第24話 4人目の攻略対象アルク王子がやって来たわよ!

「あ~気が重い……何でイケメンに会うのにこんな嫌な気分にならなきゃいけないわけ……」


 今日から新たなる攻略対象アルクショット・フレンテーゼがこの国にやってくる。


 アルクは私が生前にゲームで攻略した数少ない人物だ。

 当然、彼が主人公とどんな恋愛をするか覚えている。


「でも、それって今から二年後なのよねぇぇぇ……。この世界の歴史ってゲーム本編の二年前だし、その時のアルクがどんな人かって知らないから怖い」


 ゲーム中の会話にチラッと出た話だと、地元じゃワルだったんだぜというちょいワル自慢を聞かされた記憶がある。


 その時はゲームの会話ということもあって、深く考えてなかったんだけど……。


「ちょ、ちょいワルってどれくらいのワルさなのかしら……。場合によってはすごい面倒くさいことになりそうだわ……」


 ゲーム本編のアルクは我が強い俺様系王子様。

 でも他人に気を使える優しい面もある、ギャップ溢れる魅力的なキャラだった。


 さすが、パッケージでセンターを務めただけはある。


 私も危うく本命のクリフルートをプレイする前に乗り換えそうになったくらいだ。



「こちらにいらっしゃいましたか。シャルル様、アルクショット殿下がお越しです」

「来たわね……」


 かつての本命だったクリフ――今はすっかり同好の士になっちゃった私のバトラーが部屋まで迎えに来た。


 しょうがない。不安でいっぱいだけど、アルクの性格がゲームと変わらないと信じるしかないわ!



 ◆



「貴様がこの国の王子か! はんっ、貧しい国には貧相な王子が似合うものだな!!」


 うわっ面倒くさそう!!


 初対面でこの対応、間違いない。


 アルクはゲームより性格が悪いわ!!


「おい、せっかく俺様が挨拶してやったんだ。返事くらいしたらどうなんだ? 普通は庶民が俺様に話しかけられたら感涙に伏せるものだぞ」

「お、お初にお目にかかりますアルクショット殿下。私はこの国の第一王子シャルル・ノアロードです。この度は我が国の魔法学園にご入学なされるとのことで……」

「そうだ! 魔法学園がこの国にあるからわざわざ留学などしてやったんだ! だというのに、こんな埃臭い宮中に俺を泊めさせる気か? まったく、田舎の王族というのは礼儀を知らないようだな」


 う、うざ~~~~~~!


 え~~~ちょっと無理~~~! なにこいつ、超失礼なんだけど~~~!?


 このザ・悪役王子みたいな態度、どこかで見たことあるんだけど。

 すごいムカつくけど、どこか親近感があるような……。


「あっ……!」

「なんだ貴様、俺の顔になにかついているか?」

「いえなんでも。お気になさらずに……」


 わかった! こいつゲームのシャルルの性格そっくりなんだ!


 ゲーム中の悪役王子の嫌みったらしい言い方そのまんまだこれ!?


 えっと、つまりどういうこと……?


 本来アルクはこの国に留学に来て、性格がねじ曲がったシャルルと出会う。

 そこで色々あってゲーム本編の憎めない性格に矯正されるってこと?


 確かゲームだとアルクはシャルルのことが死ぬほど嫌いだったはず。


 アルクルートで廃嫡された理由がゲーム本編以外にも過去にアルクに色々してたからって感じだったし。



 つまりアルクは同じ悪役王子のシャルルを見て反面教師にしたから、まともな性格になったってこと!?


 じゃあ、私がシャルルになっちゃったこの世界だと、アルクは悪役王子みたいな性格のままってことじゃない!!



「そ、そんなぁ……」

「おい貴様、さっきから何一人で盛り上がってる。俺の顔を見て青ざめたりガッカリしたり、失礼なやつだ。……そうだな、ここは一つ入学前に俺の魔法の腕を見せてやるとしよう。おい、王宮にいる者どもを集めて広い場所に来い。貴様に魔法の稽古をつけてやろう」

「え、ちょっアルク殿下!?」

「貴様にアルクと呼ばれる筋合いはない! いいな、今から三〇分以内だぞ!!」



 客間の扉をバタンと開けてアルクは出て行ってしまった。



「あー……いっちゃった。ねぇ、クリフ?」

「はい、シャルル様……」

「今日、セイかガレイっていたかな」

「セイ様はお父上の仕事を手伝うため不在です。ガレイ様は騎士団の郊外訓練のためダンジョンに行きました」

「なんで!!?? なんで今日に限っていないの!? いっつも不必要なくらい一緒にいるのに! よりによって今日いないんだよぉぉぉおおおお!!!!」

「お。落ち着いてくださいシャルル様ーーーー!」



 こうして、面倒くさい男の面倒くさいイベントが発生してしまったのだった。



 ◆



 ――訓練場


「ふん、田舎の国にしてはそこそこ人が集まったな。貴様も逃げずによくやって来た。その命知らずさ、褒めてつかわす」

「いやあんたが来いって言ったんじゃん……」

「何か言ったか?」

「いえ何も~」


 訓練場には王宮で働く人のほとんどが集まっていた。

 私の部屋の掃除をするメイドや、スイーツを作ってくれるシェフまで、総動員である。


 いや、あんた達仕事しなさいよ!?


 勤務時間中なんだから、働いてない分の給金は出さないわよ!


