第46話
「ドラゴンの紋章ですか……」
「何かしらない? 姉様の私兵団の刺繍を見抜いたガレイなら知ってるかもって思ったんだけど……」
「すみません殿下。私もクリフ殿同様貴族の方々には詳しくありません。あの一件は私兵団という武装組織だったから、たまたま知っていただけなのです」
「そうなのか。ごめん、他を当たってみるよ」
「力になれずに申し訳ございません」
アイリの母へ養育費を渡している謎の男。
その帽子にはドラゴンの刺繍があった。
しかし、今のところそれがどの貴族の家なのかつかめずにいた。
◆
「おいバカシャル」
王宮の中庭で一人読書に慎んでいると、いつの間にか来ていたセイが声をかけてきた。
その手には一枚の紙が握られている。
セイの表情から、真面目な話題なのだと察する。
ひょっとして例の件かしら?
「特待生の件、調べてみたがどういうことだいったい」
「何かわかったの?」
「逆だ、まるでつかめない。父親が誰か、どこの出身か、いつからいないのか。その全てが謎に包まれている。普通、情報が断片的に欠けているならわかるが、ここまで情報なしだとかえって不自然だ」
「意図的に情報を伏せられている……?」
「そういうことになるな。お前、なにを調べさせようとしているんだ?」
「それがわからないから、セイにお願いしたつもりだったんだけどね。でも手がかりゼロか」
セイの家の力でも調べられないほどの謎。
完全にブラックボックスと化しているアイリの父。
これは、私が思ったよりも遙かにヤバそうだわ。
でも逆に燃えてきた。野次馬根性が爆発ね!
「お前のほうは何かわかったか?」
「うん。アイリの家って母子家庭らしいけど、月に一度、母親が身なりの整った男から養育費をもらってるんだって。その男は帽子にドラゴンの刺繍をしてるらしいんだけど、誰も知らないんだよね」
「ドラゴン……? おい、それってひょっとしてこれのことか」
「ん? これってどれ?」
セイは手に持った紙を広げた。紙には図形のようなものが描かれていた。
よく見ると、それは紋章のようにも見える。
「なにこれ。こどものおえかき?」
「うちの諜報部が模写したんだよ! マリンローズ家の付近を監視するように、数人の怪しい人間がいてな。一般の住民には気付かれないだろうが、見る者が見れば同業だとわかる」
「マリンローズ家を監視? それって、アイリを見張ってたってこと? 養育費を渡した人間と同じやつらなのかな」
「おそらくな。やつらは決まって服装の一部にこの紋章をつけていた。つまり、何者かの命令でマリンローズ家の支援および監視をしているってことだ」
「なるほど……。でもアイリの証言と違うなぁ」
私がそう言うと、セイは不思議そうな顔をした。
いやだってそうじゃない。アイリは『ドラゴンのような』刺繍がしてあるって言ってたわ。
でもセイが見せたこれは、完全に図形だもの。
長方形にちいさい三角がついて、長方形の中に丸や小さい四角が盛り込まれている。
これが絵だなんて言ったら笑っちゃうわよ。
「ドラゴンの紋章とこの奇怪な図形。ひょっとしてなにか関連性があるのかも!? 新たな魔方陣!? それとも未知の生命体を表しているのかも!?」
「う…………」
「ん? どうしたのセイ。どこか具合が悪い?」
「ううううがあああああああああ!!!!!」
「ちょっ!? どうしたのセイ!? あぶなっ、モノ投げてこないで!! いたっ!」
「どうせ俺は絵が下手くそだっつーーーーの!!!!」
「あんたが描いたんかいーーー!!??」
なんで諜報部に描かせないでセイ本人が描いたの?
まるで情報が伝わってこないじゃない!?
というか、これドラゴンなの? え、本気で?
