第一章 存在証明

第一話 異界人




 無重力体験を終えて、清斗は肺の空気を出し切った。


「ぶっはあ!!おえ……ううっ」


 崖から飛び降りたギフトは、高さを気にせず見事に着地をした。意識を保つのに精一杯だった清斗は、着地の衝撃で草木が燃え上がったのに気付いていない。だから顔を上げた時には息をするのも忘れてしまった。


 荒涼こうりょうとした大地に立つ男と四つん這いの男。

 清斗は内臓の浮く人生最悪のジェットコースターを経験した事で、また涙を流した。


「キヨト、お前の……なんだ、泣いてるのか?だらしない」


 ギフトは顔を顰め、軽蔑するように清斗を見下ろす。

 異世界転移だから特別な力とかないのか。

 理不尽さに嘆くも、ギフトの視線に気付いた清斗は切り替えて涙を払った。


「すみません……」


「いや良い、もう行くぞ」


 清斗の服は散歩していた時と変わらないのに、すすと泥で汚れてしまっていた。

 ——早く街に行きたい。こんなのじゃなくて妖精とか獣人を見たい。夢ならいっそ、リセットしてほしい。


 ギフトは肩をすくめ、半ば放心状態の清斗を抱えた。そして今度は丁寧に肩に乗せ「これで良いか?」と優しく囁いた。

 体勢は変わらずキツかったが、彼の優しさは痛いほど清斗の身に染みる。清斗はギフトに運ばれながら、子供のように何度も鼻をすすった。





 森の道のりは長かった。ギフトに運ばれている間に、周りはすっぽりと闇におおわれていた。空にはきらめく星も月もない。不規則に聞こえる虫や動物らしきものの声と、ギフトが地面を踏み締める足音しか聞こえない。

 不気味なほど静かで、夕暮れ時とは激変した森の景観けいかんに身震いした。少しでも草木が揺れる音が聞こえると、ギフトのマントにしがみついてしまう。

 自分の中の怖さを緩和しようと、清斗は隣の騎士に話し掛けた。


「あの、ギフトさん」


「なんだ」


「怖い、ですね」


「そうか」


「……あの」


「なんだ」


「俺、歩きます」


「そうか?」


 ギフトは丁寧に清斗を下ろした。


「っとと、ありがとうございます」


「見ろキヨト、あそこだ」


 ギフトはよろける清斗に目もくれず、悠々ゆうゆうと歩き始める。清斗がギフトの向かう先を見ても何もない。

 どこに向かっているのかとは聞けず、清斗は黙々と歩いた。


 清斗は学んだ——今のやり取りで分かったが、ギフトとは会話が続かないことに。無視されないだけマシかもしれないが、適当に返事をされるのも悲しいと言うのは贅沢だろうか。清斗は緋色のマントの端をこっそり掴み、音が聞こえる辺りを何度も何度も目視して何もない事を確認し、安堵を繰り返した。


「おい、前だ」


 不意に聞こえたギフトの声で正面を向く。闇に慣れた目に突然光が飛び込んできて、固く目を瞑った。

 とても眩しい——!

 直視出来ない輝きに目を細める。徐々にまぶたを持ち上げると、そこには今までなかった光が闇夜に浮かんでいた。

 清斗がしばらく目を奪われていると、光は赤や黄、緑や青に色を変化させ、視界を華やかにいろどった。


「さて、こっちだ。着いてこい」


 着いてこいと言いながら、ギフトは清斗の手を引っ張り「邪魔するぞ、婆さん」と何もない空間に声を掛けた。

 疑問に思う清斗を横目に、ギフトはニヤリと口角を上げた。笑っても怖い印象は変わらず、清斗は苦笑いしてしまう。


「おい、今アンタ……」


「すっ、すみません!」


 失態。目を逸らしたのに、斜め上から視線は感じる。

 沈黙が痛い。冷や汗をかいたが、ギフトは「ふっ」と吹き出すと清斗の背中を叩いて笑った。


「表情豊かじゃないか!気に入ったぞ!」


 叩かれた衝撃で前のめりになる。

 ——へへっ、痛いっすよ、とか言ってみるか?

 調子に乗り始めた清斗が二、三歩進み、ギフトに笑いかけようとしたところで、何もない空間が扉のように開いて、顔面をぶつけ尻餅をついた。


「ふぐっ!?——っ、いったあ……!」


 清斗はテンポ良く転んだ後、ズキズキと痛む顔と背中を押さえた。泣くつもりはないのに涙がにじんだ。

 「おいおい、大丈夫か?」と笑いをこらえたギフトの声。笑うのも仕方ないけど、そりゃないです——いや。

 それ以前に何故扉が?

