第18話 追い詰められました!

 これは、僕がハイムの下に向かうほんのちょっと前のお話。


「——浩平お兄ちゃん!」

「おお! よかった無事で……って! こっち来てたの⁉」


 本部を抜け出した二人を追い、貧弱な身体を走らせていた矢先、僕はミルシアと遭遇していた。


「だって、浩平お兄ちゃんすごい憂鬱そうだったから……心配しちゃって……」

「その気持ちはありがとう。マジでありがとう。でも今は、市民と一緒にここから逃げるんだ。絶対に変身したらダメだ——ってそれもダメだ!」


 そうだ。ここでミルシアを戦場から遠ざけるわけにはいかない。不安材料を抱えたままの戦いでは、このイレギュラー満載のこの世界では生き残れない。

 とにかくまずは、ローゼとミルシアを引き合わせなければ。最悪の場合、こんな序盤でヒロインの死を見ることになる。序盤にヒロインが離脱して面白くなった作品なんて、デカい虫と戦うあれしか知らない。僕には絶対に書けない境地の作品だ。


「ミルシア、今からローゼの下に向かってくれ! きっと君を探してるはずだ!」


 ローゼのことだ。きっと魔獣の撃退よりも、人命の救助を優先するはず。となれば、魔獣の相手をするのはハイム一人。そしてこの戦いは本来、二人の連携で倒す場面。

 これまでのこの世界での展開からして、とてもハイムが単独で勝てるようになっているとは思えない。

 ハイムを救うには、本来の展開に限りなく寄せる必要がある。そのためには、とにかく早くミルシアとローゼを接触させて、ローゼの戦闘参加を速めるしかない。


「じゃあ頼んだ! もう一回言うけど、返信はダメだからな!」

「あ! 浩平お兄ちゃん!」


 少女の呼び止めの声を左から右へ聞き流し、僕は戦場へと駆け出した。

 ついさっき、本来の作品展開に戻せばいいって言ったけど、正直それでも不安は残る。アークゴーレムの例から見るに、魔獣の強さは恐らく一回り強くなっている。たとえ本来の展開に戻したとしても、倒せるかどうかはわからない。

 ——なら、やっぱり僕も加勢に行かなくちゃいけないだろ。


「合体できるかなぁ……いや、その場のノリでどうにかするしかないな」


 胸中に静かな決意を忍ばせ、僕は未来の英雄の背中を追った。


—————————————————————————————————————


 ——そして今、僕はその場のノリを発揮し、三度ハイムの肉体に憑依している。目の前には、そんな僕を吹き飛ばそうと直進を続ける豪槍の刃があった。


「パワーガルディウム!」


 改めて詠唱を行い、一度の発動で解放しきれない魔力を無理矢理引き出す。肉体の解放上限を超えているので、この後どうなるかはわからない。だけど、これ以外に奴の無言の進撃を止める手立てはない。


『ごめんな、ハイム……我慢してくれよ!』


 心中で身体の持ち主に謝罪をかまし、僕は一気に高まった膂力をそのままぶつける。特に両足に魔力を重点的に流し、抵抗力の倍増を狙った。


「はぁぁぁ……ふんっ!」


 ただでさえ驚異的な筋力を生み出していた両足に、魔力による相乗が加わり、その質量は通常の二倍以上に膨れ上がる。その結果、戦いの衝撃によってすでに脆くなっていた道は、足を支えきれずに貫突。両足が釘のように突き刺さった。


「——はぁ!」


 固定されたストッパーと化した僕は、気合と共に剣を押し出し、物体を通して波撃を伝える。接触した状態でぶつかったゼロ距離の衝撃は、ついに槍の穂先に亀裂を生じさせ、剣がその隙間に差し込む。

 今ここに、敵の獲物を斬り落とす切り口が誕生したのである。

 ——反撃が始まった。


「うおぉぉぉぉぉぉ————!」


 剣を持ち換えて身体の位置をずらし、野球バットのように一方を支点として体勢を固める。そして直進を続ける槍撃を受け止める形で、その鋼鉄の刃を切り裂いた。


「————」


 白銀の剣にひびが入り、その煌めく剣身が破壊される。これに関しては予想範囲内だ。作中でもこの戦いで、一度剣は折れる設定になっている。まぁ、これじゃ本来とは違って、修復は不可能そうだけど。


「ギャギャギュアァァァァァ————!」


 その時、金切声のような超高音が戦場に轟き、間髪入れず地面が隆起。うねり上がった街は積み木のように崩れ去っていく。そしてその瓦礫のベールの中から、巨大な……サメだ。サメに似た姿を持つ魔獣が現れたのだ。


『そうだ。思い出したぞ。確かこいつは——』


 地底を潜る魔獣、シャンザーグだ。見た目通りサメをモチーフにした魔獣で、地面から突き出していた巨大な槍は、こいつの背びれに相当する部分なのだ。

 確か当時観て感銘を受けたジ○○ズの影響で作った魔獣じゃなかったっけかな。懐かしい……本物が見れるなんて……


「っていやいや! そういうの今じゃないだろ!」


 僕は刃を失った剣をその場に投げ捨て(ハイムごめん)、今度は魔力を両腕と拳に纏わせる。それによって両足の筋肉は元の質量に戻り、代わって両腕を膨張させたアンバランスなマッチョへと姿を変貌させ、シャンザーグと対峙した。

 こいつは魔力による強化はされているが、結局はサメ。なら弱点である鼻を正面からぶん殴ってやれば、時間稼ぎは十分にでき——


「——っがぁ! あぁぁ……がっ!」


 しかしその作戦は、突如として全身を駆け巡った激痛によって不可能となる。


「うぐぅ……は、速いなぁ……もう少し我慢してくれよぉ」


 どうやら、限界以上の魔力を引き出したツケが、もう回って来てしまったらしい。足や腕などの部位に魔力を集めたのも、まずかったようだ。


「ググギャアァァ……」

「くっ……くそっ」


 その両目に僕への闘争心を露わにしながら、こちらを観察する地底の暴君。その口元から見せる何本もの牙が、僕の命を虎視眈々と狙う。だがその敵に対して、僕は力を失いつつある肉体を持ち上げ、なんとか立てている状態。力の差は歴然だった。

 死の恐怖が。あのゴーレムの拳を見上げた時に感じた、生命の本能が呼び起こされる。まずい。だが何もできない。死ぬ。食われる。噛み千切られる。


「グアァァァ——」


 ——そして今、その悪魔の大口がゆっくりと、僕の頭上に覆い被さった。






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最後まで読んで頂き、誠にありがとうございます!


この作品の更新につきまして、一つご報告させて頂きます。

今後、この作品の更新は『毎週金曜日投稿』という風にさせて頂きます。もちろん、今回のように別日に追加更新することもありますので、ご理解下さい。


では、今後ともどうぞ、よろしくお願い致します。

もしよろしければ、作品への評価、コメントの方、よろしくお願い致します。純粋なご感想をお聞かせ下さい。

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