第5話
カーンは魔法を覚えました。
カーンは人の嫌な所を少し覚えました。
昼を抜かれている事、たまに大人奴隷が叩いてくる事は嫌な事をされていると分かりました。
カーンは知る事で孤独になりました。
人に嫌われるという事を知ると、心の中にチクチクとした気持ちが生まれ距離を置く事を覚えました。
手を抜く事を知りましたが、スケジュールが確立されているのでお昼ご飯は無いまんまでした。
孤独になると、リサ母さんをズーローを思い出してしまい悲しくなります。
「カーン、魔法は使えば使うほどに強くなるんだよ」そんな母さんの言葉に従い、隠れて教えてくれた土魔法を繰り返して練習をします。
1人で鉱山の中にいると死角はたくさんあります。
カーンは誰よりもこの鉱山に詳しいという自信がありましたから、魔法を練習する場所は簡単に見つかりました。
ズンズンと地面を隆起させては沈めての土魔法の反復練習を繰り返しながらカーンはリサ母さんの言葉を思い出します。
「魔法は魔力を燃料にして生み出される奇跡の力」
呪いの鳥籠の近くでリサ母さんに教わっていたので魔力があるか分からないと悲しい顔をしていた母さんを安心させる為にカーンは兵士や奴隷から隠れて魔法を使い「使えたよ」と報告すると親子で笑顔になりました。
魔力を持って生まれた奴隷は鉱山ではなく、もっと使い勝手の良い所に回される。
だから、もしかしたらカーンは魔力を持たないのかもとリサ母さんは心配していましたが、カーンは違法奴隷商人が売りつけた子供奴隷。
すぐに死ぬだろうし…… そう判断されて魔力の検査もせずに鉱山に閉じ込められました。
魔法は属性とイメージ。
「呪文や
カーンは生まれてほとんどが鉱山労働をする毎日でした。
土や岩を掘る・埋めるは得意です。
練習にはもっこいとカーンはブラリと1日に何度か仕事をサボりながら魔法の練習を繰り返しました。
ここでも自分を錬成した時の素材が魔法の鍛錬に優位に働きます。
兄であるズロが欲しがっていたのは、一緒に生きていける強い家族でした。もう愛する家族が弟が死ぬのを見たくなかったのです。
だから何百年もかけて、強く希望のある素材を集めて時と世界を臥薪嘗胆(がしんしょうたん)の末に収集を達成しました。
素材に使われた英傑の潜在能力はカーンにも受け継がれています。
これぐらいかな?という程度に魔法の練習を続けていますが、その力は1日ごとに上昇を続けていきます。
リサ母さんの言葉での献身ある教えは母からのそれで、師弟ほどの厳しさは無かったのでカーンは自分がどれほどの力があるかという物差しが無い状態にいます。
不安定に掘られた鉱山で、これ以上の事をすればどうなるか…… そんな常識は頭の中にはありませんでした。
──────ある日、カーンは憤怒しました。
リサ母さんの事を貶める発言を奴隷仲間がしたからでした。
捕虜になり、鳥籠ごしにリンチを加えているのを見ていた奴隷が鉱山に堕ちてきました。
その大人の奴隷は夕食時に「ここに魔法使いがいた」という話を他の大人奴隷から伝え聞くと、軽口でリサ母さんにした事をヘラヘラと笑いながら話出しました。
敵国の魔法使いの話です。
普通なら監視の兵士が止めるのですが、彼らもニヤニヤと笑いながらリサ母さんを棒切れで犯した話を聞いていました。
愛する者を壊した話を聞いて抑えようのない怒りを知りました。
まるで狂犬のようにカーンは叫び、大切な母を傷つけた奴隷を殴ろうと立ち上がるますが兵士組み伏せられます。
もちろんカーンの力はこれぐらいでは止まりません。兵士を払い除け、立ち上がり走り出します。
「と…… 止めろ!」
奴隷の食事を監視していた兵士達の全員がカーンにしがみつき引き倒そうとしました。カーンは怒りからか土魔法を暴発させながら歩こうとします。
許せない。
許せない…… ズーローが死んだリサ母さんが死んだこんば場所も全部…… 全部!
