第3話 ドラフトオタク
「ほっ本当に来未ちゃんなの?」
「そうだよ来未だよあかりちゃん、昔みたいに『くるみん』って呼んでくれてもいいんだよ」
「えっそれはーちょっと」
周りの視線が痛い。
突然の再開にびっくりして忘れていたが、周りの視線が痛いほど突き刺さってくる。
「くっ来未ちゃんちょっと、まずはこの状況をどうにかしてほしいかな」
「あっごめんね苦しかったよね」
ぱっと体をホールドしていた手を離し、一歩下がる。
とりあえずこれで心拍数は下がるが、この観衆の前でこれ以上なにか言うのもやるのも危険だと感じたが来未ちゃんはそんなことお構いなしで
「あかりちゃん、私ずっと会いたかった、いっぱい聞きたいこともあるし、言いたいこともあるの」
「あっ、そっそうだねーでもお話はまた今度に」
「今度? 私は7年も待ったよ、もう待てないよ」
ジリジリと間合いを詰められ、気づけば壁際まで追いやられてしまう。
まっまずい、私の記憶にある限り、来未ちゃんは普段は物静かなんだけど、よく分からないスイッチが入ると止まらなくなることは覚えている。
いよいよ逃げ場が無くなった。
だっ誰か助け
「来未さーん、記者の方が大勢きていらっしゃるのでインタビューお願いします。」
外から大きな声が聞こえ、私と来未ちゃんの動きがぴたりと止まる。
「ごっごめんねあかりちゃん! 私何を、いっ今のは、今のは忘れて~!!!」
ピューッと効果音が聞こえそうな勢いで来未ちゃんが部屋の外に走って行った。
とっとりあえず助かった。
でも、変わってないな、いきなりあたふたして逃げちゃうところも。
「あのーちょっとよろしいでしょうか?」
「えっなに?」
いつのまにか背後に人がいた。
私よりも小柄で「ちっちゃい」という言葉がよく似合うなワンサイドアップの茶色の髪の女の子だ。
「私に何か用?」
「今、来未さんとお話していましたよね?」
「うんそうだけど」
「あなたと来未さんはどういったお関係なんですか!?」
キラッキラした目でいきなりそんなことを聞いてきた。
どっどういう関係? どういう関係って
「うーんどう言えばいいのか.な..」
「だって! あの来未さんですよ! あの来未さんに抱き着かれる!? いっ一体どんなうらやましい関係なんですか?」
「くっ来未ちゃんってそんなに有名なの?」
「えっまさか来未さんの経歴をご存じでない!?」
「ごめんね、私詳しくなくて」
「だーいじょうぶです大丈夫です、私が説明してあげます!」
ばっと回れ右をして空を見つめながら一息で捲し立てる。
「西園寺 来未さん19歳、ポジションはキャッチャー、右投げ右打ち、身長164cm、誕生日は7月3日、出身は東京の名門校二竹学舎大付属、遠投110m、2塁送球はMAX1秒87の超強肩で、守備力なら高校生では断トツのトップです! でも50m8秒00、高校通算0本塁打と走力と打撃力に課題はあるんですけどまたそれがギャップ萌えで魅力的なんですよ! 残念ながらレギュラーを獲得した3年次には甲子園には出場できなかったんですけど、その守備力が評価されてU18日本代表入りし、その超強肩をいかんなく発揮してくれました! U18での活躍もあり今年のドラフトでは高校生捕手としては一番早い2巡目で指名され、今後扇の要として活躍が期待されています! あっちなみに好きな食べ物はパフェ、苦手なことは水泳です」
はあはあはあ、と肩で息をしながら、でも「どうだ」とでもいいたげな顔でこちらを振り返る。
「すっすごいね、そんなに詳しいなんて」
「ええ、私、ドラフト候補、オタク、なので」
えっへんと無い胸を張り、誇らしげに腰に手を当てる。
「そういえば、自己紹介がまだでしたね、私の名前は増田 三水って言います。」
「三水ちゃんって言うんだ、よろしくね」
「こちらこそよろしくお願いします、ええっと...あなたの名前は...」
「私は白星 あかり、呼びやすい呼び方でいいよ」
「ではあかりさんと呼ばせていただきます、よろしくお願いしますあかりさん」
こうして私は来未ちゃんを除いて初めての友達が出来たのであった。
一話に一人、選手プロフィール
増田 三水(ますだ さみ)
18歳。二塁手。右投げ右打ち。身長147cm
誕生日12月25日
遠投90m。高校通算0本塁打。50m5秒9。
大林梅沢高校(東京)。2020年ドラフト6位
所属球団、越後ホワイトスターズ
甲子園常連校、大林梅沢高校の正セカンド。
打力に課題はあるもの圧倒的な守備力と走力が売りで、甲子園では一試合4盗塁を決めた事もある。
自分の能力に自信を持てないネガティブなタイプであるが、その守備力を(特にピッチャー)は頼りにしており、三水がセカンドを守るだけで防御率が1点良くなるとまで言われている。
そしてドラフトオタクである。
好きなもの、ドラフト候補図鑑.プロ野球選手図鑑。
嫌いなもの、静電気
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます