第20話 推しキャラが有能過ぎよ!

 新しく私の執事になったクリフレットはゲームで攻略対象だった人物である。

 歳は私と同じで現在十四歳。ゲームでは二年後に魔法学園に通うことになる。

 ちなみに本人に確認したところ、得意な魔法は風魔法とのこと。爽やかなクリフらしい。


 そんなクリフは、初日から私の身の回りの世話をしてくれている。  

 それはもう、びっくりするほど丁寧に。


「シャルル様、こちらシェフが新しく考案したサイケウサギの耳スープです。また、メインディッシュにはガガリコンガ(大猿の魔物)肉のソテーを用意してもらいました」

「ずいぶん栄養価の高そうなメニューだね」

「聞けばシャルル様は筋肉を付けるために肉を好んでいるとのこと。私からシェフに話をして、このようなメニューを選ばせていただきました」

「それ言ったの絶対ガレイでしょ!」


 ちなみに、出された食事はどちらもすごく美味しかった。  

 シェフにはまた直接お礼を言いに行かなきゃ。


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「殿下、行きますよ! 燃え盛れ、炎熱剣!」

「うううう……! と……常闇よ全てを飲み込め、暗黒剣!」  


 私の持つ剣から黒い波動が出る。その波動はまっすぐにガレイの出す炎の熱波とぶつかり合い、相殺する。


 私が魔剣バルムンク愛称ムーちゃんの力を制御して放った技、暗黒剣(名前そのまんま……)だ。

 ガレイの放った必殺技の炎熱剣と、威力はほぼ互角だ。


(あわわわわわ……ガレイの馬鹿、馬鹿! 本気で必殺技を打ってくるなんて信じられない!)


 死ぬかと思ったじゃない!

 セイとガレイの提案で、魔剣を自主的にコントロール出来るようにしようということになった。

 そこで、ガレイとの剣術の時間を魔法剣を使った実戦形式に変えることになった。


 で、実際に魔法剣を使ってみて思ったんだけど……  

 これ、やば過ぎる。

 だって、お互いの技を相殺したのに余波で訓練場の地面がえぐれてるのよ!?

 こんなのホイホイ使えるように訓練するって、どんな敵想定してるの?


 なんなの? ガレイは私を強くしてもっと刺激ある戦いを求めるバトルジャンキーなの?

 セイは私を闇属性に染めたがる腹黒お兄様なの?

 そんな私をニコニコして眺めるジェファニーは実はSだったりしない?

 ついでにクリフの姿が見えないけど、どこ行ったの?


「はぁ……」

『どうしたマスター、ため息なんかついて。魔法剣を使い始めたばかりにしては筋がいいぞ。何を落ち込むことがある』

「ちょっ、みんなの前で喋らないでよ……! ややこしくなるでしょ……!」


 右手に握ったムーちゃんが私に語りかけてきた。


『安心しろ。我の声はマスターであるお前か、我が認めた者にしか聞こえん』


 ならいいのか。

 って、その場合周囲には私が独り言喋ってるように見えるんじゃ !?


