第41話
「紹介するよ。ボクの友達のアイリだ」
「あ、アイリです……。よろしくおねがいします」
入学式の翌日、昼休みの時間。
私はアイリを連れてみんなに紹介をした。
アイリは緊張した顔でみんなのことを見てる。
イケメン揃いだものね。仕方がないわ。
ジェファニーはなぜか頬を膨らませている。
どうしたのと聞いても、知りませんって言うだけだ。よくわからないわ。
「ふむ。アイリ嬢ですか。わたしは美猫のタントリス。以後お見知りおきを」
「え……? え……?」
「そう言いつつにおいを嗅ぐな変態卿!」
「むう、残念。彼女はどこか落ち着く香りがしたので、もう少し嗅いでいたかった」
「言い訳にもなってないからね!?」
それにしても落ち着く、かあ。
タントリスがそんなことを言うなんて珍しいわね。
こいつ、色んな女の子をかいでは「惜しい。あとちょっとです」とかセクハラまがいのこと言ってるのに。
私にはノーコメントで逆に怖い。
でもアイリには落ち着くとだけいった。
これって何か理由があるのかしら?
まあどうでもいいわね。だって変態のタントリスだもの。
アイリはすっかり困惑しちゃってる。
私が必死にタントリスを引き離すと、今度はセイが興味深そうにアイリを見る。
「まさか特待生とバカシャルが知り合いとはな。お前、本当なら彼女が新入生代表だったんだぞ」
「そ、それは確かに申し訳ないけど……。っていうか、ボクだって目立ちたくて目立ったわけじゃないから!」
王子が入学したのに、平民が新入生代表として出てくるのはちょっと……って学園長に言われたんだもの!
仕方がないじゃない! 仮にも私、王子なんだし。
でも平民だからって理由で辞退させるのはダメね。
実力があるんなら、平等に評価してあげなきゃ。
王族の私が言っても説得力ゼロだけど。
「さあアイリ。みんなと一緒に食事にしようか。ボクもうお腹ぺこぺこだよ」
「殿下は授業中寝てましたよね。それほど体力も使ってないはずでは?」
「そ、それは……。だいたい、授業の内容はボクの知ってることばっかりだったし。今更勉強する必要もないだろうし」
「いけませんよシャルル様。王子たるもの、勉学に妥協は許されません。それに寝ていると他の生徒に示しがつきません」
「うう……。ごめん、わかったよクリフ」
前世でも授業は寝てばっかりだったしなぁ。
そこそこ勉強してたからついて行けてたし、問題ないとおもってた。
でもそうか。今の私は王子なんだ。王子が寝てばっかりだと、信用に関わるわね。気をつけなきゃ。
「ところで今日はなにを食べるのかな? もうずっと楽しみにしてたんだよね」
「はいシャルル様! 今日は私が腕によりをかけて作ったお弁当を用意してますわ! さあ、たーっぷりとお食べになって!」
「わあ! ジェファニーの手料理かあ! 普段からお菓子をつくってもらってるけど、弁当は初めてだね!」
ジェファニーの取り出したランチボックスを開けると、そこには色とりどりのサンドイッチがあった。
「うん。おいしそう! いただきまーす!」
タマゴサンドはふわふわで、ほんのりと酸味が効いてる。
よくわからない肉とレタスのような野菜のサンドは、香ばしいソースをつかってるのね。
どれもとてもおいしいわ!
「ジェファニーは料理じょうずだね! どれも本当においしいよ!」
「まあ、シャルル様ったら……。うふふ、ありがとうございます」
ジェファニーの嬉しそうな顔がまぶしい。
男性陣もガツガツとサンドイッチを口に運んでいる。
みんな口々においしいと言っている。それを聞いて私も自分のことのように嬉しくなる。
「素晴らしい味です! ジェファニー様の殿下への想いがそのまま味に現れていますね! しかし筋肉をつけるためにはもう少し肉を多めにした方がよいかと思われます!!」
「どんだけ筋肉好きなんだ……」
ガレイは隙あらばタンパク質を補給してるものね。
この前宮中の廊下で歩きながらコカトリスのゆでたまごを食べててびっくりしたわ。
さすがに行儀が悪いから注意しておいた。
「あーーーーー!!!」
今度は廊下のほうから中庭に向けて大きな声がした。
聞き覚えのある、低音ボイス。この声は……。
「貴様ら! なぜここで食事をしている! この学園には俺様も妥協できる味の食堂があるのだぞ!?」
「あ、アルクだ。今日はちゃんと授業にでてるのかい?」
「大丈夫だ! 俺様が眠くなるのは昼食後だからな!」
全然ダメじゃない。
というか、遠回しにこれから寝るって宣言しおったわ。
「もう。ちゃんと授業でないと進級できないよ?」
「安心しろ。俺様は授業さえ聞けば成績上位だ。補修を受ければ問題ない」
「ごめん。安心できるポイントがないんだけど」
アルクも乱入してきて盛り上がっていると、ふとあることに気が付いた。
「あれ。アイリ、どうしたの? 食欲ない?」
「いえ。その……すみません!」
「え? ちょっとアイリ!?」
アイリが逃げ出してしまった!
