第15話 闇のアイテムを回収するわよ!

 前世の記憶を思い出し、十二歳の誕生日を迎えてから更に一年と 少しが経った。

 私は先日十三歳の誕生日を迎えた。

 十三歳というと、前世では中学生だ。小学生の頃と違い、制服に 袖を通して学園生活を送る日々。

 小学校の頃よりも難しくなった勉強や、厳しくなった校則。  

 自分が少し高い社会に近付いたと感じる年頃だ。


 でも、残念ながら今の私は十三歳になったからと言って特別変わったわけでもなく、変わらない日々を過ごしている。

 ガレイと剣術の稽古をして、セイに魔法の知識を貰って、ジェファニーとお茶を飲む。

 何年も前からやってる生活パターンだ。  

 でも、嫌じゃないと思う。


 剣術の稽古はガレイから一本取るのが更に難しくなって、今では 数ヶ月に一度しか取れない。それも癖を突いた攻撃で、正面から一本取ったことは未だにない。

 でも、私もガレイも剣の腕が上達して いることを実感してすごく充実している。


 魔法の勉強も、結局私は属性魔法は使えないままでジェファニー の無属性魔法を真似してみても上手くいかず、MPの持ち腐れとなっている。

 でも、前世にはない魔法の知識を得るのは楽しいし魔法 について雄弁に語るセイを見るのは好きだ。

 今ではなくてはならな い時間になっている。


 ジェファニーとお茶を飲んで、取り留めもない会話をする。

 お互いの日常をただ口にするだけの、平凡なやり取り。

 でも、そんなやり取りを私とジェファニーは気に入っていた。

 何もない平凡 な日々っていうのは素晴らしい。

 飛び抜けて嬉しい出来事がない代 わりに、とてつもなく危険な出来事もない。

 それは少し退屈だけど、 とっても幸せなことだと思う。


 そう。

 私はこんな日常に満足していた。

 ただ、この平凡な日常を送っていると、ふと思うのだ。

 刻々と、着々と近づいてくる破滅フラグのことを。


 前世の記憶を思い出して、この世界が【誰ガ為ニ剣ヲトル】の世界だと気付いてからずっと、破滅フラグへの対策を行っているけど、 本当に効果があるのか。

 もし、もし破滅フラグが本当にあって、その時が来たら私はどう なってしまうのか。

 前世はうっかり用水路に落ちて死んじゃったけど、運良く(運悪 く?)この世界に転生出来た。


 だが、次はどうなるの? 

 この世界で死んだら、私は一体どうな ってしまうの?


 気が付いたら用水路の下で目が冷めて、この世界のことを刹那に見た夢だと思ってしまうのか、それともまた違う世界に転生するの か。

 それとも、全て消えてしまうのか。  

 そんな不安が、日を追うごとに強くなる。  


 だから私は決めたのだ。

 不安の根を摘み取る。それが一番だと。

 もし私がこれからやろうとしていることが失敗したら、きっと死んでしまうだろう。

 それは嫌だ。すごく嫌だ。死ぬのは絶対に嫌。あの痛くて冷たくて暗い世界はもう、味わいたくない。


 でも、でもね。

 ここで何もしなかったら、きっと遅かれ早かれ破滅してしまうだろう。

 だったら、思い切って今行動を起こすしか無い。  

 それが最善だと信じて。


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「というわけで、宝物庫に忍び込もう!」

「…………」

「………………」

「……………………」


 あら? セイとガレイとジェファニーの三人の反応が薄いわね。  

 みんな目を瞑って眉間を押さえたり、口を大きく開けて静止して たり、口に手を当てて驚いていたりと三者三様で面白い。


 私が三人の様子をじっと見ているとセイが口を開いた。


「何がというわけで、なんだよバカシャル。お前、王宮の宝物庫っ て言ったらこの国で一番警備の厳しい場所だって分かってるのか?」

「そうだね、もちろん分かってるつもりだ」

「だったらなんでそんな突拍子もないことを言い出すんだ! お前、 見つかったらどうなるのか分かってるのか?」

「大丈夫、安心して。絶対に見つからないから」  


 グッと親指を立ててみる。

 しかしセイはため息をついた。  

 あれ、なんだろうこの反応の悪さ。  

 次いでガレイが声を出す。


「殿下。僭越ながらこのガレイ、殿下の考えに進言させていただきます」

「どうぞ、我が騎士ガレイ。あなたの発言を許します」


 最近、ガレイは事あるごとにこのような堅い物言いをするようになった。

 それと、私にも同じような言い方をしてくれるよう頼んできた。  

 騎士と主の関係をより明確にさせたいからとのことだ。

 なんだか他人行儀になったみたいで少し寂しい。

 ガレイとは上手くやってたつもりなんだけどなぁ。

 ひょっとしたら、運命の強制力的なものが働いて破滅フラグに向 かっているのかもしれない。


「殿下、宝物庫に侵入するのはいくらなんでも危険です。宝物庫の 扉には腕利きの騎士が数人体制で見張りをしています。彼らは腕が 立つだけではなく、その連携も強力で一度見つけた賊は絶対に逃さないでしょう」

「はい、それももちろん知っています」

「彼らは交代で見張り番をしているから常に扉を見張っています。 監視の目をすり抜けることなど不可能です!」

「そうでしょう。あなたの言うことはもっともだ。だが安心してほしい。絶対に、見つかるなんてことはない」


 ガレイは何かを言おうとしたが、そっと言葉を飲み干した。  

 そして、ジェファニーが鈴のなるような声を響かせる。


「シャルル様がやると言ったのなら、私は応援いたします。私はあなたの妻となる女。あなたのやることを止めるのではなく、その道 を進むお手伝いをするためにいるので。ですからシャルル様、私は 何をすればいいでしょう。何をすればあなたの力になれますでしょうか?」


 ジェファニーは私の考えに賛同……いや、応援してくれるみたい だ。

 やはりジェファニーはいい子だ。私には勿体無い。


 ただ、最近はジェファニーの信頼が重いというか、少し恐い方向 へ向かってるのは気の所為かしら。

 早いところ婚約破棄しないと、どんどんやばいことになる気がするのよね。

 でも、婚約破棄を言い渡すとジェファニーは傷つくだろうし、可 哀想だなと思ってたら中々切り出せないわ……。どうしよう。


「バカシャル、悪いことは言わんからやめとけ!」

「殿下、考えを改めていただけませんか!」

「シャルル様、考えている横顔……今日も素敵♪」


 三人が私に詰め寄ってくる。


「大丈夫、何度も言うけど絶対に見つからないって!」

「「「その根拠は?」」」


 全員の声がハモった。仲いいね、君ら。  


 ここで私は全員に秘密を打ち明ける。

 なぜ厳重な警備の敷いてある宝物庫に忍び寄ろうなんていい出し たのか。その根拠を。


「ボクの部屋から宝物庫の中につながってる秘密の抜け道があるから」


「は?」

「なんと」

「まあ……」


 三人はまた違った反応を見せて私を楽しませてくれる。

 ひょっとして、裏で示し合わせて私を笑わせる企画とか立ててないだろうかと疑いたくなる。


 ともかく、私は宝物庫に行って、とあるアイテムをゲットすることにする。

 そのアイテムによって、私は国を滅ぼす悪魔か、はたまた現状維持の男装王女になるか決まる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る