第30話
階段を降りていくと、先程の部屋と似た広さの部屋にたどり着いた。
うーん、やっぱりゲームでも見覚えがないわね。
どうやら本当に隠し部屋みたいだわ。
裏技のやり方を覚えてるなんて私ったら頭いいわ! 誰か褒めて!
「何もないな」
「確かに。特に宝箱が置いてあるわけでもなく、本当にただの空き部屋です」
「どうやらここは地下倉庫か何かのようだな、何もないのは残念だが」
「ですが、この部屋にある丸い柱は筋トレに使えそうですよ! ほら、柱を腕で掴んで足を上げれば腹筋が鍛えられます!」
「う~ん、ぱっと見なにかあるようには見えないけど……」
本当にここが裏技で行ける場所なのかしら?
もしかして、ハズレだったりするの?
みんなで部屋の中を色々と物色してみたけど、結局お宝らしきものもなく、完全にもぬけの殻だとわかっただけだった。
「なーんだ、期待外れもいいとこだぜ」
「まったくですね。もしかしたら、私たちより先にここにたどり着いた人がいて、お宝とか持ち出した可能性もあります。残念ながら収穫なしですね」
みんなのガッカリした表情を見て、少しだけ申し訳なくなるわ。
何だろう、小さい頃ゲームサイトで見た裏技を友達と一緒に試したらガセ情報だったって知った時のような気分。
徒労、そう徒労に終わったって感じね。
体力以上に疲れたような錯覚を味わう。
「ごめんみんな。余計なことしちゃったみたいだ。さあ、上の部屋に戻ろう――」
「殿下! 危ない、扉がっ!!」
「え?」
ガレイに呼び止められて後ろを振り向いたのがいけなかった。
入り口の扉に手をかけていたのだけれど、取っ手を握る手に違和感があった。
「ぐじゅるるるる……」
「ひっ」
扉が、私のことを見ていた。
扉にはいつの間にか目があり、大きな口があった。
模様なんかじゃない、これ、生きてる!?
「くっ……手が離れない……!」
取っ手は私の手を離すまいと形を変えて、手を固定して離さない。
「え、ちょっ……何、これ……!?」
「シャルル様!」
咄嗟にクリフがナイフを投げて扉(?)に攻撃する。
しかしナイフは弾かれて、全く効いていないようだった。
扉は大きく口を開けて私を食べようとする。
取っ手から離れられない、ダメだ……食べられる……。
嘘、私死ぬの……?
前世で死んで、せっかく二度目の人生を得たら破滅フラグまみれで最悪で、それがいやだから努力してきたのに。
ゲームの破滅フラグに関わることもなく、こんな見たこともない魔物に食べられて終わり……?
ああ、結局私は何も出来ない、つまらない人生がお似合いなのかも……。
「ジャッジメント・ガイアブレイク!」
諦めていた私の横を巨大な岩の柱が通る。
岩の柱は扉に直撃し、その大きな口いっぱいに岩を詰め込んだ。
土の魔法、これは――
「シャル、何やってるんだ! そいつはデモンズウォール、高レベルダンジョンにいるトラップ型の魔物だ! はやく逃げろ、死んでしまうぞ!」
助けてくれたのはセイだった。
魔法が得意って本人がいつも言ってるし、稽古の時も見てきたけれど、今の一撃は凄かったわ……。
そういえば、ゲームだと主人公よりも魔力ステータスが高い唯一の味方なのよね、セイって。案外すごいのかも。
あと、この魔物はデモンズウォールって言ってたわね。それなら知ってるわ、ゲームで罠型の魔物として戦ったことあるから。
宝箱型の魔物同様、プレイヤーから嫌われてる魔物なのよねこいつ。
弱点は特にない。けれど特別高い耐性があるわけでもない。
つまり満遍なく強いやっかいなやつ。
「シャル、ほらどうした逃げろ!」
「セイ! ……逃げたいのは山々なんだけど、取っ手が絡まって逃げられないんだ……!」
「何? そうか、普通のデモンズウォールは壁に擬態して冒険者を捕らえるがこいつは扉、絶対に触れられる取っ手を罠にしているんだな。賢い野郎だ」
「か、解説はいいから助けてよ! 利き手が塞がれて剣も取れないんだから!」
「取っ手は金属か……よし」
私の手にセイの手を重ねるように取っ手に触れるが、彼の手もまた絡め取られてしまう。
ダメじゃん、何やってるの!? と思っていると、セイは小さな声で魔法を唱えた。
すると、数秒経って取っ手の部分がボロボロと崩れ落ちた。
まるで雨で錆びたボロい傘の骨がポキンと折れる感じだ。
「ものを腐食させる魔法だ。鍵付きの部屋に侵入する時に役に立つ。ほら離れるぞ!」
「ねぇ……それでボクの部屋に入ってきたりしてないよね?」
「鍵を壊したら交換するのに時間がかかるだろ」
「それもそうか、ボクの部屋の鍵が交換されたことないもんね」
「そうそう、あるわけないって」
なぜか言い聞かせるような言い方のセイに疑問を感じたけれど、とりあえず助かったわ!
