第14話 誕生会に出るわよ!

 私が前世の記憶を思い出して二年が経とうとしていた。

 あれから剣の稽古や魔法の勉強などをしてきたけど、果たして破 滅フラグを回避できているのかしら。

 もしくは、これから訪れる破滅フラグを回避できるの?  

 剣を振りながら、私は考える。


「ふん!! 殿下、踏み込みが甘いですよ! そんなことでは私の守りを打ち破ることなど出来ません!」

「なんの、これしき! いくらガレイの方が強くたって、勝てる見込みはあるんだから!」


 ガレイの鉄壁の守りを潜り抜けて、肩に木剣を掠める。


「ふう……。一本取られましたか。流石です殿下。このガレイ、指南役として鼻が高い気持ちです」

「十本目でようやく掠っただけだよ、一本なんて呼べるものじゃない。でもそうだね。ガレイほどの騎士に攻撃を当てることが出来 たから、少し自信がついたよ」


 どんどん強くなるガレイを見て焦って、夢の中でも剣の素振りを してたからね!

 それくらい、私は必死に鍛えてきたのだ。

 いつか来るであろうガレイとの戦いに備えて、万全を期すと決めたのよ。

 とは言っても、ここ数日間、毎日十数本の勝負をして、やっと攻撃が当たったのだ。

 素直に喜ぶ事は出来ないわよね。


 ま、二年間も同じ相手と模擬戦やってたら癖の一つや二つ、見つけられるわ。

 今回はその隙を突いて、肩を掠めた感じね。

 ちなみにガレイの癖は防御の合間に剣を持つ方の肩を少し下げる瞬間がある。

 僅か数秒の隙を見逃さないように、ずっと攻撃したのだ。  


 どう? 私もだいぶ剣術が上手くなったと思わない?


「殿下の熱気に押されたのかもしれませんね。私は防御に自信があ ったのですが、まさか防御を破られるとは思いませんでした」

「あはは……防御に自信があるって、まるで攻撃はそうでもないみたいな言い方だけど、君剣で岩砕けるよね」


 ガレイは冗談が上手だな〜〜うふふふ。  

 冗談よね?

 ゴリラ以上のパワーを十二歳の子供が有してるのに、別に特筆す べきことじゃないですって……。

 ガレイは戦闘民族の生まれだったりするのかしら。


「殿下に当てられて私も闘志がモリモリ出てきました! 殿下、ご覧になってください。私の魔法剣――その名も炎熱剣を!」


 ガレイは全身に魔力を滾らせて、その後剣に魔力を纏わせる。  

 すると剣から炎が発生する。


「おお……それが魔法剣……」

「ええ、まだ研究途中ですが。そして……はああぁ!!」  


 ガレイは炎を纏った剣を振り下ろした。

 すると、炎が地面数メートルを走り、火柱が上がった。  


 これを、人に向かって使うの?

 誰に? 悪いやつよね、もちろん。例えば、国を脅かす悪役王子とか?

 はは、死ぬわ私。  って、どうするのよ!?

 まさかここまで強くなってるなんて! 私は毎日十数回模擬戦をして、ようやく攻撃が掠ったのに。

 もしガレイが魔法剣を実戦で使えば、勝ち目なくない?  ど、どどどどどどうしよう!?


「殿下には及びませんが、中々の技ではないでしょうか?」  


 ガレイはキラキラと目を輝かせてそう言った。

 いや、あんたの中の私はどれだけ化け物なんだ!?


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「ふう……疲れた。精神的な意味で疲れた。何なのガレイの強さは。 一人だけ出てくる作品間違えてるでしょ……」


 剣の稽古の後だから汗をかいたけど、タオルを忘れちゃった。ベタつきが不快で、ガレイの件もあってむっとしてしまう。


「タオルならこちらですわ、シャルル様」

「ありがとう。ふう、スッキリした。いやあ、ダメだね〜〜ボクは。ガレイの強さを見て、自分の近衛騎士なのにイラついちゃって。器 の小ささに呆れるよ」

「あら、そんなことありません。だってそれはシャルル様がガレイさんをきちんと評価しているからでしょう? 自分より実力が上の 相手に嫉妬しているのは、対抗する意志があるということ。

