幕間 自分を聖剣だと思い込んでる一般魔剣
魔剣バルムンクの一件の後、私は倒れそうな体に鞭を打って自室へ戻った。
誰かに背負ってもらいたかったんだけど、部屋までの通路が狭いから自分で四つん這いになって進まなきゃいけなかったのよね。
出かける際は行き帰りの計画を事前に立てる、これ大事。
で、今私はベッドの中で熟睡していた。外は真っ暗になっている。
音も聞こえないから、他の人も寝静まっている時刻だろう。帰ってきた時はまだ明るかったから、おそらく五時間以上は寝てしまったみたい。
なぜこんな真夜中に目覚めたのか。
明るい内に寝て、夜中に目が覚めた? いいえ、違うわ。
自慢じゃないけど、私は徹夜でゲームをして三時間程度しか寝なくても学校に通えていた。
でも、学校とか無くてずっと寝てていいなら十二時間は眠っていられる。
今回私は一日中寝るつもりでベッドに入った。
なのに、こうして目が覚めている。その理由は……。
『くくく……我が闇の波動によって目が覚めたようだなマスター』
魔剣バルムンクが、闇の魔力を私に送り込んでくるからだ。
本来なら魔剣に触れない限り呪いが降りかかることは無いはずなんだけどなぁ。
『我は貴様をマスターと認めた。それ故、我と貴様の間にパスが出 来たのだろう』
「ええ……厄介ね。要するに触れなくてもあなたの力の影響を受けるようになっちゃったってこと?」
『然り。だが安心しろ、マスター。貴様が我の所有者である限り、我が魔剣の力は貴様以外には影響を与えん』
「え、何でまたそんなことに。いや、他の人に呪いを振りまかずにすむからありがたいけど」
『言っただろう、貴様との間にパスが出来たと。我の力は今、そのほとんどがマスターである貴様に向けられているのだ』
「ふーん、そういうこと」
つまり、今までバルムンクに触れると侵食してきた闇の力が、全部マスターである私に送られている。
だから他の人が今のバルムンクに触れても平気、と。
うんうん、納得納得。
「…………って、全然良くないわよ!? 何してくれてるのよあなた! あれだけの呪いを全部私に向けるって、私を破滅させる気なの!?」
この魔剣、心を入れ替えたと思ったのに全然反省してない!?
『案ずるな。我とて貴様との約束を違える気はない。我の力を全部マスターに注いでいるのは、マスターにそれを受け止めるだけの素 質があるからだ』
「素質? あれ、そういえば呪いを送られている割に全然何ともないわ」
『マスターは元々桁外れの魔力を有していた。そこに我の力の影響で闇の魔法に目覚めたのだ。幸か不幸か分からんが、才能があったのだろうな。我の呪いの影響など微塵も受けておらん』
「あら、嬉しい収穫。つまり私もとうとう魔法を出せるようになったってことね! 憧れの魔法を使えるなんて、感激だわ!」
『その事だがマスター……』
「ん? 何かしら」
バルムンクは少し申し訳なさそうな声色になる。
呪いの魔剣なのに申し訳なさそうって、なんか面白い。
みんなの 協力のおかげか、元の性格からかなり毒気が抜けたみたいね。
『我の力を見て分かるように、闇魔法とは危険なものなのだ』
「うん、そうね。何せ意識を失って暴走してたみたいだし。あのガ レイの魔法剣と互角の技を出せたって聞いたわ」
『いや、あれはあの人間が我の技と互角なのがおかしいのだが……まあいい。ともかく、闇魔法が危険なのは身をもって実感しただろう』
「ええ、そうね」
『貴様、そんな危険な魔法を使う気なのか?』
「…………あ」
そ、そうだわ! 盲点だった!
闇魔法なんて大概人に危害を加えるようなものばかりじゃない!
いや、火や水もそうだと言えばそうだけど、闇魔法はなんていうか……人道に反した感じの魔法が多いイメージがある。
バルムンクによると、死体を操るとか他者の精神を乗っ取るとか、 相手の生命力を糧に回復だとか、やたらと物騒なのよね。
そんな魔法を使ったら、間違いなく私の評判が地に堕ちる!
それこそ、ゲームでのシャルルみたいになっちゃうじゃない!
「ダメよ、ダメ! 闇魔法なんて使ったらせっかく回避した破滅フラグに逆戻りじゃない!」
『そ、そうか。はめつふらぐ、とやらが何か分からぬがマスターが嫌ならば使うのは止めておけ』
「ええ、ありがとうばる、ばるむ……ああ言いにくいわね」
バルムンクって心の中で呼ぶにはいいけど、声に出すと噛んでしまった。
「よし、今日からあなたはムーちゃんよ!」
『ムーちゃん……だと? というか待てマスター。貴様、我の名を呼び辛いからその名で呼ぶというのか? 考え直せ、魔剣であるこ とに誇りなぞ無いが流石にその呼び方はぽっぷ過ぎるぞ! 第一、 バルムンクって別に言いづらく無いだろう! 今の貴様は疲労で舌 が回らないだけで、明日の朝には普通に言えるはずだ!』
「あーダメですーもう決めましたー。ムーちゃん、これからは私の言う通り魔剣じゃなく普通の剣として振る舞うのよー」
『貴様、あくまで我をムーちゃんと呼ぶ気か! それなら我も考えがあるぞ! くらえ、呪いパワーの出力アップ!』
魔剣バルムンク改めムーちゃんはベッドの横で怪しげなオーラを発し始める。
「させないわ!」
『むっ! は、離せっ! 我はムーちゃんと呼ばれるくらいなら魔剣であることを選ぶ……』
「よーしよーし、ムーちゃんはいい子だね〜〜。あなたは魔剣じゃない、魔剣じゃないのよ〜〜。あなたは私が扱うに足る剣。そう、 聖剣よ!」
『あ、あろうことか我を聖剣呼ばわりだと? ええいやめよ、我を抱いたまま眠ろうとするな!』
「あなたは聖剣、そう聖剣よ……。その刀身の輝きは正義の光……あなたはこの国の未来を守る立派な聖剣になるのです……」
『ぐっ……マスターとのパスの繋がりの影響か……! マスターの言葉が、強く響く……!』
「あなたは聖剣……聖剣なのです……」
『や、やめろ〜〜〜〜!!』
こうして私の日課に、ムーちゃんを抱いて『あなたは聖剣』と
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