「正直『死者の手』の話を聞いた時は、途方にくれました。それでこの話し合いを提案した訳ですが、幸いなことに、やっと光が見えてきましたよ」


「光?」


 クロフトはラーナに向かって頷いた。

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