4 花火
その日は天気が良く、昼ごろから駅で待ち合わせてお台場に行った。
穂波は浴衣ではないもののいつもの制服とは違い、綺麗な白いワンピースに丁寧に編み込まれた後ろ髪が特別感があってよかった。今日はいつにも増して可愛かった。
夜の花火の前に大型商業施設でウィンドウショッピングして、、美味しいスイーツを食べて、観覧車に乗って、といった計画を立てた。
やっていることはこれまでにも経験したことのあるデートと変わらなかったが、友人として仲の良かった二人としては初めてのデートだった。
それまでクラスメイトの女子なんか気にもかけていなかったため気づかなかったが、穂波はクラスでもトップクラスに可愛く人気者らしかった。
少し長めのボブカット、高3にしてはあどけない小さい顔でコロコロ笑い、すぐに泣き、見ていて飽きないほど感情表現が激しかった。
その少し長めの髪を揺らしながら、男女分け隔てなくクラスメイトとよくおしゃべりをしていた。
その穂波が今僕の正面に座って綺麗に敷き詰められたフルーツの層と鮮やかなイチゴが評判のパフェをスマホで撮っている。ついでに自撮りもするみたいだ。
僕はピースサインを作りながら穂波の後ろでレンズを見る。
僕たちは美味しいと甘いを連呼し、幸せを噛みしめながらパフェを食べ終えた。
「うわー今日の私超かわいいわ〜」
穂波は食べ終えたあと少しして、撮った写真を見ながらそういって見せてきた。彼女は自信のある自撮りを僕に頻繁に見せてくる。
「どう〜可愛いでしょ〜」
実際穂波は可愛い。が、僕は少し照れて「まあまあかな」なんて返してしまう。
彼女の性格として自分の容姿に自信があるらしく「私可愛いだろ〜おらおら〜」みたいな写真をよく見せてきたり、SNSにあげる。
初めは「確かに可愛いけど、なんだこいつ」と感じていたが、慣れてきた今ではそんな自信ありげな様子が穂波の魅力のかもしれないと思うようになっていた。
そして次第にそんな彼女をたまらなく可愛いと思っている自分がいた。
実際今日の穂波は抜群に可愛かった。
純白に紺のストライプが入ったワンピースは穂波にとてもよく似合っていて、なんなら僕の方が一緒に歩いていて落ち着かなかった。
それでもショッピングモールで弾む二人の会話はとても楽しかった。
穂波は本当によく笑い、よく泣いた。よく驚き、そしてとても楽しそうに喋った。
好き嫌いがはっきりしていて、頭の回転が早い彼女との会話は尽きなかった。
彼女は喋るのが得意で、僕は彼女の目から見る日常をきいていて飽きなかった。
僕は気がつけば穂波の全てに興味があった。穂波のことがもっともっと知りたかった。
楽しいウインドウショッピングのあと、僕らはいい雰囲気で観覧車に乗った。
そして調子の上がっていた僕は観覧車に乗ってもう少しで頂上に来る時、「そろそろキスしよう」なんて冗談めいていった。
しかしその時、穂波はとても恥ずかしがりながら、「まだ早いよ〜」なんて言って断った。
僕は少しショックを受けながらも平気なふりをして内心その「まだ」のセリフが嬉しかった。
しかしどうしてだろう。
観覧車以降、彼女はどこか切ないように見えた。考えすぎだろうか。
そのあと二人で花火を立って見た。
真っ暗な空に、枝分かれしていく赤と黄色の煌めきは、空中で枝分かれになって、空を照らす。
瞬いて、鮮やかに空を彩り、音を鳴らすのと同時に周囲のひとが息を呑んでその大輪に見惚れているのがわかる。
僕は花火に集中できず、観覧車以降どこか表情の曇った穂波の方をちらちらと見てしまっていた。
そのためだろうか、今日の花火はなぜか散ってしまうのが早く感じられた。
激しく、眩しく、どこか切ない。
穂波にとって今日のデートはどうだったんだろうか、僕は楽しかったが穂波はどうだったんだろうか、
そう言った感情が湧いてきたが、彼女の少し幼い、可愛くて、どこか物憂げな横顔を見て聞くことはできなかった。
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