第17話 呼んでるかみさん

拘置所でかみさんの訃報を知った。俺は膝から崩れ落ちた。嘘だろ、あのかみさんが。俺が捕まってるのもかみさんが死んだってのも全部、夢なんだろ。そう想いたかったが、これは現実だって事を俺はこれから思い知らされる。厳しい取り調べ。容赦無く浴びせかけられる捜査官の罵詈雑言。2日後。かみさんの葬儀。俺は捜査官に付き添われて葬儀に参列させてもらった。もちろん、腕には手錠付きだったが。棺の中のかみさんは、何だか眠ってるみたいでその死に顔は微かに微笑んでいるかのように見えた。俺はかみさんに最期の言葉を掛けた。「それじゃーな、ベティ。また来世でな」俺は再び拘置所に連れ戻された。拘置所で出された不味い晩飯も喉を通らず俺はベッドに入った。かみさんとの色んな思い出が走馬灯のように思い返される。付き合いだした頃の初なかみさん。美味かった手料理。争い事も無く、笑いが絶えない新婚時代。かみさんの笑顔が瞼の裏にくっきりと浮かぶ。俺は20年は喰らうだろうと想っていた懲役系の事などすっかり忘れ、かみさんとの楽しかった思い出に浸りながら微睡みに落ちていった。深夜。枕元に何だか懐かしい人の気配を感じた。俺は横になったままうっすら目を開けた。そこには、俺が新婚時代にプレゼントした花柄のワンピースに身を包んだかみさんが立っていて俺の寝顔を覗き込んでいた。「あんた、あたしよ。ジェイソン、起きてる?あたしよ。あたし、あっちの世界に行っちゃったけど、あんた無しじゃあたし駄目なの。あんたが横にいてくれなきゃ。あんた、あたし、待ってる。また仲良く暮らしましょ。あんた、愛してる。ずっと、ずっと、愛してる…」そう言って、かみさんは消えた。俺は仰向けになったまま虚空を見つめていたら、目尻に涙が伝うのを感じた。かみさんとの、あの楽しかった頃の永遠の一瞬が思い起こされ、俺はむせび泣いた。朝。警務官が呼んだ。「マクファーレン、朝飯だ」何も応答は無い。もう一度、警務官が言った。「おい、マクファーレン、朝飯だ」またしても応答が無い。不信に想った警務官が格子の鍵を開けて入って来た。ベッドの上には冷たくなった俺の骸が横たわっている。警務官は直ぐ様、当直医師を連れて戻って来た。医師が死亡を確認する。警務官が医師に言った。「何だか、此奴の死に顔、嬉しそうな笑みを浮かべていますね。良い夢を見ていた時にポックリ逝ってしまったんでしょうね」

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かみさんと俺 Jack Torrance @John-D

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