第38話
シリカの口からマリーフェアの指示で動いたと証言を得たわ。
タントリスのすごく嫌な尋問によって……。
感謝しなきゃいけないんだけど、純粋にありがたく思えないのは私が悪いのかしら……。
「これだけの証拠があればマリーフェアも言い逃れが出来ないはずだ。早速いくぞ!」
「「「おー!!!!」」」
というわけで、セイを先頭にみんなでマリーフェアのいる棟へと向かうことに。
いよいよ実姉との対面ね。
腕が鳴るわ! 私のジェファニーに手を出したこと、ただじゃおかないわ!
◆マリーフェア邸
「遅いわねシリカ、まさかしくじったのかしら」
「ふふふ……。マリーフェア様。しょせんあやつは我らマリーフェア私兵団の中で最強」
「左様。あやつが捕まったとすれば我らに打つ手立てはありませぬ」
「くくく……。マリーフェア四天王の誇りよ」
「なに決め顔で言ってるのよ! あなたたちがちゃんとしないからシリカが一人で頑張る羽目になったんでしょうが!!」
「ふ、ふふふ……。そうは言っても暗殺なんてこの国で今までなかったですし……」
「さ、左様。むしろボディガードの我らに務まる仕事ではありませぬ」
「くくく、セイ殿とガレイ殿がいるところに特攻など無理な話……」
「だからなんで強そうな雰囲気で反省会してるのよ! なんとかしなさい!!」
「「「無理です!!!」」」
「どうするのよ!!??」
「たのもーーーー!!!」
マリーフェアの邸宅の扉を開ける。
というか、邸宅があるっておかしくない!?
私は王宮の一区画を与えられてるだけなんだけど!
てっきり私と同じように王宮のどこかに住んでると思ってたのに!
もう頭にきたわ!!
「あなたがマリーフェアか! よくもボクのジェファニーを危ないことに巻き込んでくれたな!!」
「シャルル様、その名乗りだとまるで初対面ですよ」
「あ、そっか……。やりなおしやりなおし……。こほん、マリーフェア姉様! なぜボクの婚約者を襲撃したのですか!!」
マリーフェアは表情を変えずにこちらを一瞥した。
冷たい瞳、まるでシンデレラの継母だわ。
マリーフェアは言った。
「シャルル……。あなた、第一王子だからといって少し横暴でなくて? 姉妹とは言え私の館に土足で踏み入るなんて無作法というもの。それでよく王位を都合だなんて言えるわね」
「あ、ごめんなさい。靴脱がなくちゃ」
「殿下! 靴なら私が持っておきます! 懐で暖めましょう!」
「いやシャルル様、ガレイ様! そういう意味ではないかと!」
クリフに止められたけど、念のため靴の裏を拭いておく。ゴシゴシ。
って、そうじゃないわ!
「姉様! 単刀直入に言います! あなたの私兵のシリカがジェファニーを襲うところを捕らえました。このようにマリーフェア私兵団の刺繍が縫われた衣服もあります! 彼女もあなたの指示によるものだと認めました! 言い逃れは出来ないと思ってください!!」
「そう。それで?」
「は……? その、それで……とは?」
「だから、私が指示したからなに? 理由なんてわかりきってるでしょう。あなたの婚約者に私の息がかかった者をあてがって、政権を影から操る。その企みが失敗した。それだけでしょう?」
やけにあっさりと認めた。
それにしてもこの冷静さは何?
