第11話 お茶会に誘われたわよ!

 魔法の適正を調べてから、魔法について色々と勉強してみた。  魔法は大きく分けて五つの属性がある。

 火、土、風、水、雷。

 前世の創作でもよく聞く属性よね。

 確か五行だったかしら? いや、それとも四大元素?  どっちでもいいか、重要なのはそこじゃ無いし。


 とにかく、魔力を持つものはこの五つのどれかに適正があるって いうのが普通。というか大前提。

 ガレイが火、セイが土といったように人それぞれの適正があるは ずなの。

 なのに……。


「私は適正なしってどういうことよ〜……」


 シャルルは生まれ持った魔力の才能がある。これはゲームで言う と生まれつきMPが高い、って感じね。

 でも、そのMPを使う先の魔法が無い。その適正が無いときた。  

 つまり、いかに優れた魔力を持っていようと宝の持ち腐れである。


「そんなのってありなの……サイッテーだわ」  


 もうやる気が無くなった。

 だってガレイは剣の才能をぐんぐん伸ばして、更に魔法と剣術の 合体技――魔法剣まで習得しようとしている。

 このままじゃ、ガレイに勝てないどころか勝負にすらならない。  

 破滅フラグが訪れたその時、私がガレイと戦って生き残る可能性 はゼロに近い。

 そうなると、未来への希望が一気に失せた。


「はあ〜〜」


 コンコン

 私が自室で項垂れていると、扉がノックされる。  

 規律正しい音で、私は訪問者が誰か悟る。


「どうぞ、入っていいよマリア」

「失礼しますシャルル様。突然ですが、シャルル様にお手紙がござ います」

「手紙? ボクに手紙を送ってくるなんて誰がいるんだい。第一王 子といってもあまり表に出ないボクを知ってる人なんて限られてる と思うんだけど」

「侯爵家からですね。大方お茶会のお誘いでは? シャルル様はあ まり同年代のご友人がおられませんから、一度お会いしたくなった のでしょう」

「友達がいないのは仕方ないだろう……。セイやガレイと一緒にい るからぼっちってわけでもないし」

「あら、ガレイ様もセイ様も夜会やお茶会に参加して交友を広げて いらっしゃるみたいですよ」

「ええっ!?」  


 だ、騙された!

 てっきりあの二人はそういう貴族の習わしとかには無関心だと思 ってたのに、ちゃっかり参加してたのね!

 なによ、私にも声をかけてくれたっていいじゃない。完全に私が 下々の誘いには乗らない鼻持ちならない王子みたいになっちゃって るじゃない。


 くう〜〜、破滅フラグを回避するために鍛えてたけど、そもそも 貴族間の評判を気にしてなかったわ!

 本当は嫌だけど、私もお茶会デビューした方がいいのかしら。  

 王子だからって好き勝手に無視してちゃダメよね。むしろ顔を広げて評判良くしていかないと。

 いざという時に庇ってもらえるためにもね……!


「分かった、ボクもそろそろ他の貴族にも顔見せすべきかと迷って いたところだ。侯爵家の誘いに返事を返しておいてくれ」

「畏まりましたシャルル様。では、日時が決まり次第こちらの指定 した場所に――」

「いや、必要ない。今回はボクが誘いを受けたのだから、ボクが出向くのが筋というものじゃないかな」

「ですが、王子がわざわざ相手の家まで行くというのは……」  


 言い淀むマリア。


 まあ、確かにね。王子がそんなことしたら、他の貴族に舐められ るかもしれないのは分かるわ。付け入る隙を与えちゃうんじゃない かってね。

 でも、これは最初の一歩なの。

 私が貴族社会に飛び込んでいく、第一歩。

 ここで好印象を与えて、第一王子はいい子だなぁって評判を周り に与えなきゃいけないのよ。

 今回、私はあくまでも客として赴いて、そこで相手のもてなしを 受けて、感謝の言葉を使う。

 これで十分。

 第一王子は礼儀正しい普通の少年だって最初の印象として与えて、 徐々に評価を上げていけばいい。


「マリア、心配するのも分かる。でもボクだって自分の立場くらい 踏まえているつもりだ。下手な手は打たないよ」

「そうですか、そうですよね。以前のシャルル様ならともかく、今 のシャルル様は誠実で勤勉な王子そのものです。私ごときが心配す る必要なんて無かったかもしれませんね」

「ああ、でも……。お茶会のマナーなんかは詳しくないから、当日 までに教えてくれると嬉しいな。それに、当日は使用人も連れて行くはずだ。その時は頼んだよマリア」

「はい、シャルル様の仰せの通りに」


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 それからお茶会の誘いに返事を出して、日程が決まった。

 その数 週間、私は剣の稽古を減らしてマナー講座を受けた。

 マリアや他のメイドたちからお茶会のマナーを学び、ついでにセ イやガレイたちにも教えてもらった。

 セイはともかく、ガレイにもお茶会のマナーが備わっていること に軽いショックを受けながらも、期日までに最低限のマナーを身に 付けることが出来た。


 そしてお茶会の日がやって来たわ!


