7(4) キス
その日は天気が良く、昼ごろから駅で待ち合わせてお台場に行った。
一週間ぐらい前に友人にお勧めされて買った白に紺のストライプが入ったワンピースを着て、家を出る前に母親に髪を編み込んでもらった。
こんなに気合入れてあとで恥ずかしくならないかな。でもせっかくなら私の一番可愛い姿を彼に見てほしかった。
夜の花火の前にウィンドウショッピングをした。二人で服屋を巡ったり、ヴィレヴァンに行って雑貨を見たり、彼は噂に聞くほどデート慣れしているふうではなく、
むしろ緊張しているようだった。私の可愛さに緊張してるのかな。
大きくて甘ーいイチゴのパフェを二人で食べた時なんか、最高に楽しかった。
食べる前にインカメで撮った彼のピースサインは撮られ慣れてないのか間抜けで可愛かったし、美白フィルターをかけてやると一層面白かった。
食べ終わったあとにも口の左上にクリームをつけた彼を私は連写してやった。
「なんだよ〜すげえいっぱい俺の写真撮るじゃん〜」そう言いながらも私はどこか楽しそうな彼を見ていた。
「もう、クリームついてるよ」そういうと照れる彼を見て、私はこれが「デート」か、と思っていた。
「ねね、今日の私かわいくない?今日めっちゃ盛れてるんだわ〜」
彼は照れながら「まあまあかな」なんて答えるけど、照れてる様子で、その反応も悪くはなかった。嬉しかった。
今日の私はすごく可愛いのだ、間違いない。
楽しいウィンドウショッピングのあと、私たちは観覧車に乗った。
「景色きれーい!」少し高いところは怖かったが、それでも上から見下ろすお台場からの景色は、陸と海の境界線なんかはでこぼこしていて可愛かった。
「俺もお台場では初めて観覧車に乗ったよ、景色すごくいいね〜」
私はそのお台場では、のところが気になった。彼はこんなデートをいろんな女性としているんだろうか。
…私も彼にとっては数ある女の子の一人で、遊ばれて捨てられるのだろうか。そんな不安がふっと胸の中によぎった。
私にとっては初めてのデート、彼にとっては何回目のデート?そんなことを考えてしまう自分が、だから、少し嫌だった。
観覧車はガタン、ゴトンと少し揺れ、そろそろ頂上か、といった時に彼が切り出した。
「そろそろキスしよう」
…え、はやくない、そんなもんなの、え、待って、初めてのデートで初めてのキスなんて、私は遊ばれてる…?
でも今日一日いて楽しかったし、でも彼はいろんな女の子とこういうことしていて…。
一瞬でそんなことが頭を駆け巡った。何か、何か言わなくては!
「まだ早いよ〜」
「そっか」
車内におとづれる気まずい空気、そのなかで私は結局彼のことがわからなくなってきていた。
彼と一緒にいて楽しいけど、これから付き合っていくうちにこういったことが当たり前になるんだろうか、こんなふうに簡単にキスしていいのかな。
これが今の高校生の恋愛なんだろうか。
その時彼に対して一度抱いてしまった不信感はなかなかぬぐえず、そのあと見に行った花火でも、どこか私の心に影を落としていた。
真っ暗な空に、枝分かれしていく赤と黄色の煌めきは、空中で枝分かれになって、空を照らす。
瞬いて、鮮やかに空を彩り、音を鳴らすのと同時に大勢のひとが息を呑んでその大輪に見惚れているのがわかる。
その一瞬、一瞬がとても華やかで、眩しい。
私たちは割とよく空が見える場所で二人並んで花火を見ていた。
周囲でカップルたちが手を繋いで何かを囁きあっている中、三坂くんが話しかけてきた。
「綺麗だね」
「うん」
気がつくといつもよく喋る私は静かになっていたみたいだった。
「今日楽しかったよ、穂波は?」
「楽しかった!いちごパフェ美味しかったね、あと、今日選んでくれたトートバッグこれから使うよ」
私は少しは早口でそう言う。どこか物憂げな表情を隠そうとしているかもしれなかった。
「今日は本当にありがとう、一日付き合ってくれて」
「私も、今日は本当に楽しかった」
私は自分で自分が嫌になるほど、彼のことが心から信用できない自分がいた。
恋に対して臆病になっている自分がいた。
だから、彼とは、この人とは付き合っていても幸せになれない。と自分に言い聞かせた。そうすることで自分が傷つかないようにした。
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