第26話 アルク王子の無茶ぶりよ!

 あれからアルクは魔法の勝負を挑んでくることもなくなった。

 でも、だからといって大人しくしている王子様じゃなかった。


 ある日――


「おい貴様! 今日はポーカーの勝負だ!」

「いいですよ、私は強いですからねアルク殿下」

「がああぁぁ~~! 負けた~~!!」

「表情でバレバレですよ。もうちょっと落ち着きを持たないと」


 また別の日――


「貴様! 今日は剣術の勝負だ! 騎士団長の息子とこそこそと特訓しているらしいな! シャバツ流剣術五段の俺様と勝負だ!」

「ええ~剣術はあまり自信がないんですけど。ガレイじゃだめですか?」

「な、俺様は貴様を対等な相手と認めてやってるのに何だその言い草は!?」

「はいはい、分かりましたよ。……クリフ、ポーションの用意しておいてくれる? 怪我したら嫌だからさ」

「了解しました。たっぷりと用意しておきましょう」

「ごっ、があああ!! な、なぜ俺の不意打ちが防がれたんだ~~! 貴様化け物か!?」

「不意打ちなんて防げて当然じゃないですか。それよりもアルク殿下はせっかく水魔法を使えるんですから、魔法と剣術を組み合わせないと。水なんて汎用性の塊ですよ」

「えっ、魔法と剣術を同時にやるとか何言ってるのだ? 怖っ……」


 そしてまた別の日――


「おい、! 今日は逆立ちで宮中一周するぞ!!」

「逆立ちって、何でまた? ボクはアルクみたいに運動神経がいいわけじゃないんだけど」

「え、それ本気で言ってるのか?」


 アルクがマジかこいつといった表情で見てくる。

 なんか引かれてるような……。そんなに変なこと言ったの私?  


 アルクのそばにいたクリフがアルクに説明をしていた。


「アルク様、シャルル様はほら……鬼教官たちに鍛えられてますから」

「なるほど、こいつは自分を過小評価してるのだな。可哀想に、それ程の腕ならフレンテーゼ王国の要職に就けるだろうに」

「いやボク王子だからね!? 何で可哀想な目で見るの!? というか、本当に大したことないから。ボクはガレイのように大地を割ることも出来なければ、セイのように大地を生み出すことも出来ないからね」

「はぁ~~……」


 クリフとアルクは二人声をそろえてため息をつく。

 え、何で同時にため息ついてるの。ひょっとして二人キテルの?  

 私がこの数ヶ月間アルクと遊んでる間に、実は裏でクリフと繋がってたの?


 はっっ!!?? 繋がるってそういう!!????


 キャーーーーーーーーーー!!!!! まさかのアル×クリ!!  

 ゲームの時には予想もしなかった組み合わせ!


 いやでも、クリフは王子専用の執事なわけだし、他国の王子のアルク相手でも粗相はしないかも。

 案外相性がいいかもしれないわね。アルクリ……。


「おい、何を考えてるのか知らんがその気持ち悪いニヤけ笑いをやめろ」

「シャルル様、ナマモノはダメと以前シャルル様自身が仰られてましたよね……?」

「はっ!? いけないいけない。ごめん、ちょっと考え事を……ふ……ふへへ……」

「ううっ!?」


 アルクはブルリと大きく身震いした。そして青ざめた顔でこちらを見てきた。


「なんか分からんがお前から時々感じるそのオーラ、ダンジョンで出会った高レベルの魔物より恐ろしい……」


 失礼なことを言うわね。私はか弱い女の子だっつーの! と本音で言い返せないのがもどかしい。

 でも最近、体が大きくなってきたのよね。か弱いと呼べるレベルじゃないかも……。


 鏡で見る私の容姿は段々ゲームで見覚えのあるシャルルへと近づいている。

 ゲーム本編までもうすぐということだ。


 ゲームのシャルルは男子にしては身長がやや低め。一七二センチのクリフより小さかった。

 今の私は一六八センチ。十四歳の女子にしてはかなり高めだ。  

 元の世界だったらかなり目立っただろう。

 シャルルの顔立ちならモデルもこなせそう。くそっ、異世界なのが腹立たしい……!

