03
おはようございますこんばんは? どうやらまだ夢から目覚められていないようです。
日々の働きすぎが祟ったか、実は精神がとてもやられていたのか……どちらにせよ、出社することは叶わないらしい。まぁ、今が何時なのかも分からないのだけれど。
(それに、今檻の中だしな)
現在地は所々に灯してある火に照らされた薄暗い地下牢。よくファンタジーなゲームでありそうな、そんな場所だった。
これがゲームであれば、仲間が助けに来るなり脱出の機会が出来るイベントでも発生するんだろう。
しかし、そんな仲間いるはずもない。その現実に直面したところで、ケイは小さな溜め息を溢した。
「あんたも災難だったな、盗賊と一緒に捕まっちまうなんて」
「ほんとだよ……日頃の行いは良いほうなのに」
牢屋番の兵士が気さくに話し掛けてくれるのが唯一の救いかもしれない。
一緒に捕らえられた賊は、どうやら違う場所へぶちこまれたみたいでここはとても静かだった。
「それにしても、その目と髪の色……珍しいもんだな」
「これが、珍しい?」
兵士が物珍しそうにケイの顔を牢の格子越しに覗き込む。
自分で言うのもなんだが、どこにでもいそうな、ありきたりの黒髪に黒目の日本人の風貌だったはずだと思う。
それを珍しいと言うのだから、ここは海外なのだろうか? それにしては会話も通じるし、不思議でならないのだが。
「黒髪なんて魔力の強い人間か、おとぎ話の神子様くらいなもんよ」
坊主はよっぽど魔力があるんだな、と感心したように兵士は笑う。
三十路前の男を捕まえて坊主はないだろうと思うが、それ以上に魔力なんて……生まれてこのかた魔法に憧れはしたが、使えたことなど一度もない。
もしかすると、あれだろうか? 三十歳まで童貞だと魔法使いになれるという都市伝説は本当だったのか!? もしそうならば、嬉しい反面とても悲しくなるなと、ケイは複雑な顔を浮かべてしまった。
「まあ、あれだ。冤罪だって言うなら、すぐに出られるから安心しろよ」
ケイの表情が曇ったのを見てなにか勘違いしたのか、ニカッと笑って安心してさせてくれる。その気遣いがあまりにも優しくて、心の中で兵士を拝み倒してしまった。
ここに連れて来られたときの鎧の男や、あのアドルファスと言う男とはえらい違いだ。あのときの出来事を思い出して、思わず苦笑してしまう。
「噂をすれば、だな」
地下に響く複数の金属音。牢屋番の兵士の言ったとおり、このあとすぐに牢から出ることになった。
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