「確かに、あれはドラゴンのようにもみえた。つまり、この絵と一致しているはずだ」
「いやでも」
「この絵はドラゴンなんだよ!!」
「あっはい」
結局、ドラゴンの紋章を目撃した以上の情報はなかった。
セイがダメとなると、もっと国の秘密を知ってそうな人に頼らなくちゃね。
こうなったら、あの人のところに行くしかないわ。
「いやーでもセイがここまで絵が下手なんてね」
「……笑いたければ笑え」
「笑わないって。というか、意外な弱点があって、結構可愛いって思ったよ」
いわゆるギャップ萌えってやつね。
勉強が出来て、魔法の天才のセイが、運動も絵もダメってなにそれ!
かわいすぎでしょ!!
「///~~~~!!! 出て行けっ!」
「ご、ごめんって! だから土の魔法で攻撃するのやめて~~~!」
赤面するセイから、照れ隠しに上級魔法を撃たれて、私は逃げるように中庭から飛び出したのだった。
◆
「ふう。そろそろ日も暮れるわね。今日の雑務はこれくらいにして、少し休もうかしら……ん? なにかしら、床に大きな影が……窓に何かあるのかしら……?」
「おねえちゃあああああああん!!!」
「きゃああああああ!!??」
いたた、勢いを付けすぎて窓ガラスを突き破っちゃったわ。
マリーフェアお姉ちゃんてば、屋敷の最上階で仕事してるから、一階から登ると面倒なのよね。
だから魔法で最上階まで飛んで、窓からおじゃましようと思ったんだけど、しっぱいしっぱい。
「な、誰かと思ったらシャルロットじゃない。あなた、何をしているの?」
「お姉ちゃんにお願いがあってきたの。実はこの絵についてなんだけど……」
私はセイに貰った謎の図形……もといドラゴンの紋章をお姉ちゃんに見せる。
お姉ちゃんは絵を見て、首をかしげる。そして角度を変えながら見て、最後に半目で眺めてる。
お姉ちゃん、お姫様なのに凄い顔してるわよ……。
「……なにこれ暗号?」
「ドラゴンらしいわ」
「これのどこがドラゴン!? 悪魔召喚の魔方陣かと思ったわよ!」
「私もドラゴンに見えないわよ!!」
「どういうこと!?」
すっかり仲良くなったお姉ちゃん。
最近私と会話するときはテンションが高い。元気があるようで何よりね。
「実はかくかくしかじかで」
「なるほどねぇ」
手早くアイリの家の件、ドラゴンの紋章の件を伝えた。
お姉ちゃんは思案顔で図形を見つめている。
こういうとき、元々色白でダークな雰囲気を持つ美人だから、すごい綺麗に見える。
蓋を開けたら結構なポンコツだったんだけど。
でもだからこそ和解出来たんだし、そこは嬉しいところよね。
「……ねえ。一応確認するけれど、そのアイリって子は魔法の才能が凄いのよね」
「そうね。セイを押さえて単独トップの特待生だもの。たぶん、学年……いや学園で一番才能があるんじゃないかしら」
「彼女の才能は、どんなところが優れているの?」
「えっと、確か他の人には使えない珍しい光の魔法が使えるって言ってたわね」
「ふぅん。光魔法、ね」
「お姉ちゃん、何か気付いたの?」
お姉ちゃんの意味深に頷く姿に、ひょっとしたら知っていることがあるのかもと思った。
けれどそれは私の考えすぎのようで、お姉ちゃんは首を振り「知らないわ」と否定した。
残念。お姉ちゃんなら国のトップに近いし、何か知ってるのか持って思ったけど。
「でもそうね。気付いたことではないけれど。ひとつ気になったことがあるわ」
おもむろに、そういった。
「え? なに!? なにか知ってるの!?」
「落ち着きなさい。私が思っただけで、それでアイリって子の秘密がわかるわけじゃないわ」
「いいから教えて! 周りの人はここで止まっちゃってるの。先に進むにはちょっとでもいいから情報が欲しいのよ! お願いお姉ちゃん!」
「わかったから、離れて! ……もう。じゃあいいわ。私が思ったこと、そのまま伝えるわね」
「うんうん……!」
お姉ちゃんは少し息を吐いた。そして、軽く呼吸をすると、
「光の魔法が使えるって、まるであなたと真逆よね」
そう、告げられた。
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