 他の騎士は追いつくことを諦め、傍観しているのにシャルル様はまだ追いつこうとしています。それのどこに恥じる要素がありましょうか。 嫉妬から相手を貶めるわけでもなく己の腕を磨き続けるシャルル様 は、正道を進む者でございます。そのお姿は王者の風格が漂ってい ますわ」

「お世辞でもそう言ってもらえて嬉しいよ。ところでジェファニー、 いつの間にここにいたの?」

「シャルル様がガレイさんとの稽古を終えてからずっとですわ♪」

「いたなら声かけてよ! 怖いよ!?」

「妻なる者は夫の半歩後ろを黙って付きそうものだと母から教育されまして」

「ただの婚約者だからね、まだ!」


 ジェファニーとの婚約が決まってから一年経った。

 あれからジェファニーは週三回くらい王宮にやって来てた。

 ゲー ムだとジェファニーはシャルルにあまり興味がなかった筈なんだけど、一体何がどうなってジェファニーとの仲が良好になってしまっ たのか。


 謎ね……。


「そう言えばシャルル様のお誕生日がもうすぐですね」

「そうだっけ。あまり自分の誕生日には関心がないなぁ」


 私の中の誕生日は前世の方の日付が印象深いのよね。

 未だに第二 の生の誕生日は慣れない。

 それに、腫れ物王子のシャルルは誕生日プレゼントを贈られることはあるけど、パーティを開かれたことがない。

 最後に記憶にあるのは五歳の誕生日パーティだった。

 それも前世 の記憶を思い出す前の悪ガキだったシャルルが、来賓者の他国の王 子にイタズラして大騒ぎになったんだっけ。

 ああ、あの時の私は何をやってるのよ!?