どういうわけかわからない。ただバツが悪そうな顔をして、どこかへ行っちゃった。
気分が悪いのかしら。
結局ジェファニーのサンドイッチを一口も食べなかったもの。
そういえば、昨日と少し態度が違ったわね。
今日の昼休み、彼女を誘うまでは普通だったんだけど。
思えば私のグループの面々を見てから様子が変わったような。
「シャルル様」
「クリフ。彼女、いったいどうしたのかな。ボク、何か悪いことしたんだろうか」
「いえ、そのようなことは。ただ彼女は萎縮してしまったのでしょう。彼女は平民の出。我々と一緒に食事なをしろと言うのは重責でしょう」
「え……? あっ」
そっか。私バカだ。
彼女は王子とその取り巻きに食事にさそわれた平民。
この国の次期国王とその使用人たちに囲まれて食事なんて、気が休まるわけがないわ。
私が前世は普通の女子高生だったせいで、彼女と同類意識が芽生えてたけれど。
彼女はそうじゃない。普通の女子高生が総理大臣と会食だなんて、土下座してでもご遠慮したいはずよ。
「考えが足りなかった……。でも、だとしたらなんでボクとは普通に話せてたんだろう」
「それは……大変申しにくいのですが、シャルル様は知名度が……」
「う……。でも、昨日の新入生代表の挨拶で名乗ったはずだけど?」
確かに私は王子のくせに一般の認知度が低い。
でも、昨日はっきりとシャルル・ノアロードと名乗った。
この名前を聞けば、国民なら誰もが私を王族と理解するはずだ。
けれど、アイリはそうじゃなかった。
「それなら理由がありますよ」
「知ってるのかタントリス」
「ええ。この風聞のタントリス。知らないことはありません。彼女は昨日、入学式に遅刻したのです」
「遅刻? よりによって入学式になんで?」
「どうやら、来る途中に猫を見つけて、それで遅れた模様です」
「猫……」
アイリって、意外に天然なのかしら。
そっか。入学式に猫を見つけて遅刻かあ。
……あれ? どこかで聞いた話ね。なにかのゲームのプロローグであったような……。
「ありがとうタントリス。君の情報があってよかった」
「いえ。報酬は王子のうなじの香りを……」
「それはやめて!」
みんなのまえで嗅ごうとするな! いや二人きりのときもだめだけど!!
ところで、何でタントリスはアイリの遅刻の理由をしってたのかしらね。彼女とは初対面のはずだけど。
……いや考えるのはよそう。タントリスのことを知れば知るほど、背筋がぞわっとするのだから。
深淵を除こうとするとき、逆に深淵もこっちを見てるのだ。
タントリスを見るとき、タントリスもこっちを見てる。怖い。
「うーん。気になるな。ごめん、ちょっとアイリを探してくるよ」
「はい。お気をつけて」
アイリの教室に行ってみたけど、まだ帰っていないみたい。
図書室や体育館もいない。まさか屋上!? と思ったけれどハズレみたい。
結構走り回って息が切れてきた。もう諦めようかな。
そう思ったとき、校舎の影に五人くらいのグループがいるのを見つけた。その中にはアイリもいた。
ひょ、ひょっとして私じゃなくて友達のグループとご飯食べたかったのかしら……。
気まずいのでバレないようにこっそり近づこう。
「あなた、特待生だからって調子に乗ってるのではなくて?」
「そ、そんなことありません……」
「あらそうかしらぁ。あなたみたいな平民が、シャルル様に近づこうだなんて、浅ましいにも程があるわ」
「本当よ。特待生って立場を利用して王族に取り入るだなんて、本当卑しいですわ」
「ち、ちがっ……! 私、そんなつもりじゃ……!」
なんか凄い現場目撃しちゃったーーーーー!?
なにこれ、イジメ? イジメなの!?
というか、イジメの原因私じゃない!? 平民と王族? クリフの言ったとおりじゃない!
あーーーー! やっぱり私の配慮の無さが原因じゃない!
「あなた。アイリ・マリンローズさん。あなたはこの学校にふさわしくありませんわ!」
「そうですわ! 王子であるシャルル様に無礼をはたらいたんですもの! あなたにこの学校の敷居を跨ぐ資格はなくてよ!」
「そ、そんな! いくらなんでも横暴です!」
「横暴なのはあなたのほうではなくて? 特待生になれた理由も怪しいものですわ。光魔法、でしたっけ? それも試験管に取り入ってつくったデタラメではないのかしら」
「違いますっ! そんな、ひどい……!」
ひ、光魔法!? マリンローズ!?
なんだか聞き覚えある単語が出てきたわ……!
というか、このシチュエーション。私も覚えがある……。
これは確か、共通ルートで攻略対象の誰かに会ったら発生する初期のイベント。
……って、えええええーーーー!?
ひょ、ひょっとして……!
アイリって、【誰ガ為ニ剣ヲトル】の主人公なのーーー!?
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