第10話 魔法の才能がないのよ!

 今日はガレイとの剣術の稽古を早めに切り上げて、セイに魔法の ことを教えてもらうことになった。

 ガレイは文句を言いながらも付いて来てくれた。


 ガレイの魔法嫌いは筋金入りね。

 さっきも、貴族の息子じゃなければ魔法なんて絶対に習わないと 豪語してたもの。

 本当に魔法に全く興味がないらしい。

 一方セイは得意分野を教えることになったから、いつもよりテン ションが高い。


「えー魔法とは、体内の魔力を変換して使う術のことだ。魔法には 複数の属性があって、人によってどの属性が向いてるのかって適正 があるわけ。で、その属性を見分けるのがこの剣魔式だ」

「剣魔式?」

「ここに魔石をはめ込んだ剣を置いてある。ああ、一応刃が無い模 造刀みたいなもんだから安心しろ。その剣を握って魔力を流してみ ろ。魔石を通して剣に魔力が帯びるから、その光の色で自分が一番 向いている魔法の属性を知ることが出来る」

「ふ、ふーん。魔法の鍛錬でも剣を使うことがあるのですね。魔術 師も分かっているではありませんか」


 ガレイ……剣が関わっていると分かった途端に態度が一変したわ ね。

 剣なら何でもいいのかしら。

 いっそのこと全ての物事に剣を無理矢理こじつけたら、ガレイは何にでも興味持つんじゃないの。


「興味深々じゃないか。まずはガレイからやってみるか。ほれ」

「ありがとうございます。では失礼して……むん!」


 ガレイが剣を握って力を込めると、剣の刀身が赤く光った。


「ガレイは火属性に適正があるみたいだな」

「王道の属性だね、ガレイらしいって言えばらしいかも」

「火というとこの前騎士団の魔術師と手合わせした時に使って来た 魔法が火属性でしたね。確かファイヤーボールとかいった……」

「ガレイがただの剣の一振りで打ち消した魔法だね……」

「やはり魔法なんていりませんね、あんなの使っても牽制程度にし かなりませんよ!」


 そこまでか。そこまで魔法に興味が無いのガレイさん。


「使う使わないは置いておくとして、魔法学園に入学する以上魔法を学ばないといけないだろ。

 いくら騎士として優れていても、魔法 の成績が悪いと家の名が泣くぞ。この国の貴族たちは魔法の才能を 重視しているからな」

「家の名が泣くと言われても、私は騎士として名を上げることこそ 我が家に対する最大の利益だと考えます。魔法の成績など、落第し ない程度に勉強すればいいのです! 実技試験もそれほど難しく無 いと聞きます。私には興味の無いことに時間を割く暇は無いのです !」

「……バカシャルの近衛騎士がそんな事でいいのかな?」

「なんですと?」


 セイが小声で呟くとガレイの体がピクリと揺れる。

 何話してるんだろう、気になるわ。


「お前は確かに騎士としては優秀かもしれない。だが、考えてもみ ろ。王子の騎士が勉強を投げ出したやつだと思われたら、評判が落 ちるのは誰だ」

「私をそばに置いている殿下……」

「そうだ。お前の評価は即ちバカシャルの評価となる。お前が落第 ギリギリの成績を取れば、そんな劣等生を仕えさせてるあいつもま た、劣等生の仲間だと思われちまうだろ?」

「た、確かに……。ですが、私は魔法などに力を注ぐくらいなら剣 の道を極めたいのです……」

「何、簡単なことだよ。お前は魔法のことを知らないから魔法を学 ぶだけ無駄だと思ってしまってるが、魔法の道は剣にも通ずるんだ ぜ」

「なん……ですって……」


 う〜〜〜〜ん。さっきから小声で話していて、ちっとも会話に混 ざれないわ。

 なんだか仲間はずれにされているみたいで寂しいわね。


 でも、考えようによってはこの光景悪く無いわ。

 美少年同士が顔 を寄せ合って秘密の談話をする。互いに耳に甘い言葉を囁く(甘い 言葉かどうかは私の妄想よ)。


 いい! すごく絵になるわ!

 やっぱりイケメン同士は並んでいてこそね!

 ああ〜〜潤う!

 惜しむらくは二人がまだ子供すぎるところね。

 私はショタは守備 範囲外なのよね、残念ながら。

 だから二人がどんなに顔が整っていても、可愛いお子様を見る視点になっちゃう。


 見てて心が潤うことに変わりはないけどね!


「分かりました! 魔法の鍛錬も積ませて頂きましょう!!」


 ガレイは決心がついたようで、魔法も学ぶと宣言した。


 そっか、よかったよかった。

 これでガレイは魔法に時間を割いて 剣術の成長も遅くなる。私は魔法を学んで剣と魔法の二段構えで強 くなる。

 多少はガレイとの差も埋まるはずよ。


「セイ様、まさか魔法を鍛えていくと武器に魔法を纏わせる魔法剣 なるものが使えるようになるなんて知りませんでした! 確かに、 それならば単純な剣術よりも出来ることの幅が広がりますね!」

「だろう? おまけにお前は火属性に適正がある。炎の剣なんてお とぎ話にでも出てきそうなものじゃないか」

「ええ、夢が広がりますね! 魔法を学ぶことで、私はもっと強く なれる!」


 え?