私は急いでデモンズウォールから離れるために走ろうとした、その時――
「痛っ……!」
右の太ももに熱が走る。
見てみると、大きな穴が空いていた。あはは、こんな穴体に初めて空いたわ……笑えない。
どうやらデモンズウォールが口に詰められた石柱をかみ砕き、逃げる私の足を舌を伸ばして貫いたみたい。
凄くいたい! それこそ、その場で地面に倒れ込んじゃうくらい。
「シャル! くそ、汚い舌でシャルに触るんじゃねえゲス野郎!!」
「ぎゅるるるる!!」
セイの攻撃はデモンズウォールに効いてはいるみたいだけど、決定打にはなっていない。
デモンズウォールは次第にセイの魔法に対応し始め、全て舌で捌いている。
そして、目から謎の光線を出して私に向かって攻撃した。
だめ、今度こそやられる……!
「うううぅぅ――――うう? あれ、死んでない?」
「大丈夫ですか、シャルル様」
「クリフ……」
そこには天使がいた。
私を抱えて宙を舞う、翼の生えたクリフ。
とても素敵な姿で、思わず言葉を失ってしまう。
「間に合ってよかった。雷魔法で翼を作り、瞬間的に加速したのです。あなたに何かあれば私の胸は悲しみで張り裂けるところでした」
「クリフ、ごめん……。ボクは君の主なのに……」
「主人を助けるのは執事の務めですよ。あなたはただ悠然と構えて私にお任せしてくださればいいのです。あいつを倒せと。あなたの憂いはこの私が全て掃除いたします」
「はい……」
――トゥンク
あれ? 今胸の鼓動が少し早くなったような。
もしかして私――死にそうな目にあって今更緊張したの!?
そうよね、きっとさっきはアドレナリンだか何だかが出て実感が薄かったから、今になって驚いちゃったのね。
きっとそうだわ。うん。
「さて、それでは邪魔ものを排除してまいります」
クリフは雷の翼で一直線にデモンズウォールに向かっていき、電流波を浴びせる。
あれは確かサンダーウェーブ! 他の攻略対象のルートでクリフのレベルが36になった時に覚える中級魔法!
そこそこ強い魔法なのに、今の時期に覚えているのはおかしいような……。
「ぎゅあああががが!!」
「ふん、不意打ちさえなければお前のような魔物の攻撃取るに足りん!」
「全くです。シャルル様が受けた痛み、一〇〇〇倍にして返して差し上げます!」
セイとクリフの二人の攻撃で、デモンズウォールと拮抗し始めた。
でもまだ倒し切るには足りないわ。
立てないけれど、私もムーちゃんと一緒に何かするべきかしら。
「おいおい、俺様の出番を取るなよ」
「ぐううううううう!?」
数十本の氷の槍がデモンズウォールに突き刺さる。
アルクの魔法だ。でも水魔法の使い手のアルクは、彼のルートの中盤まで上位版の氷魔法は使えないはずじゃ?
確か主人公を守りたいって気持ちで限界を超えるとか、そんな展開だったわ。
なのに、どうして今使えるの?
「俺様の大事な遊び相手に手を出すとは、貴様は万死に値する! 受けるがいい、アイシクルレイン!」
「ぐ、ぎゅっっっっ!!」
やった、押し始めた! もうちょっとで勝てるわ!
よし、ここは私とムーちゃんの闇魔法で最後のダメ押しを……。
「いけませんよ殿下。あなたはここで、我々の勇姿をご覧いただければいいのです」
「ガレ、イ……?」
ガレイが私の体をそっと抱き上げて、安全な場所へと運んでくれた。
軽々と抱えられたせいで、いやでもガレイの体を意識してしまう。
鍛え抜かれた体、隆起する筋肉。それでいて、優しくて勇ましい顔。
安心してと私に微笑んだガレイを直視して、なぜだか顔が赤くなる。
あれ? どうして顔が熱いの!? ひょっとして――デモンズウォールの舌に毒でも入ってたのね!
急いでポーチから解毒薬を取り出して飲むわよ! ……ふう、これで大丈夫。
でもまだ顔が熱いわ。解毒薬でもすぐ毒が消えるわけじゃないのかしら。
ガレイは私を置いてデモンズウォールへと向かう。
その跳躍は一足で十数メートルを超している。
やっぱりガレイはすごい。身体能力はこの中でも群を抜いているわ。
「我が主への無礼、その身で償っていただく! 我が主の剣ガレイ、押して参る!」
「ぐ、ぐ、ぐ、ぎしゃああああ!!」
デモンズウォールの最後の抵抗、舌と目の光線だけでなく、扉に使われている部品を飛ばして攻撃してくる。
みんなも負けじと反撃する。各々の魔法で迎撃して、反撃する。
「食らうがいい、我が主を守る最大奥義! 紅蓮剣!」
太陽と見間違うほどの赤い炎がガレイの剣から発せられる。
そして、その炎がデモンズウォールを一刀両断する。
「ぎしゃあああああ!!」
デモンズウォールは消滅して、塞がっていた道も開通した。
「よかった……みんな、ありがとう」
緊張が解けたからか一気に体が重くなる。
重いわ、風邪をひいた時みたいだわ……。
うん、もう魔物も倒したし大丈夫よね?
ちょっと疲れたから、もう……。
「シャル……?」「シャルル様!」「殿下!!」「シャルル!?」
こんなボスキャラ、聞いてないんですけど……!
心の中で叫んだけど、誰も聞いていないから何の返事もなかった。
そして、そのまま意識を失ってしまった。
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