第29話 加護なし魔力の使い方
「おいおい。僕にも魔法が使える、って言うのかい? 水晶に触っても、触ったところが曇っただけなのに?」
誠治は、謁見の間でいたたまれない思いをした時の様子を思い出しながら、クロフトを見た。
「いいえ。魔法は使えないでしょうね。加護なしですから」
クロフトは首を振る。
「ほら、やっぱり……」
微妙に落ち込む誠治。
そりゃあ誠治も男子……もとい永遠の少年の心を持っているので、不思議パワーを格好良く使えたら、という想いはある。
クロフトは目を閉じ、額に指をあてながら、言葉を続けた。
「僕は『加護なしにも魔力はある』って言ったんですよ。『魔法が使える』じゃなくてね」
「つまり、魔法が使えるかどうかと、魔力の有無は関係ない、ってことかい?」
誠治の問いに、クロフトは目を開き人差し指を立てた。
「その通りです。言い換えれば、加護なしは『直接は魔法として使えない、特殊な魔力を持っている』とも言えます」
「使えない魔力なら、意味ないんじゃない?」
苦笑して尋ねる誠治に、クロフトは首を振る。
「いいえ。使えないんじゃありません。『魔法としては』使えないだけです。加護なしの魔力には、それに適した使い方があるんですよ。世間一般……というか、魔王国以外では知られてませんけどね」
クロフトはそう言って、先ほどラーナが取り出した、テーブルの上の爆火石をひとつ手に取った。
「この爆火石は、魔石に術式を施し、爆裂火球の魔法を封じ込めたものです。作り方としては、魔石の一部に発動の魔法陣を刻み、封魔の魔法陣の内側で爆裂火球を使用して、魔法を石に封じ込めます。ほら、よく見ると、石に魔法陣が描かれているのが分かりますよ」
クロフトから爆火石を手渡された誠治は、隣に座る詩乃と一緒に、手のひらの上で淡く紅い光を放っている石を覗き込んだ。
「…………あ、本当だ。模様みたいなものが描いてあります!」
詩乃が楽しそうに声をあげる。
「ひとつの魔法石にこめられる魔力量は、純度と大きさの掛け算によって決まりますので、より高威力の魔法を封じようとすれば、それに適した純度、大きさの魔石が必要になります。魔石を得るには、鉱床から原石を掘り出す方法と、魔物の核から入手する方法がありますが、どちらにしろ高純度で、大きな結晶ほど希少で入手が困難です。魔法を封じる手間と労力もあるので、小ぶりの爆火石でも、それなりに値が張るんですよ?」
「いくらくらいするんですか?」
詩乃の質問に、ラーナが答える。
「そのくらいの爆火石で、金貨1枚 (10万円)くらい。私が攻撃に使った、それよりやや大きめの爆火石で、金貨10枚 (100万円)くらい。ちなみにシノとセージが大好きな物理浄化の魔法石は、あれで金貨1枚 (10万円)する。ぶっちゃけあれ一個で、一晩そこそこの上宿に泊まれるくらいの値段……」
「「ごめんなさい!!」」
落ちこぼれ勇者の二人は、そろって頭を下げた。
「……まぁそこまで気にしなくていい。どうせ今回の任務の支給品だから。使わなかったら国に戻った時に返却するだけ。ただ、相場は知っておいた方がいい」
「「はーい…………」」
しょぼんとした二人に、ラーナは首をすくめた。
「話を元に戻していいですか?」
クロフトがやや苦笑しながら、呼びかける。
「えーと。先ほど言ったように、魔法石に封じられる魔力の総量は、基本的には魔石の純度と大きさに依存します。ですから純度が高く、大きいサイズの魔石が重宝されるわけですが、実は一つだけ、通常より多くの魔力を石に注ぎこむ方法があるんですよ」
「ひょっとして、それが加護なしの魔力の使い方ですか?」
詩乃の問いにクロフトが頷く。
「正解です。加護なしの人間は、魔石と極めて親和性の高い、珍しい『無属性の魔力』を持ってるんです。普通に作られ魔力がフル充填された魔法石に、更に無属性の魔力を追加して注ぎ込む。そうして作られた魔法石を我々は『オーバーチャージ品』と呼んでいます」
「オーバーチャージ……過充填、か」
誠治が呟く。
「そうです。この処理により、通常より二割から三割多くの魔力を充填することができ、発動する魔法の威力や効果もそれに比例して大きくなります。ちなみにオーバーチャージしていくと段々と入力抵抗も大きくなっていくそうで、歴史上最も強大な魔力を誇った『加護なし』の術士でも、大体四割弱のオーバーチャージが限界だったそうですよ」
「……ちなみに私が持っている魔法石は、全てオーバーチャージ品。その爆火石にも、もちろんオーバーチャージの処理が施してある」
ラーナが、誠治の持つ爆火石を指さした。
「ふぅん、これにねぇ……」
まじまじと石を見る誠治。
「さて。色々とまわり道をしましたが……。セージ、ちょっとご協力をお願いしたいんですが?」
「やっと僕の出番か。オーケー。何すればいいんだい?」
ついに俺のターン、とばかりに腕まくりをして張り切る誠治。
「その爆火石に、オーバーチャージしてみて下さい」
「よし、わかった 。オーバーチャージだな」
誠治は頷くと、目を閉じ、ゆっくり深呼吸をした。
三人の視線が、誠治に集中する。
誠治は静かに目を開けた。
「…………で、オーバーチャージってどうやるの???」
首を傾げた誠治に、三人はガクッ、と崩れ落ちる。
「「「セージ (おじさま)?!」」」
詰め寄る三人。
「いやぁ、ちょっと勢い込んでみたけど、素人にはやり方分かんないよね、やっぱり。はは……」
頭をかく誠治。
「肩透かし……」
ラーナの冷たい視線が突き刺さる。
「でも、そんなおじさまも、ちょっとかわいいです……」
ふたまわり近くも下の女の子に、顔を赤らめて、かわいいとか言われる誠治。反応に困り、引きつった笑いを返す。
「セージは一度、オーバーチャージに成功してるじゃないですか。化け物を吹き飛ばした時にやった、あれですよ、あれ!」
さすがにイラッときて、一段と詰め寄るクロフト。
「ああ……。えーと、あれ、どうやったっけ?」
誠治は化け物に追われていた時のことを思い出そうと試みた。
「確か、石を取り出して、起爆条件を叫んで……。ええと……『着発!!』」
手に持った爆火石に向かって誠治が叫んだ瞬間。
パァアアア
一瞬、何かが腕を伝わって石に入っていく感覚があり、それと同時に爆火石は、紅く、強く輝いた。
「「「おおお?!!」」」
その場にいた全員が、目を見開いてその光景を前に固まった。
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