 でも考え方によっては、貴族との付き合いがこの歳までほとんど ないから楽ではあるのよね。


「今年はどのようなパーティになるか楽しみですわぁ」

「いやあ、残念だけどボクの誕生日パーティはやらないよ。毎年プレゼントだけが贈られてくるんだ。寂しいねえ」  


 ジェファニーはあら? と意外そうな顔をした。


「知らないんですか? 今年は十二歳という大事な歳。この国では 十二で働き始める子供もいるので、十二歳まで健康に過ごせたこと を祝う大きなパーティをしますのよ?」

「し、知らなかった……。どうしよう、パーティなんて殆ど出たことないから、マナーなんて分からないよ!」

「ふふ、大丈夫ですわシャルル様。私が教えますから、パーティ当日までにゆっくり覚えましょう♪」

「あ、ありがとうジェファニー……」


 ジェファニーは破滅フラグの発端であるという点に目を瞑ればいい子なのよね。

 もし同性だと打ち明けられたのなら、きっといい友達になれると思うのに残念ね。


「さあ、パーティまであと二週間。それまで一緒にマナーの練習で すわぁ!」

「ちなみにジェファニー」

「はい、何でしょう?」

「ジェファニーの十二歳の誕生日っていつ?」

「八の月の十七日ですわ」

「そっか、うん分かった。楽しみにしてて」

「……! あらあら、うふふ♪」


 せっかく私の誕生日を祝ってくれるんだから、私もお返ししないとね。

 そこら辺はしっかりしてるつもりだ。

 なぜかジェファニーの顔がほんのり紅潮した気がしたけど気のせいだろう。


 うん、気のせい気のせい。  


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 いよいよ誕生日パーティ当日がやってきた。

 この日のためにダンスの練習を必死に覚えた。

 前世がインドア派の オタクだった私にまともなリズム感などあるはずもなく、ダンスを覚えるのには骨が折れた。

 付き合ってくれたジェファニーには本当に感謝しかないわ。  

 一応見れるレベルには仕上げることが出来たけど、本番できちんと踊れるか不安だ。


 しかしまさか私がダンスの男性パートを踊ることになるなんて。

 人生長生きしてみるものね。いや、前世も合わせて合計三十年も生 きてないけど。

 私の傍にはジェファニーがいる。今日は私がジェファニーのエスコートをしてパーティ会場に入ることになっている。


「改めて誕生日おめでとうございますシャルル様。とてもお綺麗ですよ」

「ありがとうジェファニー。でもその台詞はボクのじゃないかな。綺麗だよジェファニー」

「まあ! シャルル様ったらいけない人!」


 何がいけないんだろう。聞いてみたけど、詳しく内容を聞いてしまったら後が怖いのでやめておこう。


 扉を開けると、会場には大勢の人間が集まっていた。

 王宮のとあるフロアでパーティは開催されているが、このフロアいっぱいに人がいるなんて何百人いるのやら。

 私って影の薄い王子のはずだけど、パーティをやると言ったら結構集まってくれるのね。ちょっと嬉しい。


 ひと通り挨拶を終えて、ジェファニーと一緒に軽食を取る。

 うん、 一流のシェフが作っただけあって美味しいわ。


「このお菓子美味しいですね、シャルル様!」

「うん? おや、それはまだ食べてないね。そんなに美味しいの?」

「はい。……えっと、では私が取っているものをおひとついかがで すか?」

「ありがとう、いただくよ」

「はい、では……あーん」

「!?」


 ジェファニーはお菓子を手にとって私の方へと運ぶ。  

 顔は紅潮して恥ずかしそうだ。

 美少女からのあーん。これは滅多に味わえないレアイベント……。

 せっかくだからいただきますか。


「あ、あーん……うん、美味しい!」

「ね、ね、ですよね!」

「ん、こっちも美味しいよジェファニー! ほら、あーん」

「ええ!? 私も、ですか?」

「ふふ、さっきのお返しだよ。ほら、あーん」

「も、もうシャルル様ったら。……あーん」


 ジェファニーは小さな口で私の持ったお菓子を食べる。小動物みたいでかわいい。


「どう? 美味しいでしょ」

「あ、味がよくわかりませんわ……緊張して」


 その後もジェファニーと一緒に色々と食べたけど、どれも美味しかった。

 今度シェフに言って、このパーティに出てるお菓子を作ってもらおうかしら。


「おや、ダンスの時間になったみたいだ」

「あら、本当ですね。みんな中央のダンスホールへ向かってますわ」

「コホン、ジェファニー……ボクと踊ってください」

「うふふ。はい、喜んで」


 必死に覚えたダンスを思い出しながら、ジェファニーと一緒に踊る。

 ジェファニーが周りに気付かれないように合図を送ってくれるの で、次の振り付けを思い出せる。


 うん、本当に出来た子だわ。シャルルなんかにはもったいない。  

 ダンスが終わると、周りの観客たちが私たちに向けて拍手を送る。


「み、見られてたみたいだね」

「恥ずかしいですわ……私とシャルル様のダンスを大勢の方に見られてたなんて」


 その後テラスへ歩いて行き、一息ついているとセイとガレイがやって来た。

 ガレイはいつものように私を褒めてくれたのだけど、驚いたのはセイの方だ。


「お前、なんかいつもよりマシだなバカシャル」

「なにそれツンデレ?」

「つん……でれってなんだ」

「ううん、こっちの話。褒めるなら素直に褒めてくれればいいのに」

「別に褒めてねーよ! いつもの野暮ったい運動着よりマシってだ けだ!」


 まあ、男同士で褒めても気持ち悪いだけだからいいけどね。


「そう言えばさっきのダンス見てたぜ。中々様になってたじゃないか」

「でしょ。ジェファニーに付き添ってもらって二週間練習したから ね。最低限形にはなってたでしょ」


 ガレイは素敵でした! と褒めてくれた。  

 セイはというと……


「いや、他の人は気付いてなかったけどジェファニーに助けてもら ってただろ。あれじゃあまだまだだな」

「げっ、バレてた。じゃあセイが見本見せてよ。踊りくらい公爵家 の後継なら出来るでしょ」

「もちろん。でもただ踊るだけじゃあ面白くない。俺がお前と一緒 に組んでやるから、目の前で実感しな」

「でも、ボクは女性パート踊れないよ? 女性パートって柔らかい 動き多いし、難しそうだし即興じゃ無理だよ」


 元女子……というか隠しているけど現在進行形で女子である私の発言としては悲しいものがあるわ。


 セイはニヤリと笑うと


「じゃあ俺が女性パート踊るわ。その方が難易度高いし、俺の実力 も分かるだろ」


 そう言って、私はセイと一緒に踊った。セイは体が柔らかく、難しいダンスの振り付けも楽々とこなしていった。本当にダンスが上 手なんだと分かった。

 ところで、なぜセイは女性パートの練習なんてしてたんだろう。

 

 踊り終わった後、みんなでワイワイ話して今度は誰の誕生日を祝おうとか言ってた。

 こうして無事、私の十二歳の誕生日パーティは終わりを迎えた。

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