「シャルル殿下。本日は我が家のお茶会へご参加いただきまことに ありがとうございます」

「礼を言うのはこちらの方ですオルコット卿。初めましてになりま す。シャルル・ノアロードと申します。本日はこのような素晴らし い会に招いていただきありがとうございます」

「まあ、噂とはまるで別人のようですのね」

「こら、失礼ではないか」

「あっ、すみません貴方。で、殿下申し訳ございません」  


 今日のお茶会に招いてくれたオルコット卿が奥さんを叱る。

 噂って、悪ガキシャルルのことよね?

 前世の記憶が戻ってからイタズラしなくなって、もう一年以上経 つはずなんだけど、未だに私の評判は悪ガキのままらしい。

 前世と違ってSNSとか無いから、中々情報が広まってないのね。  

 私が表に出てこないってのもあるんだろうけど。


「ほら、お前たちも挨拶しなさい」


 オルコット卿の言葉に従って、子供たちが前に出てくる。  

 子供は三人いて、全員男の子だ。


「長男のジール・オルコットです」

「次男のニール・オルコットです」

「三男のマイル・オルコットです」


 す、すごいわ! コピペみたいな兄弟だわ!

 三つ子じゃなくて全員歳が違うとのことだけど、私には違いが分 からない。

 全員容姿が整っているのに、全然ときめかない! 

 逆にすごいわ この兄弟!


 えっと、確か右端の人がジールだったかしら。


「ニールです」

「まだ何も言ってないけど!?」

「私たち兄弟はよく間違えられるんで、事前に言っておこうと」

「そ、そうなんだ。似てるっていうのも大変だね……」


 それからお茶やお菓子を嗜みながら、オルコット家の人たちと世 間話をした。

 やれあの貴族は品位がないだの、この商会は礼儀がなってないだ の。

 嫌な貴族のテンプレみたいな会話に付き合わされて、私のメンタ ルは疲れ切っていた。

 でも、マリアの助けもあって無事お茶会は乗り切ることが出来た。  

 少なくとも、王族の品位を疑われるような粗相はしてないはず。


「ふう、終わった終わった。お茶もお菓子も美味しかったし、世間 話はつまんなかったけどたまにはこういうのもいいわね〜〜」


 私は休憩がてらオルコット家の庭園を散歩させてもらっていた。  

 ここの花はどれも手入れが行き届いていて、どの花も輝いて見える。

 よほどいい庭師を雇っているに違いないわ。

 王宮は花なんて育てるくらいなら訓練場のスペースに使おうって 言われるから、いまいち風情がないのよね。

 それに比べて、ここの庭園は素晴らしいわ。

 邸宅の中はちょっと 貴族趣味が強すぎて私にはきつかったけど。こっちは素敵ね。


「本当に、魔法の国に来たみたいに素敵だわ……」


 私がゆっくりと庭園を歩いていると、ふと人影が目に映った。


「誰がそこにいるの?」

「…………っ!」

「ひょっとして、ここの庭師の方ですか? よかった、実はここの 庭園を見て、その素晴らしさに心奪われていたところなんです…… よ?」


 人影のそばに行くと、それは女の子だった。  

 女の子は泣いていた。とっても悲しそうに。 「君、どうして泣いているの?」


「グス……シャルル様、ダメです。私はシャルル様にはお会いして はいけないってお父様に言われてて」

「お父様……君はオルコット家の人?」

「はい、私はジェファニー・オルコットと言います。この家の一番 下の妹です」

「そうか、ジェファニーというのか。…………えっ!?」  


 ジェファニー!?

 じぇ、ジェファニーですって!?  まずいわ、完全に忘れてた。

 この子、直接関与してるわけじゃないけど、破滅フラグに関わる 重要人物だわ!


 このジェファニー・オルコットという人物から、早急に逃げない と!!

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