第8話
「カーン、すまないけど力仕事を頼めるかい?」
「はい!」
よしよしとカーンは頭を撫でられます。
カーンが牧場で暮らして季節が2回も巡りました。
長く一緒に暮らす中で
アーノルド爺ちゃん
デボラばあちゃん
その2人がカーンの家族になりました。
牧場の暮らしは大変です。
カーンは爺ちゃんとばあちゃんの2人でよくこの仕事が出来ていたなぁ…… と関心するほど。
朝は早く家畜の世話から始まり、牧場の整備に薪割り。家畜の乳を絞り、重い鉄瓶に入れて行き太陽が昼ぐらいになる前に村から買い付けに来る商人に卸す。
お金があまりないから、家庭菜園の土を耕し……
そんな色々な仕事がたくさんあります。
一日中、せっせと働いた後でカーンは不意に『何でだろう』と寝る時に考えた事があります。
「鉱山で働いたら気分が普通、牧場で働いたら気分がいい」何でだろう?という風に。
カーンは体力が必ず回復する体なので疲れはありません。勤労の喜びではない心の嬉しさに悩みます。
数日間の夜に考えた答えは「…… 心が、軽くなるんだ」と彼は納得しました。
爺ちゃんとばあちゃんの為に助けて代わりに働くという気持ちは気持ちいいし、楽させてあげると心がフワフワするんだと思い当たりました。
カーンはこうなると、もっと爺ちゃんとばあちゃんが大好きになりました。
もちろんカーンが夜に安心して、心を健やかに眠れるのは祖父母となった2人の慈愛がカーンに降り注いでいるという意味でもありました。
「でも…… 」
カーンは鉱山から逃げた事、自分が人ではないという事を隠すのが悲しく、爺ちゃんとばあちゃんに言うと嫌われるのではないかという怖さが…… 心の痛みとしてズキリズキリと顔を歪める事もありますが…… カーンは幸せに暮らせています。
夜、シチューを食べながらカーンに人の営みを話してくれるお爺さん。
朝、洗濯をパシリと伸ばして干すばあちゃんから常識を。
カーンは人とはどういうものかと、少しずつ理解をしていきます。
──────そう、人というものの理解の一つには、ばあちゃんの老衰死もありました。
冬の終わりに「ちょっとしんどいかもねぇ」とばあちゃんが立ち仕事が出来なくなり始めました。
カーンは、爺ちゃんが外仕事をしているのを見計らい転寝(うたたね)のばあちゃんに回復魔法を毎日かけます。
「よくなれ、よくなれ」
カーンの願いの魔法は、ばあちゃんの怪我や古傷を治しますが老衰は止まりませんでした。
「ちょっと横になるよ…… ごめんねカーン」
カーンは辛そうにベッドに鎮み謝罪をするばあちゃんに「ホラ!こんな強いから全部仕事を任せて!ばあちゃん休んでも大丈夫!」と笑って元気付けます。
辛そうに…… 笑わないで…… カーンは心の中でいっぱい泣きながら、ばあちゃんの仕事と牧場の仕事を一生懸命にします。
春の花を摘んで、ばあちゃんに見せようとした時に爺ちゃんとばあちゃんの話が聞こえて止まります。
悲しい話。
生きるのが終わる話。
爺ちゃんへの感謝の言葉。
カーンは信じたくないので、もっと頑張ろうと思いました。
夏には仕事がない時間はずっと、ばあちゃんが暑くないように風の魔法を使い続けていました。
「カーンは魔法が使えるのかい?えらいねぇ」
ほとんど空気を吐き出しているような声にカーンは心が死んでいくようです。
秋、涼しくなると、せっせと薪集めもしました。
カーンは冬にもばあちゃんが、ここにいると当然に思っていました。
「カーン!」
爺ちゃんの叫び声にカーンは薪を落として部屋に入ります。
ゆっくり…… ゆっくりと息をして眠るばあちゃんを見てカーンはホッとしました。
「爺ちゃん、ばあちゃん寝てるから静かにね?」
カーンは苦笑を覚えていました。その顔で爺ちゃんを見ると…… 「どうしたの?」と小さな声が出ました。
爺ちゃんは泣いていました。
この世界で生きて、畜産をしているのです。
人の死は身近で爺ちゃんは長い人生でそれをたくさん見てきました。
ばあちゃんは息を吸って、吐いて……
ゆっくり…… ゆっくり………………………… 。。。
ばあちゃんは、乳製品を買いに来る商人がいる近くの村の墓地へと入る事になりました。
カーンは牧場の近くがいいと初めて駄々をこねましたが「アンデッドにならないように教会の隣が良いんだよ…… アイツを静かに寝かせてやろう」と爺ちゃんに抱きしめられて、たくさん泣きました。
カーンは、人は必ず死ぬという事を知りました。
まだ雪が降る前でよかったよ……
爺ちゃんの呟(つぶや)き声を聞きながら、教会の
神父様のお話は長く…… カーンは空を見上げていました。
たくさん泣いたからカーンはもう疲れていたのです。
見上げる晩秋の雲は早く流れていきます。
家族3人で冬はとても暖かく過ごそうと沢山に集めた薪(まき)…… 爺ちゃんと2人だと使いきれないかなぁ…… とカーンは現実から逃避するように頭の中で考えていました。
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