カーンが歩くと地面が揺れ動きました。
土魔法を足から地面に伝えて、しがみつく兵士を振り落とそうとします。
ゴ──────────────ン!パキパキパキ……
「なんだ!」
「うわぁぁ!?何の音だ!?」
地面や壁から何か大切な大きな物が割れる音が聞こえ、その後すぐに周りは砂まみれ。
大きな音、地鳴り、振動……
煙る土埃がスッと落ちると絶望の叫び声があがりました。
「鉱山の入り口が崩落したぞ!」
カーンの土魔法は、地盤を崩し鉱山のバランスを失わせるのに十分でした。
唖然としていたカーンは、隙が多くなっていました。崩落の責任として八つ当たりのように奴隷と兵士から暴行を受けて転がされました。
事実、カーンが崩落させたのですが、魔法を使えるとは皆は知りませんので真なる意味での悪意の暴行です。大人が眦(まなじり)を裂き子供をリンチする様は見るに耐えないものでしたが誰も止める事はありませんでした。
坑道に転がされ血だらけになりながらカーンはリサ母さんに謝ります「お母さんの名誉を守れなかったよ」…… カーンはそこで目を閉じました。
しばらくの時間の後─────── 「え?」
カーンは寝覚めて座りました。生きているとは思っていなかったしスッキリとハッキリとした気分だったからです。
「体もなんともない…… 僕の体はどうなっているんだろう?」
カーンの体は傷つくどころか、暴行から回復した所がより強固になったと手を擦りますが…… その顔は心の痛みで歪み、まるで喪家(そうけ)の狗(いぬ)のように悲しく寂しい顔をして項垂(うなだ)れました。
鉱山で色んな奴隷の死を見てきました。自分の体が気持ち悪いと思いますが、悲しいのはリサ母さんを思い出すからです。
「僕の、体があればリサ母さんは死ななかったのかな?」そういう言葉を、ぽつりぽつりと呟(つぶや)きハラハラと涙を流しました。
──────カーンへの暴力は、これで止まりませんでした。
泣いていたカーンを見つけた鉱山の崩落に巻き込まれて無かった生存者達はイライラとカーンを殴ります。
「もう泣かないから!」と大声を出すカーンの声が苛つくのかまた暴力がふりかかりました。
カーンは、この鉱山の中の誰よりも強いです。
カーンは、この鉱山の中の誰よりも優しいです。
そして、カーンはまだ誰にも自分の身を守るために力を使った事がありません。生まれてからだいぶの年月が経ちましたが、不幸にもカーンは人との関わりが薄くて精神的には幼いです。
怒る大人、痛い体。
体を丸めて謝るしか方法が分かりませんでした。
世界の児童虐待のように、逃げ方や仕返しをどうすればいいか思いつきません。誰かがズーローをバカにすれば…… 誰かがリサ母さんを卑下すれば……
カーンは耐えました。
1日…… 2日…… 3日…… 4日…… 5日目…… 7日目にカーンは「どうしたんだろう?」と恐る恐ると顔を上げて奴隷仲間が集まる場所に向かいました。
鉱山崩落で閉鎖され食料がすぐに尽きたのでしょう
奴隷は全て倒れていました。
ほとんどが餓死か、生きていても倒れて水分が摂れなくなり脱水に喘ぎ呻いているだけです。
カーンは妖精と同じように食べなくても、水を飲まなくても死にません。
食べたら美味しい、飲んだら気持ちいいと分かる人間的な趣向もありますがズロが狂気の果てに作り上げたホムンクルスなのです。
カーンは、この時に心から自分が気持ち悪くなりました。
自分が人と違う事は内緒にしようと決めました。
人の醜さよりよりも、強く深く愛情を知り、愛情に飢えているカーンは…… また愛するリサ母さんやズーローのような人に出会い触れ合いたいと思います。
でも…… 気味の悪い自分を好きになってくれるには…… この体は受け入れられないかも…… という考えは、幼いカーンに深く心に呪いのようにギュッと絡まり付きました。
リサがいればこう言うでしょう。
「カーンがどんなでも、私はいいわ」と。
今、ここにいるのは死体と今にも死にそうな奴隷だけ。