 いや私にそんな決定権ないんだけど。


「で、アルク殿下。魔法の稽古って何をするんですか?」

「アルクと呼ぶな。今から俺様が魔法を使う。貴様はそれを一分間耐える、それだけだ。なぁ、簡単だろう?」

「いやそれボク死んじゃいますよね!?」

「大丈夫だ。いざとなったら賠償金を払う。こんな田舎の国だったら一〇〇年は安寧を成せる金だ。嬉しいだろう?」

「全然大丈夫じゃないし!!」


 というか、アルクは勘違いしてるけどフレンテーゼ王国とノアロード王国って経済格差ほとんど無いし。

 単にこの国が森や平野に囲まれてるから、王都も自然豊かなデザインにしてるだけっていう。

 それをアルクは王都が田舎くさいから貧乏な国って思い込んでるだけ。


 どうせ賠償金も言うほど高くないはずだわ。


 というわけで、色んな意味で大丈夫なわけがないのだ。



「さて、貴様に見せてやろう。俺様とっておきの魔法を!!」


 アルクの手に青白い魔力が集まっていく。

 そして、その魔力が魔法へと変換される。


「見るがいい、水魔法最大最強の奥義――ハイドロバースト!」

「思いっきりこっち撃ってきてるし!?」


 水、いやまるで洪水? それくらいの大質量の水が私に向けて放たれる。


 というか、こんな人が集まってる場所で撃ったら、大勢の人が巻き込まれるじゃない!


「きゃああああ!!!」

「あ、危ない!」

「魔法が私たちに向かってくるわあああ!?」

「みんな逃げろぉぉぉ!」



 どうするのよ、これ!?



「シャルル様、これを!」

「っ! ナイス、クリフ! いくわよムーちゃん!」


『了解だマスター』


「ちょっとだけ魔力解放――夜ノ帳よるのとばり!」


 ムーちゃんを聖剣と洗脳し続けた甲斐があって、最近は軽めの闇魔法を使えるようになってきた。


 もっとも、使いすぎると私が浸食されるから本当は使いたくないんだけど。


 でも、この状況だとそうは言ってられない。魔法でアルクが出した水を打ち消さないと!



 夜ノ帳は黒いオーラを半円状に打ち出す魔法。

 本当は面攻撃に使う技らしいんだけど、今は押し寄せる水を打ち消すために使うわ!


「いけそうかな、ムーちゃん?」

『我に聞くな。マスターの魔力次第だ。もっとも、マスターの魔力は我も引くくらいのレベルだがな』

「つまりいけるってことね! このまま押し切るわっ! はあああああ!!」


 黒いオーラが水魔法を押し返す。水といっても元は魔法だ。同じく魔法で攻撃されたら打ち消されて霧散する。

 それが強い魔法なら尚更。だから私は魔力を高めて、威力を強化する。

 闇魔法が私に返ってこないようにギリギリを見極めてだけど。


「こんのおおおおぉぉぉ!」

「ば、馬鹿な! 田舎の王子に俺様の魔法が!!??」


 アルクが何か言ってるけど聞こえない。

 集中してるとかじゃなくて、水しぶきと闇のオーラの音がうるさすぎて本当に何も聞こえない!


 ていうか、いい加減相殺されなさいよ! どんだけ大量の水出してんのよ!


『水魔法は火や雷と違って水そのものに威力がない分、物量で押せるよう出力が高いのが特徴なのだな……』


 なに他の属性とバランス取ろうとしてんのよ! ソシャゲの運営か!?


 誰だそんな調整したやつ! この世界の神か? 神様なのか? いい加減にしなさいよ、あんたのせいで私がめっちゃ大変な目に会ってるじゃない!


「ああああもうやだあああ!!」

『頑張れマスター、あと十秒くらいで水は消滅するぞ。じゅう、きゅーう、はあああち……』

「なにカウント取ってるのムーちゃん!? しかも十秒といいつつすごいゆっくりな気がするんですけど? ねえ、私がこう言ってる間に十秒経ったよね? なのに何でまだ五秒しか数えてないの!? ちょっと、本当に水消えるの? ねぇ!?」


 私が怯えながら魔法を出し続けていると、ようやく水が無くなる感覚があった。

 結局三〇秒くらいかかったんだけど、ムーちゃんにはあとでゆっくりお仕置きしようと思う。



「おお~~~! さすがはシャルル様! あの魔法を防ぎきったぞ~~!」

「すごいわ、シャルル様って魔法も素晴らしい腕をなさってるのね!」

「なんでも騎士団長の息子と剣で渡り合って、魔法はあのセイ様直々に手ほどきを受けてるらしいぞ」

「まぁ、王子だからと驕らないで自ら学ぶ姿勢、すばらしいわ!」



 なんか、ギャラリーが凄い盛り上がってる……。会話の内容までは聞こえないけど……。



「そんな、ありえない……。俺様はフレンテーゼ王国では宮廷魔法使いをも凌ぐ魔法の使い手……。こんな田舎の王子に負けるなどありえない……」

「あの! アルク王子! 人が大勢いる中でこんな魔法使うなんて、あなた本当に王族ですか!?」

「なに……?」

「あの魔法、もし私が防がなかったらそのままこの辺りが水でいっぱいになってましたよね? その場合、ここにいる人はどうなるかとか考えましたか? 魔法の腕を自慢するのは結構ですが、ボクの大事な民を巻き込むのはやめていただきたい!!」


 アルクの非常識な行動を指摘したら、アルクの顔は真っ赤になった。

 まるでリンゴみたいだって言ったらキレそうだから、ここは真顔で見ていよう。


 すると、アルクは立ち上がって私を指さしながら言った。


「これで勝ったと思うなよ! 貴様、シャルルとか言ったな! その名前覚えたからな! 学園で見つけたら覚悟しておけ!!」


 そう言って立ち去ってしまった。


「いや、私あんたより年下だし……入学しないっての……」


 そんなツッコミを入れたけど、相手はもうこの場から去ってしまっていた。



「ああ~~~面倒くさい~~~~!!」

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