第25話 俺様王子はお子様王子なのよ!

「おい貴様、なぜ学校に来なかった! 俺様との勝負から逃げたのか!」

「アルク殿下……何度も言いますが私はまだ十四歳です。魔法学園に通う歳ではありません。ですから当然、殿下と学園で勝負することなんて出来ないんです」

「そうやって言い訳して勝ち逃げするつもりか! 卑怯者のやることだな!」

「はぁ……」


 あれからことある毎にアルクに勝負を持ちかけられるようになった。


 ぶっちゃけ何回やっても負ける気はしないんだけど、下手に勝っちゃうと事態がこじれそうで嫌なのよねぇ。

 一回勝っただけでこうなってるし。


 というか、学園の生徒じゃない私が侵入したら普通に犯罪だから!

 王子だったら無理して入らせてもらえるかも知れないけど、絶対嫌だから!


 ため息をついていると、横からクリフが小さい声で質問してきた。


 いきなり乱入してきて場をめちゃくちゃにするアルク相手に、クリフも大分疲れているみたい。可哀想。



「もう一度くらい勝負をお引き受けしてもよろしいのではないでしょうか? その方が大人しくなるかも知れませんよ?」

「ボクが学園に行ったら間違いなく父上になぜ学園に行ったか聞かれるだろう。まさか他国の王子と喧嘩するために行きましたなんて言えないし、言わなくてもクリフ殿下が勝手に広めるんじゃないか?」

「なるほど、アルクショット殿下に付き合った時点でシャルル様の立場が悪くなると。そうなるとこの前の件は痛かったですね。意図せずアルクショット殿下と魔法の腕比べをした形になってしまいました」

「そうなんだよ……。アルク殿下の魔法に使用人たちが巻き込まれそうだったから防いだって説明したけど、それでも厳重注意を受けたよ」


 全く、この世界での私の父親は白状にも程がある。


 私はあくまで正当防衛として魔法を使った、アルク殿下に反撃してないと説明しても全く聞き入れてくれなかった。


 やれ王族としての立場だとか、やれ国同士の関係だとか。

 それを言うならアルクの方が注意されるべきでしょ-!?


「アルクショット殿下は留学しに来てる立場、何か問題があればまず招き入れている我々に責任が問われますからね……」

「理不尽だよ……! いきなり喧嘩を売られて、怒られるのはボクなのか……!? どうせ怒られるなら、いっそ思いっきり……」

「お、落ち着いてくださいシャルル様……!」


 クリフに制止されてようやく冷静になれた。イケメンの顔は癒やし効果があるのかもしれない。


 前世の親友ゆりちゃんの家にあった空気洗浄機から出るマイナスイオンの五〇〇倍は効く。


 こうやってクリフの目を見つめているだけで気分が穏やかになるのだから、バトラーって最高よね。


「あ、あの……そんなに見られると照れます……!」

「ごめんごめん、ついね。いや困ってるクリフの表情は中々面白いね。これだけでお金を払っちゃいそう」

「シャルル様がそう仰るのでしたら私は……」


 少し熱っぽい表情で見返してくるクリフ。なんだろう、目が離せない。

 まるで金縛りに遭ったかのように、クリフに釘付けにされちゃうわ。


 怖い、怖い! クリフって麻痺系の魔法が使えたの?

 あ、そっか。クリフの魔法適正は雷、きっとうっかり魔法を使って私を痺れさせたのね。


 もう、クリフったらうっかりさん。



『いやクリフは魔法を使ってないぞ。マスターが見とれてるだけだ』



 うっさいわねムーちゃん、そんなこと分かってるの。

 だってクリフは元々は推しキャラにする予定だったんだもの。そりゃ見とれちゃうわよ。


 ああ、好みの男の子が目の前にいるっていい……。

 ゲームで好きなキャラの3Dモデル閲覧してる時に近い感情を覚えるわ。



 ところで、クリフは最近やけに色気のある表情をするようになった。


 私の気のせいじゃなければ、彼は私を意識している。ラブかライクは別としてだけどね。

 彼が私の使用人になってからいい関係を築いてきた甲斐があったわ。


 少なくとも、ゲームのような『いやな主人』からは脱却できたはずよ。

 これでクリフルートの破滅フラグは消せたはず。


 BL教育の成せる技ね!! BL最高!!!!



 話を戻すと、クリフは私に対して熱っぽい表情をするようになった。


 私、というか『シャルル』に。


 つまり、男相手に。恥ずかしそうな表情を向けるように。



 おいおおおっぉっぁぁぁぁぁぁああああ!!!!!


 び、びびびびいっぃ!!!



 BLさいこうっっっっっ!!!!!!



 まさか男に転生(実際は男装だけど)して、理想の男子にフラグを立てるなんて!


 超イケてる二度目の人生じゃない!?


 うほおっぉっぉおおおおお!!!



「おい、貴様らまた俺様を無視するのか!!」

「ちっ……」

「えっ、今舌打ちしたか? 俺様王子だぞ……?」

「すみません殿下、先程食べた果実の実が歯に挟まっていたようで」

「そ、そうか。俺様に舌打ちしたわけじゃないならいい……」


 ほっとした表情を見せるアルクに、私は懐かしい感情を呼び起こされた。


 今の表情、ゲームで見せた顔と同じ……! 主人公が怪我した時に心配する時の表情だわ!