カーンの歪な考えを正す人はいませんでした。
兵士がいれば崩落を解除しようと動いたでしょう。
しかし、哀れな奴隷は犯罪奴隷を筆頭にしてあわあわと慌てる鉱山に閉じ込められた兵士をはじめに殺してしまいました。
────カーンはまた1人になりました。
ズーローと会う前のカーンなら耐えられましたが、もう人の気配がない暗闇にため息をつくほど嫌になりました。
そして、人の腐る腐臭も我慢できるものではありません。
カーンはどうにかならないかな?と鉱山を徘徊します。夜目はもう経験の上限を越えたのでしょう「暗いなー…… 」と言いながら母さんに歌ってもらった子守唄を微吟(びぎん)して飄々(ひょうひょう)と歩けます。
一度全て調べようと鉱山の階層をはい地下から上がっていきますが、あるのは餓死した骸のみ。
しかも行き止まり通路に遺体があると鼻が曲がるようです。
「臭いよぅ…… 」
カーンは結局、鉱山の一番上の階層まで何も発見できませんでした。
鉱山の一番上の階層は、出口があります。
「すごい…… 岩で埋まっている」
カーンは何度か出口から漏れる日の灯りを見た事があるので、今の状況に驚きます。
「出れる…… のかな?」
カーンら岩を一つずつ崩落現場から剥がしては、他所に退けて行く作業を始めました。
同じ作業の反復です。終わりが分からない作業はカーンの幼い精神を飽きさせます。
それに、ホムンクルスの体にやどる長年の鉱山労働で得た経験値による剛力を持ってしても「疲れてきちゃったな…… 」と零すほどに過酷でした。
「どこかで休もう…… 」
カーンはハッとしました。
上層階には貴族であるザハルトが視察に来て宿泊した施設があります。潰れていないといいな…… と願いながら早速(さっそく)に向かうと埋もれずに施設が残っていました。
「やった…… 」
施設前には監視をしていた兵士が首を撥ねられ並べられていました。
施設の中には血がベットリ……
でも、その血の持ち主はいないようです…… 「外の兵士さんをここで殺したのかな?」とカーンは心を納得させました。
ザハルトの施設はカーンには喜ぶべき物がたくさんありました。
水や食料ではありません。
ザハルトはこの施設でも仕事をしていたのでしょうか?資料や、それを運ぶ魔法鞄が床に捨てられていました。
兵士を殺した奴隷が食料が入っていなかいか確認して、筆記具や書類しか入っていないと打ち捨てたのでしょう。
「魔法鞄だ…… ズロ兄さんのより大きいかも」
ズロの顔は見た事はありませんが、カーンは眠りながら絵本の読み聞かせをしてくれたズロの声を思い出して、思わず魔法鞄をギュッと抱きしめました。
「ズロ兄さんに会いたかったな…… ここを出たら会えるかな?」
カーンは世界の広さを知りません。
カーンはズロが死んだ事を知りません。
でもカーンは長い人生の目標の一つにズロを探す事を誓いました。
優しいズロに会って、絵本のお礼をしたかったのです。きっとズロは兄として自分を好きになってくれると願ってしまったのです。
さて、とカーンは施設を巡ります。
貴族が宿泊出来る施設なので地下にありながら装飾が綺麗なのでカーンは思わず時間を消費してしまいます。
「外には…… こんな建物がたくさんあるのかな?」
カーンが今までで知る綺麗な物は、奴隷商人に麻袋を被せられる前に見た夜空だけ…… 「ズロの絵本もそうかな?」と夜空と絵本の記憶を辿りました。
「綺麗な物は夜空だけじゃないよ…… カーン、アンタを連れて行きたかったよ」
カーンは呆然と廊下に飾られる絵を見ながらリサ母さんの言葉は本当だったんだと思います。
「誰かと話したいなぁ」カーンは喜びを分かち合えない寂しさを知りました。ぽろぽろと頬を濡らし寂しく施設を調べます。
もし、幽霊(ゴースト)としてズロがここにいたらカーンを抱きしめていたでしょう。
それぐらいに寂しく辛い顔をしながら探索を続けました。
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