第44話
私は学校が好きだ。
自分が社会の一員だと自覚できるから。
縛られたルール。決められたレールに従う日々。
そこから自分だけの道を見つける期間。
人生を決める機関。それが学校。
前世では道半ばで終わってしまった学園生活。
二度目の人生で再び学び舎に入る。
私は魔法学園が好きだ。
だって学食があるから。
「いつもはみんなと一緒にご飯食べるから、学食なんて来たことなかったけど、メニューが充実してるじゃない!
まあうちのシェフほどじゃないけれど。
でも......あ〜ん。んん〜〜! このスイーツおいしいわ〜!!」
私は放課後、学園の食堂に来ていた。
アイリと待ち合わせをしている。
授業が終わったら食堂で会おうと約束していた。
アイリがくるまで暇だから、せっかくなので食堂でスイーツを食べていた。
私が食べるのはアリュブリューレというスイーツ。
前世でも見たことない不思議なスイーツだ。
ドロドロとしているのに、形が一定に保たれた、プリンともゼリーとも違う食べ物。
口に運ぶと甘い香りと、ほのかな酸味が押し寄せてくる。
口の中がくすぐったくなるような感覚。
それがたまらない。
「すっごくおいしい! これ、いったい何を材料にしてるのかしら? うちのシェフにも作ってもらいたい!」
もぐもぐもぐ。ごくん。
あーたまらない。これ、次に来たときも頼もうっと。
私が食べ終えるのとほぼ同時に、クリフが食堂に現れた。
「あれ、どうしたんだいクリフ。アイリが来るまで自由にしてていいって言ったのに」
「シャルル様。そのアイリ様なのですが、先程教室に迎えに行ったところ、教室にはいらっしゃらなかったのです。
クラスメイトに確認しましたが、教室を出たということしかわかりませんでした」
「トイレ?」
「シャルル様、女性にそういうことは言ってはいけませんよ」
ちぇ。私も女の子なんですけどね。
でも確かに不思議ね。アイリってば私との約束わすれちゃったのかしら。
しかたない。私も校内を探すとしますか。
「じゃあボクは中庭側にアイリがいるか見てくるよ」
「わざわざシャルル様が迎えに行かなくともよろしいのでは? それくらいなら私が行ってきましょう」
「だめだめ。友達に会いに行くんだからボクが行かなきゃ。それに食後の運動も兼ねて動きたいからね」
「そういうことでしたら、かしこまりました。では私はグラウンド側を見てきます」
「よろしく頼むよ」
食堂を出て中庭に向かう。道中、アイリがいないか見て回ったけどいない。
中庭に着いて、周囲を確認。ここにもいない。
どこにいったんだろう。
ひょっとして職員室とか? それなら渡り廊下に行ってから、東棟に入らないと。
私は中庭から廊下へ行こうとした。
その時、ふとこの前のコトを思い出した。
「そういえば、この前は校舎裏でアイリがいじめられてたわね。あれからイジメはなくなったってきくけど......」
もしかして。そう思った私の考えは、間違いではなかった。
耳を澄ませば数人の会話声が聞こえる。
その声をたどっていくと、この前とは別の校舎裏にたどりついた。
倉庫の陰で絶妙に人目につかない場所だ。
「庶民ごときがシャルル様に取り入ろうなんて、卑しい女!」
「もう我慢なりませんわ! こうなったら魔法で勝負よ!!」
「待ってください......! 私は純粋に、シャルル様をご学友として......」
「お黙り売女! くらいなさい! ヒートバーニング!!」
「あ、危ない!」
とっさに飛び出たものの、少し遅かった。
火の魔法はすでにアイリへと放たれていた。
赤々と輝く熱波は、無抵抗のアイリに直撃するかと思われた。
けれど、その魔法は打ち消された。
剣の一閃によって。
「ガレイ!」
鍛え抜かれた肉体を持つ騎士がそこにいた。
「これはどういうことでしょうかレディ。一人の女性を大人数でよってたかっていたぶっているように見えるのですが。これが貴族の
淑女たる皆様のマナーなのでしょうか」
「が、ガレイ様!? いえ、これはその......違うんですわ!」
「私たちはただ、マリンローズさんに魔法の指導をしていただけですの......」
「ほう。特待生の彼女に指導、ですか。さぞかし素晴らしい魔法を使ったのでしょうね。
ですが、いま私が切り払った魔法はとても優
れた魔法には思えませんでしたが」
「う......」
ガレイの言うとおりだ。
特待生のアイリに一般生徒の彼女たちが教えることなど、何もない。
第一、今の魔法は人に向けて撃った。指導という域を超えている。
苦しい言い訳だ。
「アイリ殿は我が主の大切なご友人。何の理由があってあなた方は危害を加えるおつもりでしょうか」
「それは、マリンローズさんが......!」
「彼女が何か粗相をした、とでも仰りたいのでしょうか。ですが、それで危害を加えるなど王国淑女として失格です。
彼女がマナーを
知らなければ、進んで教えてあげればいい。無知を無知だからと責め立てるのは、赤子でもできます」
「うう......!」
おお! ガレイが理知的なこと言ってるわ!