 アルクは一見すると気が強いけど、根は優しくてそこがギャップとなり人気があるらしい。

 私はネタバレを防ぐためネットの評判を一切見なかったけど、ゆりちゃんが言っていたことを思い出す。


 思い返せば確かにアルクは我が強いけど空気は読める、そんな男の子だった。


 ひょっとしたら、傍若無人な今でも根っこの部分は同じなのかも。


 試してみるか……。



「殿下、本当は私も殿下と腕比べをしたいのです。国を背負う王子として、歳の近い殿下から学ぶことはないかと思っているのですよ?」

「ちょ、シャルル様……!?」

「大丈夫、ちょっと見ててくれないかクリフ……」


「そうか! 俺様に負けても学べることは山ほどあるだろう! さあ、いざ勝負といこうじゃないか」


 私が負けること前提か、とツッコみは置いておこう。

 次に私が言う一言、それに対するアルクの対応で彼の性格が分かるはずだ。



「ですが残念です。少なくとも今は勝負が出来ないのです。少なくとも二週間ほどは……」

「二週間……? 何か大事なようでもあるのか? そんなもの放っておけ、俺様以上に大事な用などあるわけがないからな」

「いえ……殿下には大変申しにくいことでしたので黙っていたのですが、実は先日の殿下の魔法を防ぐ際、少々無茶をしてしまいまして……。魔力神経が損傷してしまったのです……」

「何!? 魔力神経に怪我を!?」



 よかった~……魔力神経って単語、この世界にあったんだ~。

 ゲームで見たような、ないような曖昧な記憶で言ってみたけど、セーフ。


 言葉の意味はそのまま魔力を生み出して流す神経ね。

 普通の神経とは違うこの世界特有の器官よ。



「医者からは二週間は魔法の使用を禁じられています……。殿下の魔法を甘く見た罰でしょうね……、あっいたたた……」

「そ、そうか……魔力神経を……。で、傷の方は大丈夫なのか? ま、まさか二度と魔法が使えないなんてないだろうな」

「いえ、二週間我慢すれば今まで同様魔法は使えます。ですが予想以上に重たい怪我なので、次も同じことがあればどうなるか分かりません……」

「お、俺様は謝らないからな! 未熟な貴様の腕を呪うがいい!! 今日のところは俺様は帰るぞ、魔法も使えん怪我人を相手にしても何も面白くないからな!! ふんっ」



 バタンと扉をしめて去って行くアルク。


 一気に静けさを増す客間、そして一斉に使用人達のため息が漏れる。

 特にクリフのため息がでかかった。


 ああ、イケメンのため息を至近距離で味わえるって、お金取れるレベル……。




「あの、シャルル様。先程の会話ですが……」

「ああ、嘘だね」

「ですよね、微塵も怪我をなさってる様子がありませんでしたから。ひょっとして二週間アルクショット殿下を避けるためだけにあんな嘘を? また二週間後に同じようなことが起きると思われますが……」

「いや、今の彼の反応からそれはないと分かったよ」

「どういうことですか?」


 不思議そうに首をかしげるクリフのために説明してやろう。



「まずボクが怪我をしたと聞いてアルク殿下の様子が少し変わったよね」

「はい、言葉のトーンが明らかに下がりましたね。怪我を負わせた自責の念でしょうか」

「いや、多分そこまでじゃない。たぶん単純に怪我人と知ってたじろいだだけさ。まあそれでも収穫がある反応だったよ」


 怪我人相手に問答無用で勝負を仕掛けてこないと知れただけでも十分。


 傍若無人な性格だけど、常識外れじゃないと分かったのだから。



「次に二度と魔法は使えないのかと心配した点。自分のせいで相手に障害が残ると反省したか? ノーだね。さっきも言ったとおり彼は責任を感じてないよ」

「じゃあ一体アルクショット殿下は何を思ってそんなことを聞いたのですか?」

「アルク殿下の魔法でボクが怪我をした、実際は違うけどこの内容を聞いたら誰だってアルク殿下の方が魔法の実力が高いと思うよね? ボクが彼の魔法を防いだのは、実はギリギリで彼の方が強かったんだってさ」

「まぁ、話の内容だけ聞くならそうですね。ですが、それが何か?」

「彼はボクより強いことを証明したいと言っていたのに、なぜこの結果に満足していないんだい?」

「えっ……それは、怪我をさせてしまったから……。いや、違いますね。怪我をさせたことに対する責任を感じてないとなると……すみません。私には分かりません」


 降参です、といいながら首を横に振ったクリフにクスッと笑いかけて正解を教える。



「彼にとってボクに勝つことが重要ではないのさ」

「え? ですがあれほど勝負を仕掛けてきたのに……」

「簡単なことだよ、ワトソン君」

「わと……え、誰ですそれ?」



 いけないいけない。思わず前世で読んだ小説の登場人物を口にしてしまった。


 ところでホームズとワトソンってかなりキテるカプだと思わない?

 普段はやる気が無いヤク中ホームズとしっかり者のワトソン。これ絶対キテるわよね?



 ……っと、話が脱線しそうだからやめておこう。



 アルクの性格は自分勝手だけど常識はある。

 相手と勝負したいけど、絶対勝ちたいってわけじゃない。


 こういう性格の男の子を、私は知っている。



「つまり、アルク殿下は子供なんだよ!!!」

「な、なんですってーーーー!?」



 遊んで欲しい、構って欲しいお年頃なのだ。


 ゲームのシャルルの性格もしかり。


 王族ってたぶん甘やかされて育てられる割に同年代の友達が少ない。


 だから、精神年齢が少しばかり幼いんじゃないかしら。



 歳が近く、立場も近い私を見て、ついつい強引に勝負をしかけてしまったのだろう。



 この前私に負けて怒ったのも、ゲームで負けていじける小学生男子だと思えば納得できる。


 ははは、そっかー。小学生男子かー。


 だから私にちょっかいばっかりかけてきたのねー。


 ……って


「納得出来るかーーーー!!」

「シャルル様!?」



 これからずっと精神年齢小学生の俺様男子を相手にしなきゃいけないの!?


 凄い大変そうなんですけどーーーー!?

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