放課後のスターシーカー

@nyanda3984

第1話 邂逅

「あぁ、眠い。」


 そう言って青々と生い茂った街路樹が立ち並ぶ道をとぼとぼ歩いているこの俺、名前は"星川道彦"(ほしかわ みちひこ)。


 俺は今、燦々と照りつける日差しを浴びながら自分が通う天橋高校を目指していた。


 昨日は夜遅くまで起きていたせいで身体が重い、そう感じながら学校を目指していると少し前の方を歩く一人の女性が目に入った。


「綺麗な髪だなぁ。」


 思わずそう呟いていた。


 長い黒髪は腰の辺りまであり、真っ直ぐに下ろされた髪の毛はまるで竹取物語に出てくる、かぐや姫を想わせるものだった。


 よく見てみると、うちの学校の制服を着ていた。


「あんな人ウチの学校に居たかな?」


 俺はもう高校二年生になるが、今までこの道を歩いていてあんな人は見たことがない。


「うちの学年で見たことないからもしかしたら先輩とか後輩なのかな。」


 そんな事を考えていたが、怠いのであまり深く考えるのを辞めた。


 日差しに熱されたアスファルトの上を歩き続けていると他の生徒たちも次々と登校して来た。


「ようやく着いたか」


 長い道のりを終えると、俺はホッと胸を撫で下ろした。


 さっき目の前を歩いていた人はもう姿は見えなくなっていた。


 もう校舎の中に入っていったのだろう。


「俺も早く教室に行くか。」


  校門を入り、正面玄関の下駄箱へ来た俺は靴を上履きに履き替えて、2年A組を目指した。


 階段を上り、廊下を歩いていると…。


 「よお、星川。何か眠たそうだな。」


 突然後ろから話しかけてきたのは同じクラスの"里野康二"(さとの こうじ)だった。


 俺は驚いたように振り返って答えた。


「おぉ、里野か。実はな昨日は夜遅くまで星を見ていたんだ。」


 里野は俺に素朴な疑問を投げかけた。


「あー、いつもの天体観測か。お前ほんと好きだよな。星なんて見て何が楽しいんだ?」


 何が楽しいのかと言われると何と説明した方が良いかと少し頭を悩ませる。


「楽しいってよりはどこか惹かれるんだよね。何故かは分からないけどさ。」


 寝不足なせいもあってか、とても抽象的な返答をしてしまうのであった。


「なんだ、特に理由は無いのか。」


 里野が少しつまらなそうに言った。


 やはり頭が働かないせいもあってか思考がまとまらず、適当な言葉も思いつかない。


 そのことを里野に言い訳をすると「そっか」と言ってとりあえずこの話しを終えた。


 そうこうしてるうちに、俺たちは教室に着いた。


 俺は、教室のスライドドアに手をかけてドアを開けた。


 教室の中は沢山の生徒たちがそれぞれ自分たちの時間を過ごしていた。


 席に3人程が集まっていたり、1人で読書を楽しんだりしている。


 俺と里野は、各々自分の席に着いた。


だいぶ使い古されたであろう机には擦れや文字が彫られていて年季を感じさせる。


 窓際の席なので日当たりが良く、ひなたぼっこをするには最適なポジションなのだ。


 午後になればのんびり昼寝でもしようかなと考えていると担任の川島先生が入室して来た。


 先生は教卓に着くと持っている書類やボードなどを置いて顔を上げた。


「お前たち席に着けー」


 他の人の席で盛り上がって会話してる者やたち歩いてる人たちがズルズルと席に戻る。


 皆が着席したのを確認すると先生は話し出した。


「今日は突然だが転校生を紹介するぞ。」


 先生がそう言うとクラスは騒然とした。


「えーどんな人なんだろ?」「こんな時期に転校生とは珍しいなぁ」などの声が飛び交う。


 俺はと言うと差ほど気にもせず辺りを見渡していた。


 皆の期待を余所に川島先生は言う。


「よし、入ってきて良いぞ。」


 すると教室のドアが恐る恐る開けられた。


 そして一人の女生徒が入ってきて、黒板の前に立った。


 俺は思わず目を見開いた、何故ならその女の子はさっき登校する時に見かけた、かぐや姫だったからだ。


 凛とした顔立ちに絹の様な美しい黒髪に、教室の窓から差し込む太陽光に当てられた色白の肌はまるで雪を何層にも重ね合わせた様な美しいものだった。


 気づけば俺は、その転校生に目を奪われていた。


 さっきまでの眠気がまるで嘘だったかの様に俺はまじまじと見ていると、その転校生は口を開いた。


「初めまして、都会の方から引っ越してまいりました。」


 転校生が淡々と話し出すと、川島先生が白いチョークで黒板に文字を書いていく。


「名前は"姫川美織"(ひめかわ みおり)と言います。」


 この時、外からぬるい風が吹き出して彼女の髪をなびかせた、そして俺は何かの始まりを感じられずにはいられなかった。

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