第30話 無能とよばれた男……のお値段

 

「ほら、やっぱり」


 眩く四方に光を放つ爆火石を見て、クロフトがドヤ顔をする。


「……犯人は、あなた」


 誠治を指差し、相変わらず表情を変えずにドヤ顔をするラーナ。


「やっぱり、おじさまはすごい人でした……」


 手元の爆火石のごとく、輝かんばかりの笑顔を向ける詩乃。


「おおお?! これがオーバーチャージなのか?」


 眩し過ぎて石から顏をそむける誠治。


「セ、セージ! とりあえず、石をセーフモードに戻しましょう。そのまま床に落としたら、多分、というか確実にこの家が消えてなくなりますよ!?」


「せ、セーフモードって、どうやるんだっけ?!」


 片手で光を遮りながら、クロフトに向かって叫ぶ誠治。


「石に向かって『解除!』と叫ぶんです。さあ、ほら、はやく!!」


「……か、解除!!」


 誠治が叫んだ途端。

 シュー、と。音はしないが、まるで風船が萎むように光が石の内側に収束してゆく。


「……おさまった、のか?」


 誠治が恐る恐る手のひらを開くと、爆火石は光をその中に収めながらも朱白く輝いていた。




「「「「はぁ〜〜〜〜」」」」


 みんなでため息をつく。


「……どうなることかと思いましたが。でもまぁ、これで一つはっきりしましたね」


「え、何が?」


 間の抜けた反応を返す誠治に、クロフトが指を突きつけた。


「あなたの力のことが、ですよ。セージは間違いなく、膨大な『加護なし』の魔力を持ってます。オーバーチャージ品の魔法石を、更に何割か、ひょっとすると倍以上にオーバーチャージできるだけの魔力量がある、ということです」


「お、おお……。なんか、凄そうだね」


 いまいちことの重要さがよく分からず、ぼんやりする誠治。


 要するに、車のエンジンに付くターボというか、噴射するニトロというか、そういうものかと理解していた。逆に言えば、単体では役に立たないとも言える訳で、どうにも微妙な印象である。


 爆火石に関して言えば、手榴弾が迫撃弾に強化できるくらいのイメージだろうか。


「使いどころは選ぶでしょうが、凄い力ですよ。魔力量次第では、あなたが一人いるだけで国力が何割増しかになるかもしれませんよ?」


「いやいや。それはさすがに盛り過ぎでしょ」


 どんだけ戦略資源だよ、俺。と、苦笑してツッコミを入れる誠治を、クロフトがじろりと睨んだ。


「ことの重要性が分かってませんね、セージ。カンタルナ連合魔王国は諸外国から排斥されているので表立って貿易はできませんが、密貿易ではそれなりの経済活動があります。こと魔法石に関して言えば、大陸全土で流通している魔法石の三分の一以上が魔王国製なんですよ」


「え、ひょっとしてトップシェアなんじゃない、それ?」


 ぽかん、とする誠治。


 大陸にある国は、大小含めて全部で九つ。

 それら全てを合わせた市場で三割のシェアがあるとすれば、なかなかのものと言える。


「その通りです。我が国が人口と軍事力の上では小国に過ぎないにも関わらず、言われなき差別により各国から疎まれているのに存続できているのは、突出した魔法技術に依るところが大きい。その主要な技術製品が、オーバーチャージ品の魔法石なんですよ。ーーご自分の立ち位置が分かります?」


「……ま、まぁ、なんとなく」


 要するに、一社がシェアの三分の一を握っている市場で、その最大手の商品は今ですら他社製品より性能が二、三割良いのに、更に何割か高性能な商品を投入できるようになる、というわけだ。


 そんなことになれば、他社製品はゴミと変わらなくなる。


「またこの世界には、魔法の術式を彫り込んだ『魔道具』というものがありますが、そのパワーソースは魔道具に嵌め込まれた魔石なんです。ラーナ、照明石の発射機はありますか?」


 ラーナは頷き、先ほど化け物との戦闘の時に使った、おもちゃの鉄砲のようなものを袋から取り出して来て、丸テーブルの上に置いた。


 クロフトはそれを手に取り、解説を始める。


「これはご存知のように、照明石の発射装置です。さっきラーナが使っていた通りですね。使い方は簡単。この銃口から照明石を入れ、引き金を引くだけ。子供でも扱えます。じゃあ、どうやって照明石を撃ち出しているかというと……」


 クロフトは銃身の手前、オートマチックピストルで言えば撃鉄があるあたりの部分を上に引っ張った。

 カバーがカパッと開き、中に二つ、ビー玉くらいの大きさの魔石が並んで嵌め込まれているのが見える。


「見ての通り、この魔石に魔力が貯められていて、引き金を引くことで、銃身の根元で小さな空気の破裂が起こるようになっています。その力で照明石を撃ち出すわけですね。魔法式は発射機に彫り込まれているので魔石自体は破損せず、魔力をチャージすれば何度でも使えます。ちなみにそれは二連発の発射機です」


 クロフトは誠治に鉄砲モドキを差し出した。




「サバゲー (サバイバルゲーム)で使う、ガスガンみたいなものかね?」


 おっかなびっくりそれを手に取る誠治。


 口径は十ミリくらいなのに、銃身の外径は四十ミリ近くある。全長は十五センチくらいで、非常にずんぐりむっくりな印象だ。


 強いて似ているものを挙げるとするならば、拳銃。…………ではなく、ドライヤーだろう。


「魔石へのチャージも『加護なし』の無属性魔力の方が、効率よく行えます。それなら爆発することもないですから、試しにチャージしてみて下さい。部品の一部にミストリールが使われてますから、グリップを握るだけでいけるはずですよ」


「ミストリールって?」


 誠治がグリップを握りなおす横で、詩乃がラーナに尋ねる。


「……魔力を通し易く、通した状態で硬化するレア素材。いいお値段がする」


「そっか。じゃあ、あのおもちゃみたいな鉄砲も、実はお高いんだね」


 詩乃は妙なところに感心していた。


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