 まあ、モデルなんて仕事私に出来るなんて思えないけど!


 ちなみに胸は相変わらず成長の見込みなし。

 周りに男子だと思われてるからあまり言及されずに済んでるからありがたいわ。

 ガレイに「殿下! 胸筋が相変わらず平原ですねっ! どうでしょう、ガレイ式部位鍛錬を行ってみませんか!」と誘われたけど、平原の標高が増すだけで双丘は生まれそうにないので断った。


 私が自分の体を眺めていると、私そっちのけでクリフとアルクが会話していた。

 やっぱりこの二人キテルのでは……?


「アルク様はダンジョンに入られたことがあるのですね。私は魔物を見たことがないのですが、どのような生物なのでしょうか」

「なんだクリフレット、貴様魔物と戦ったことがないのか。そうか、 貴様は王都の生まれだったな。ということは王都の外でよく見る平原の魔物も見たことがないか」

「はい、お恥ずかしながら。私もシャルル様相手に魔法の稽古を付けて貰ってますが、実戦は未だに……」

「ダンジョンはいいぞ。まずここでは味わえない緊張感がある。命の危険に身をさらす、死の恐怖をな。そして魔物相手に自分の腕試しをして、これまでの鍛錬は無駄ではないとわかり自信がつく。なにより、ダンジョン探索して収穫を持ち帰れば家の名に箔がつく。 俺様は既に王族だが、それでも将来を考えれば何かと有利になる」


 ええ~そうかしら。私だったら王族なのに無茶しないで! 事故ったらどうすんのよ!? って思うけどな~。

 でもダンジョン攻略か。ゲームの時はレアアイテムとかドロップしたし、この世界でも同じか試してみたいわね。

 ちょっと興味あるかも。


「確かに、王族の方がダンジョン攻略をすると聞けば勇敢な方だと思いますね。将来国を治めるならば、勇気ある人の方がいい」


 あれ、クリフは王族がダンジョンに行くのに肯定的なんだ。  

 ひょっとしてこの世界は根っからのファンタジーだから、現代日本生まれの私とは考え方が違うのかも。

 やっぱり武功とか大事なのかしらね、偉い人って。


「そういうことだ。魔法を使える以上ダンジョン攻略はやっておいたほうがいい。ということで、この国では魔法学園の生徒は課外授業でダンジョン攻略をするらしい」

「ではアルク様も?」

「ああ。もっとも課外授業だからそんなに奥深くまで潜らないだろう。あくまで経験付けのためだ」


 生徒が魔物にやられたら保護者激おこだろうしね~。


「というわけで、ダンジョンに行くぞシャルル」


 うんうん。

 事前にダンジョンに行くとは、予習に入念なのねアルクって。

 最近はちょっとずつだけど落ち着きも覚えてきて、頼もしくなってきた気がするわ。


 まぁ、私が攻略したアルクには程遠いけどね。


 我が子の成長を見守るのってこんな気分なのかしら。


「おい、聞いてるのかシャルル。来週、俺様と貴様、クリフレットの三人でダンジョン攻略だ。幸いこの近くに比較的安全なダンジョンがあっただろう」

「えっ私も!? ……じゃなくてボクも!?」

「当たり前だ。最近はガレイやセイ相手に魔法を使って稽古をしていると聞いたぞ。それなら実戦で使っても問題ないだろう」

「いや、でもわたボクもダンジョン攻略初めてなんですけど」

「よし、どっちが多く魔物を倒せるか勝負だ!!」


 ええ~……。


 アルクは日程を決めた後自分の部屋へと帰って行った。  

 取り残された私はクリフに確認を取る。


「ねぇ、あれマジ?」

「マジでしょうね」

「無理だろう!? ボク死ぬよ!!?」

「シャルル様なら大丈夫です! 頑張りましょう!」


 このイケメン執事め~~~!!

 最近は私の言うことを聞かず、強気に出てきおって~~~~!!  

 でも笑顔が可愛いから許す!!


 というわけで、人生初のダンジョンに行くことになったのだった。

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