『そんなことはどうでもいい』

「どうでもって……」


 可能な限り声を小さくする。

 独り言喋る人って、見かけたら思った以上に怖い。

 特に誰かと話してる風な独り言を言うタイプは、私の目がおかしいのかな? 本当は隣に誰かいるのかな? と思うレベル。


『それより我の力はどうだ? 中々の物だろう』

「うん、そこは素直にすごいと思う。でも、宝の持ち腐れっていうか、私にこんな大それた力いらないよ……!」

『だがマスターが我を制御しておかないと、我は遠い将来魔剣としてこの国に災厄を振りまいてしまうぞ?』


 ニヤニヤという擬音が聞こえそうな声の調子にイラッと来た。  

 ここはいつものお仕置きタイムだ。


「あなたは聖剣あなたは聖剣あなたは聖剣あなたは聖剣…………」

『ハイムーチャンハセイケンデス』

「ふう、これでしばらく大人しくなるわね……」


 私がムーちゃんを落ち着かせ終えると、横からスッとタオルが差し出された。


「クリフか。途中から姿が見えなかったから、どこに行っちゃったか心配だったよ」

「フフ……心配をおかけしてすみません。実はこれを取りにいってたんですよ」

「飲み物? これをボクに?」

「はい、是非飲んでください」


 黄色がかった飲み物に恐る恐る口をつける。


「ん! んん〜〜〜〜!! 酸っぱい! でも甘〜〜い! 何これ?」

「それはデスキラービーの蜜にズネーヨという酸っぱい果物を漬けた後、水で割ったものです。疲労回復に効果があり、栄養もつくらしいですよ」

「そうなんだ、ありがとう。クリフは気がきくなぁ」

「いえ、執事として当然のことをしたまでです」


 う〜〜ん、素晴らしいわね。

 クリフはなんていうか、痒い所に手が届く存在だわ。

 こっちがやって欲しいことを、丁度いいタイミングでしてくれる。

 執事とはかくあるべしって感じ。


 だが私は油断しない。

 この美しい美貌の裏には、恐ろしい破滅フラグが潜んでいるってことを。

 私を騙そうとしても、そう簡単に騙されてやんないわ!


「ふふふ、まだまだだね。甘いよクリフ」

「……申し訳ございませんシャルル様」


 剣術の稽古が終わり、いつもより疲れが少ない状態で部屋に戻っ た。


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「あら、そんなことがございましたの」

「そうなんだよ、本当参っちゃうよね」

「ですがシャルル様なら何も問題はないと思いますが?」

「いやいや、そんなことないよ。あれを持つの大変なんだから、ボクも骨が折れるよ」

「まぁ、ふふふ」


 午後、ジェファニーとお茶を飲む。


 数年前までは殺風景だったこの庭園も、今ではジェファニーのおかげで見事な景色となっている。

 色とりどりの花が、嬉しそうに咲き誇っていて、見てるだけで満足できる。

 ここで本を読んだり、お茶を飲んでゆっくりするのが私の癒しとなっている。


 今日はジェファニーの家の料理人が作ったお菓子をお茶受けにして、優雅なひと時を楽しんでいた。


「うん、このクッキーも絶品だね。王宮のシェフとはまた違っていて味わい深い」

「言ってくださればいつでももってきますわ。どんどん食べてくださいまし」

「ボクばかりじゃ悪いから、ジェファニーもどうぞ。ほら、あーん」


 私がジェファニーにクッキーをあげると、ジェファニーの顔がボッと赤くなった。


「も、もうシャルル様ったら! 二人きりだからって急に……」

「ん? どうしたのジェファニー、顔が赤いよ? あ、ひょっとして風邪?」

「あなたはいけずです……」


 よく分からないけど、風邪じゃないならいっか。


「あ、お茶のおかわりが無くなってるな」

「まぁ、まあ本当ですわね。ちょっと待っててください。今、新しいお茶を……」

「お待たせしましたシャルル様」  


 シュバっとクリフが現れた。

 手にはお茶のポットとお洒落な籠に入ったお菓子。


「準備がいいね、クリフ」

「主人がお困りの時に即座に対応する。それが執事の務めですので」

「ではありがたくいただきましょう。クリフレット、ご苦労様です」

「いえ、レディ。感謝の言葉はいりません。これも全てシャルル様のため」

「な、なんだか照れるね」

「いいじゃありませんか。優秀な使用人がいるということは、優秀な主人であるということですから」

「ありがたきお言葉」


 ビシ! と礼をして、数歩後ろに下がるクリフ。  

 その後は微動だにせず、私たちの後ろで控えていた。  


 ちなみにクリフの入れたお茶は美味しかった。

 お菓子はバウムクーヘンが用意されていたけど、お腹いっぱいになりそうだから遠慮した。

 あとで切り分けて食べると伝えたところ、クリフは残念そうな顔をしていた。


「申し訳ございません……」


 謝る顔が、どことなく印象深かった。

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