04

 正直、牢屋の中にいた方がマシだったのでは?

 頭を抱えてしまいたくなる状況に、ケイは呆然と立ち竦むしかできなかった。

 騎士に連れてこられたのは、ゲーム画面でよく見るようなだだっ広い玉座のある場所だった。

 そこには圧倒的な存在感と威厳を携えている男が、上から降り注ぐ光を浴びながら佇んでいる。ブロンドの髪が光に照らされてキラキラと輝いていて、とても神々しい。


(あれはまさか、王様という尊いお方なのでは?)


 という考えが一瞬で脳裏に過るほどに。


「アドルファスから話は聞いたが……賊の仲間と勘違いし、手荒い真似を働いてしまったようですまなかったな」


 顎髭を蓄えた容姿は貫禄があるが、髪と同じブロンドの目元はとても優しかった。

 王者の風格とは、まさにこの男に相応しい言葉だろう。そんな男が、よもやケイの前で跪いているのだ。理解出来ないことばかりおきているが、今が一番情報過多で脳内の処理が追いつかない。


「部下に変わって、非礼を詫びよう」

「陛下、そのように膝をつかれては……」

「よい、構わん」


 陛下と呼ばれたことで、彼はケイの想像どおり王であることが確定した。

 ならば、一国の王がどうして一介の庶民に膝を折っているのか……やはり、ケイがどれだけ頭をフル回転させても理解するには至れなかった。


「ふむ……」


 立ち上がった王はケイを見て軽く唸る。


「あ、あの……」

「あぁ、すまないな。あまりにも珍しい目の色をしていたので、少々見入ってしまったよ」


 気を悪くしないでくれ。そう笑って肩を叩かれた。

 それよりも、周りの騎士からの視線が痛い。ケイが王になにか仕出かさないか、警戒されているのがわかる。

 しかし、ケイもケイで……こちら側がなにか不敬を働いていないかどうか……それだけが気掛かりでならなかった。


(この人に不敬を働いたら死ぬ。まだ頭の硬い上司相手にしてる方が気が楽だよ)


 上司の期限を伺ったり、仕事先を相手取ったときよりも精神的な疲労感が凄まじい。出来れば早々にこの場から退散したいと、ケイは信じてもいない神に願う。



「――アレクシス陛下、四騎士が一人アドルファス……お呼びとあり、馳せ参じました」



 凛と響いた声に、今までこちらに気を取られていた周りの騎士たちの背がピンと伸びた。

 振り返るとそこには、ダークグレーの髪を持つ騎士……アドルファスが跪いている。


「アドルファスか、待っていたぞ」


 顔を上げたアドルファスの容姿を見て、ケイは息を飲んだ。

 あのときは暗がりでよく見えなかったが、明るい場所で見れば見るほどに整っている。


「……陛下、なぜこの者がここに?」

「なに、冤罪を詫びていたのだよ。いつまでも牢の中では申し訳ないだろう?」


 その当人を余所に、アレクシスとアドルファスはしばらく二人で会話を続けている。蚊帳の外のケイは手持ち無沙汰で、二人の様子を伺ってはいるが会話の内容までは聞き取れずにいた。

 ただ会話をしているだけなのに、二人をみているとまるで絵本や絵画を見ているような気分だと思った。


「そんなに見つめられてしまうと、年甲斐もなく照れてしまうな」


 いつの間にか話が終わっていたらしく、ケイの目の前にはアレクシスが顔を覗き込むようにして笑いながら立っていた。

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