もういい!実家でなく土に帰らせてもらいますっ!

ちびまるフォイ

土の妻と仲良くするには

「もういい! 土に帰らせてもらいます!!」


妻は膨れて庭の土へと還ってしまった。


最初こそ謝りたくないと意地を入っていた夫も、

日々の生活をどれだけ妻に助けられていたか実感するや

毎日妻のいる土のほうへとやってきては謝り続けていた。


「なぁ、そろそろ機嫌直してくれないか」


「全部あなたが悪いのよ!」


「そうだな。俺が全部悪い。だから……」


「全部!? 全部ってなに!?

 適当に謝っておけばいいと思ってるでしょ!」


「そんなことはないよ……」


「なにも反省してないじゃない! もう知らないっ」


機嫌を治すどころかますます妻は土の深みへと潜ってしまった。

つい余計な一言を付け加えがちな夫は反省した。


その後、口は災いのもとだとして黙るようになり

言葉ではなく行動で示そうとかいがいしく妻の土の世話を続けた。


妻のもぐる土からは花が咲き始め、徐々に妻の機嫌も治っているのがうかがえた。


あとは話し始めるきっかけだけ間違わなければ仲直りできる。

かいがいしく世話をしながらも話しかけるタイミングを夫はうかがっていた。


そんなある日のことだった。


いつもどおり、家の庭に出るとごっそり土がえぐられているのがわかった。


「つ、土が掘り返されてる!」


家の防犯カメラを見ると夜中に男が入り込み、

珍しい花を咲かせていた妻の土ごと持っていってしまった。


泥棒は知らないが持っていった土には還った妻が入っている。

あわてて警察に事情を話してカメラの映像を見せた。


「妻が還った土を持ち去られたんです! 早く探してください!!」


「つ、土? 金目のものではなく?」


「ただの土じゃないんです!」


「だとしても、たかだか土をちょっと持っていかれただけで警察が動くというのも……。

 そんなことしている間にもっと大きな事件がきたらどうするんです」


「小さな事件だといいたいんですか!?」


「なにごとも処理すべき優先度があるという話ですよ」


夫はほうぼう訪ね歩いたが、どこの警察も同じだった。

土泥棒を本気で探す人など誰もいなかった。


日もくれてしまい夫はすっかり肩を落として家路についた。


すると家には妻が待っていた。

夫は自分の目を疑った。


「えっ……えっ!? なんで!? 持ち去られたんじゃないの!?」


「土に帰るといったのは嘘よ。本当はずっと見ていたの。

 あなたがどれだけ私に対して尽くしてくれるかをね」


「そんな……」


「土泥棒も私のさしがねよ。あなたがどれだけ私を必死に探してくれるか見たかったのよ」


夫の頑張りようをみた妻は自分がどれだけ愛されているかを確かめられて機嫌を良くしていたが、今度は夫の機嫌が悪くなっていた。

「それじゃここ数日、ずっと俺を試していたのか!?」


「あなたの愛が本物なのか確かめたかったのよ」


「庭に生えただけのただの花を一生懸命に世話したのも。

 何度も警察に頭を下げて、それでもダメで、たくさんあるき回ったのも

 君が俺を試すためにやったのか」


「ええ、でもあなたは私のことを愛してくれた。合格よ。これからも夫婦としてやっていきましょう」






数日後、夫のもとにご近所さんがやってきた。


「こんにちは、おやまた水やりですか」


「実は妻と先日口論しましてね。また土に還ってしまったんですよ」


「そうなんですね、奥様の機嫌も治るといいいですね」


「そうですなぁ」


夫は一面花畑になった庭に水をまき続けていた。

ふと、庭の一角を見るとなにやら細いものが見えた。


「おや、なにか土から出ていますよ? これは……髪? たいへんだ、人の髪が埋まっていますよ」


ご近所さんは土から飛び出していた髪の毛を手にとった。

すぐにスコップをもった夫がやってきた。



それからしばらくして、土泥棒の依頼を受けた警察もやってきた。


「遅れました。土泥棒についてお聞かせください」


「いいえ大丈夫です。もう妻も戻ってきましたから」


「奥さんはどちらに?」


「喧嘩してまた土に還ってしまったんですよ。

 こうして水やりをして機嫌が治るのを待っているんです」


夫は水をまき続けて庭は花に囲まれた場所になった。

やがて夫が死んで土に還った頃、庭からは白骨が2体見つかった。

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