 ちょっと、ちょっとちょっと。  んん〜〜〜〜? 聞き間違いかなぁ?

 いま、ガレイの口から聞き捨てならない言葉が聞こえたぞ〜〜( 笑)?

 強く、なれる? 脳筋のガレイが魔法を学んで強く?


 いやいやいや、うそウソ嘘。だって、ゲームでも魔法の成績が悪 かったし、ステータスもMPとか低かったんだもの。

 そのガレイが 魔法に興味を持つようになるなんておかしいわ。


「が、ガレイ。魔法に興味無かったんじゃないの? なんで急にま た学ぶ気になったんだい?」

「ハハハ、殿下はおかしなことを仰いますね。私は殿下の剣、強く なれる手段があるのなら、それを学ぶことは当然でしょう」

「そ、そうだね……あはは」


 なんでよ!?

 ゲームと違うじゃない!

 確かにゲームではMPを消費して物理攻撃力依存の魔法攻撃を撃 てるスキルとかあったけど!

 それはガレイが覚えてなかったスキルのはずよ!


 ま、まさかガレイルートで覚える予定があったとかなのかしら。  

 いや、それにしてもおかしいわよ!

 だって仮にガレイが個別ルートで魔法剣を覚えることになったと しても、それは今から五年後の話。

 今このタイミングで覚えようと しるのは早すぎるじゃない。


 ここでまた強くなられたら、私との差が開く一方、永遠に追いつ けなくなるわ!

 私が魔法を覚えたら、物理一辺倒なガレイの隙をつけるかもって 思ってたのに、ガレイが魔法を覚えたら意味ないじゃない!

 もう、どうしてこうなった!?


「殿下? どうかされましたか?」

「い、いやぁ……ガレイが偏見でものを言うのをやめて、素直な心 で苦手分野を学ぼうとしているのを見ると、感心してね……」

「ああ……ありがたき幸せ! このガレイ、必ずや殿下のご期待に 添えるよう魔法の腕を上げてみせます!」

「俺がついているんだ、心配いらないぜ」 「セイ様、是非よろしくお願いします!」  


 やめてください! 死んでしまいます!


 というか、魔法という共通の話題が出来たからかガレイとセイの 会話がスムーズになってるし。

 セイがガレイと手を組んだら、恐ろしいことになりかねないわ……注意しないと。


「おい、おいバカシャル! お前人の話を聞いてるのか?」

「え、なに? ごめん考え事してた」

「ったく、元々はお前の魔法適正を調べに来たんだろうが。ほら、 剣を握れ。魔力の流し方は分かるな?」

「い、一応……」


 嘘です。魔力の流し方なんて知りません。

 だって仕方ないじゃ無い! 前世で魔力なんてエネルギー無かったんだもの。

 そんなものが体に流れてますって言われても、意識し たこと無いわよ!

 じゃあ知らないって素直に言えばですって?  

 そうですね見栄を張りましたごめんなさい!  

 でも今更いうのはちょっと恥ずかしい……。


 こうなったらダメ元でやってみるしか無いわ。

 魔法に興味が無い ガレイが出来たんだし、あんな感じでやればいけるはず……。


「剣を握って……むむむむ」

「おお、剣から光が出てきましたよ!」

「おい、でも待て。この光の色って……?」

「どうしたの二人とも、ボクの才能にビックリした……って何この 光!?」


 私が剣に力を入れると、剣から光が溢れ出した。

 つまり、魔力のコントロール自体には問題が無いみたい。よかっ た、ちゃんと出来た。

 でも問題は剣から出た光よ。ガレイの赤い光と違って私の光は何 というか……黒い。

 光っていうか、キラキラ反射してる黒い霧……みたいな感じ? どす黒いオーラといえば伝わりやすいかしら。

 火事の煙をもっと黒くした、体に悪そうな感じがヤバイ。


「な、な、何これ? ひょっとして故障? 魔石壊しちゃった!?  ごめんセイ、弁償する!」

「いや……魔石に異常はない。正常に動作している。でもこんな色 の魔力見たことない……」

「ひょっとして、殿下の才能が凄すぎて表現不可能なんじゃないで すか?」

「それは無いと思うけど……でも不思議な色だね。我ながら不安に なるような魔力だよ」


 魔石が故障したみたいに見えて不安になる。本当に壊れてない?  

 大丈夫? 後で壊れてましたって言われても責任取れないわよ?


「うーん、これは調べてみないと分からないな。でも一つ言えることがある」

「何だいセイ、それは一体」

「バカシャル、お前には火土風水雷といった基本の五属性への適正 が無い。つまり、一般的な魔法の才能が無いってことだ」

「ええ〜〜〜〜!?」


 な、なんですって〜〜〜〜!?

 魔法の才能が無ければ、どうやってガレイの攻撃から生き延びる のよ?

 っていうか、魔法の才能があるから私が男装させられて王子にな ったんじゃ無いの?

 どういうことよ!?


「ま、まあ殿下気を落とさずに。殿下には魔法や剣以上に素晴らしい魅力がありますから」

「そうそう、それにバカシャルに魔法は難しかったからこれで良か ったのかもしれん」

「うう……励ましになってないよ二人とも」


 まさか、破滅フラグを回避しようと思ってる途中に、こんな壁が 立ちはだかるなんて。

 破滅フラグを回避するのは並大抵では無いってことね。

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