やけに落ち着いているわ。まるで試験勉強が全然出来なくて、本番当日になった私みたい。
期末試験の対策が間に合わないと、やばい状況なのに逆に開き直ることあるわよね。
マリーフェアの態度はあれに近いわ。
いや、私の勝手な想像だけど。
まさか暗殺を指示した親玉がそんな状況なわけないし。
気のせいよね。
セイとガレイがマリーフェアに語りかける。
「マリーフェア殿下。此度の件、未遂とはいえ立派な犯罪です。第一王子の婚約者の暗殺など、公になれば廃嫡は免れません」
「そうです。シリカ殿は殿下……シャルル殿下にも危害を加えようとしました。これは立派な反逆罪です。この責任はマリーフェア殿下にあります」
え、そんなに大きな話だったの? 廃嫡って……。
それじゃあ、ゲームのシャルルと同じじゃない。
別に姉妹の絆なんて感じてないけど、いきなり廃嫡されると聞くと胸が痛む。
だって、シャルルの末路を知っているから。
マリーフェアが似たような道を辿ると思うと、心臓がキリキリする。
だというのに、当のマリーフェアは依然無表情だ。
「ふん……あなたたちの話など聞くに値しないわ」
セイとガレイの忠言にも全く聞く耳を持とうとしない。
これでは埒があかないわ。どうにかしてマリーフェアに罪を認めさせて、今後一切の干渉をしないと誓わせないと。
じゃないと、ここで帰ってもジェファニーはまた襲われる。それじゃダメよ。
なにか、きっかけがあれば……!
◆マリーフェア視点
「ふん……あなたたちの話など聞くに値しないわ」
はーーーーーー!!! 終わった!!!
もうダメ、終わりだわ。廃嫡決定!
まさかシリカがシャルルに手を出してたなんて知らなかった。
あれだけ婚約者だけ狙えって言ったのに。
完全に王子狙いの罪が追加されちゃったじゃない。
そもそも、最初はこんなことするつもりなんてなかった。
落ちこぼれのシャルルが可哀想だから、私が実権を握って陰から支えようと思ったのに。
数年前までシャルルは生意気で出来損ないの小娘だった。
その時は別にシャルルを助けようだなんて思わなかった。
でも、あるときからシャルルの悪い噂を聞かなくなった。
単に周りが呆れて話題に出さなくなったと思った。
しかし実際は違った。
年に数回ある姉妹たちの誕生日で顔を合わせるたび、シャルルがまともになっていった。
落ちこぼれの生意気な小娘ではなく、落ちこぼれなりに王位を継ごうと頑張っていた。
あんな父親の言いつけを守っているのだ。
それがいたたまれなくなって、こんな暴挙に移った。
結局失敗して、本人に咎められているわけだけれど。
どうやらジェファニー・オルコットとの仲は良好らしい。
同性とはいえ、婚約者同士上手くいっているようだ。
つまり、私のおせっかい。
余計なことをしたにすぎない。
私の配下にある貴族の娘から、シャルルが女だとわかっても了承してくれる子を選んでやるつもりだったが、それも全て意味のないこと。
つまり、私は空回っていた。
罪を覆わされるのは避けられない。もう詰みだ。
あははは。
◆
マリーフェアの表情は不変。
まるで氷像のようにいっさいの動きもない。
さながら、生徒指導の先生に怒られて顔面ブルーレイな私みたいだ。
…………うん?
なんだかさっきから、マリーフェアの表情を変な例えにしちゃうわね。
何でかしら。前世の私と微妙に被るのよね。
でも、悪役王女がそんなわけないし。気のせいよね?
…………本当に気のせいかしら。
ひょっとしたら、マジで開き直ってるのかも。
つまり詰み状態。
反論できる材料がないけど、認めたら終わっちゃう。
そんな状況だったりしない?
だとしたら、この状況はいけないわ。
…………よし! 決めた!
「マリーフェア姉様!」
私はマリーフェアに向かって声をかける。
マリーフェアは固まった表情を僅かに動かし、こっちを見た。
「何かしらシャルル」
「マリーフェア姉様。二人きりでお話しませんか?」
「へ……へえ、面白いことを言うのね」
ピクリと表情が動いた。
反応があった。
手応えアリね!
「殿下! ダメです!」
「シャルル様、考え直してください! 危険です!」
「二人とも、お願い」
ガレイとクリフは納得いかないといった顔だ。
セイは私の顔をじっと眺めて、一言だけ聞いてきた。
「いいのか? シャル」
「うん、大丈夫だから」
「……そうか、わかった」
それだけ言って、セイはガレイとクリフを連れて外へ出て行った。
「あなたたち」
「マリーフェア様、よろしいのですか?」
「ええ。ここは弟の言うとおりにしましょう」
「くくく。かしこまりました」
マリーフェアの私兵も外に出て、二人きりになった。
さて、姉妹水入らずの時間よ。
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