いっつも筋肉としか言わないのに、やけに頭がよく見える。革命ね......。
っと、私も突っ立ってないで、彼女たちに注意しないと。
「ガレイの言うとおりだ」
「シャルル様!?」
「君たちがアイリの才能に嫉妬するのはわかる。でも、だからといっていじめるのはかっこ悪くないかな。
才能がある人の、才能以外のところで揚げ足を取るのは自分を小さく見せるよ」
「そ、それは......」
「それに、いちいち才能ある人に嫉妬してたら身が持たないよ。ボクなんて周りのみんなが優秀だから、優れてる部分が全くないから
ね」
「ハハハ。殿下は冗談が上手ですね」
いや、冗談のつもりじゃないんだけどね?
ガレイに剣で勝つなんて永遠に無理だし。いや、諦めないけどさ!
「それにこの前言ったよね。マナーを教えるなんて言いつつもアイリをいじめたら、どうなるかって。
ボク、これでも結構怒ってるんだよ。大事な友達をつまらない嫉妬心からいじめられてるのを見てさ」
これで何度目よ。私が見ただけでも三回目なのよ?
たぶんアイリは私が見てないところで、もっと被害に遭ってるはず。
なのに、文句を言い返すことも許されず、こうして黙ってることしかできない。
むかむかよ!
「君たちがそういう態度でいつづけるなら、ボクももう限界だね。そうだ、ちょうどムーちゃん......じゃなくてバルムンクの刃を研い
だばかりで、切れ味を確かめたかったんだ」
「ひ、ひぃ......!」
「ねえ。どこかに切り甲斐のあるものはないかな」
「ご、ごめんなさい〜〜〜〜!」
「失礼しました〜〜〜!!」
いじめっ子たちは気品のかけらもない走り方で去って行った。
ふん。いい気味よ!
でも、脅すにしてもちょっとやり過ぎたかしら。まるで悪役みたいだったわね。
「シャルル様......!」
涙ぐんだアイリが腕の中に抱きついてきた。アイリの肩が小さく震えていた。
そんな姿を見て、とても胸が切なくなった。私はアイリをそっと包み込み、あたまをなでる。
ふわりと花の香りがした。アイリの柔らかい雰囲気に合う、優しい香り。
「怖かったね。もう大丈夫だから」
「いえ......いいえ......違うんです......! 私、私は......!」
「な、泣かないで。ほら、ハンカチ。綺麗な顔が台無しだよ」
アイリの頬を伝う涙を拭う。
それでも、涙は止まらない。
「殿下。ここはいったん移動しましょう。どこか落ち着いて話しが出来るところへ行くのがいいでしょう」
「うん、そうしようか。ありがとうガレイ。君がいなかったらアイリがどうなってたことやら」
「いいえ。か弱い女性を守るのは騎士の本分です。殿下のお言葉があったからこそ、彼女たちも退いてくれました」
「そうかな? とにかく、アイリを助けたときのガレイ、いつもよりかっこよかったよ」
「ありがたきお言葉!!」
まるで本物の騎士みたい。いや、本物の騎士なんだけどね。
いつもとのギャップが凄い。
アイリを助けたときの剣で魔法を切り払うシーン、すごかったわ。
PVで見たイベントスチルそっくりね!
............ん? 今私なんて言った?
イベントスチルそっくり?
「............あーーーー!!」
「ど、どうかしましたかシャルル様......?」
「お気になさらずにアイリ殿。殿下はたまにこうなりますので」
「そ、そうなんですか......?」
思い出した! 今のシーン、たぶんゲームであったわ!
共通ルートの序盤で主人公が貴族の子たちにイジメに遭う。そこ攻略対象が助けに来るシーン!
事前のフラグ建てでどの攻略対象が来てくれるか変わるのよね。
私はアルクとタントリスしか攻略してないけど、たぶん他の三人も同じはず。
ガレイが魔法を切り払って、いじめっ子に啖呵を切るシーンがPVにあったし。
ということは、今の場面ってアイリとガレイの仲が深まったってこと?
「あああああぁぁぁ......」
アイリが助かったのはいいけれど。ガレイと仲良くなるってことは、つまりそういうことで。
は、破滅フラグが近づいたってこと、よね?
「殿下、なぜ落ち込んでいるのかはわかりませんが、移動しましょう」
「シャルル様......? どこか具合がわるいのですか?」
二人揃って私の顔を見てる。息ぴったりだわ。
やっぱり入学してからはひと味違うわね......。
でも負けない! 今のところアイリと仲良くなって、みんなとも不仲にならずに済んでるんだから!
絶対にハッピーエンドに向かってみせる!!
「あ、あの。本当に大丈夫なのでしょうか? 先程から落ち込んだり明るくなったりしてますけど......」
「安心してください。ああなった殿下は色々と考えごとをしてるの
です。きっといい考えが浮かんだのでしょう」
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