 清斗は顔を上げ、扉の中から身を乗り出す人を見た。ノブに手を掛けているのは、女性だ。見目麗みめうるわしいとはこういう人の為にある言葉なのか、と思ってしまうくらい美しい。

 その女性と目が合って、どきりとした。関係にうとく、苦手だと思ってきた女性。このままでは自称純粋な俺は惚れてしまう、惚れてしまうぞ——と、煩悩ぼんのうに乱された清斗の前で、女性の桃色の唇が微かに動く。

 さぞ美しい声だろう、と期待していた。


「うっさいよ!!!何時だと思ってんだい!?」


「すみませんすみません!!」


 バサバサ、と後方で一斉に鳥の羽音が四方に広がった。

 そして清斗の胸には驚きが広がった。

 お雛様ひなさまのようにつややかな黒髪、瞬きする度に見惚れる長い睫毛、漆黒の輝きを放つ瞳、どこを見ても美人の口からとんでもない言葉が飛び出した。

 鬼気迫る表情だった女性は、一瞬で冷めたように無表情になる。


「……と、ローノラ様が申しております」


 またしても予想外の言葉。

 ついていけない清斗と苦笑するギフト。


「ソラノさん、婆さんはいるかい?」


「ソラノ、とお呼びください」


「分かった。ソラノ、婆さんに会わせたい奴がいるんだが」


「把握しました、どうぞご用件を」


 微妙に噛み合っていない会話がへたり込んだ清斗の上を飛び交うが、頭が働いておらず、耳には入ってこない。


「……よしキヨト、行くぞ」


「えっ、あ……ちょっ」


 話が終わったらしい。

 腕を引っ張られて本日三度目。多分お互いに慣れたからか、ギフトの力は強くて肩が外れそうになった。

 されるがままに家の中に入ると、頭身とうしんほどの像の前に放り出された。段々と扱いが悪くなるのは、喜んで良い事なのだろうか。

 清斗は泣き泣き上体を起こして、部屋の中を見た。壁や床には木目があり、木で造られた家だとすぐに分かった。松明たいまつともっていたり、女神像があったりする以外は普通の生活感のある家だ。

 家主は、おそらく。

 女神像のすぐ隣、藍色のヴェールで顔を隠した人物が座っている。まるで占い師のような容貌ようぼうで、妙に親近感が湧いてしまう。

 清斗は自分の姉が、こういうのにハマってたのを思い出す。


 しかしここは異世界。そんな変な理由でこの格好はしないだろう。

 女性は微かに動くと、清斗に「おいで」と言った。女性の声は色気のある若々しいものである。

 汚れた足を奮って女性の前に立つと、清斗の頬に腕が伸びた。朱華はねず紺瑠璃こんるりの大小様々な宝石のブレスレットが、手首から肘にかけて幾重いくえにも巻きついている。

 清斗の頬を静かにでた女性は「なるほど」と頷いた。


「見事な白髪だねぇ。どっからどう見ても『異界人いかいじん』だ」


 ギフトも言っていた『異界人』という単語が飛び出す。


「婆さん、説明してやってくれ。俺は自分の用事を済ませる。じゃあな、キヨト。ここでお別れだ」


「えっ、お別れ?」


 突然の別離告白に耳を疑った清斗は、ギフトの顔を見た。彼は相好そうごうを崩し「おう」と手を振る。

 ——ここで別れたら、俺はどうやって異世界を周れば良いんだ?これはゲームで言うチュートリアルの、ギフトの仲間になる前のイベントとか、そう言うのじゃなくて?


「あの、ちょっと待ってください……!」


「じゃ、婆さんヨロシク」


 清斗の期待ははかなく散った。ギフトは耳を傾ける事なく、ソラノと呼ばれていた女性と外に出て行ってしまった。

 マジかよ、と清斗は素の声をらした。

 ギフトとソラノが去り、婆さんと呼ばれた女性と二人っきりになる。清斗がぎこちなく後ろを振り向くと、また「おいで」と手招きされた。


「仕方ないね。こっちも仕事だから」


 と言いつつも、彼女の声は心なしか弾んでいるように聞こえた。

 女性は戸惑っている俺の手を握り、小首を傾げた。


「さてと。お前さん、名前は?」


「き、清斗です」


「ふぅん。キヨト、私はローノラって言うんだ。『異界人』には神託しんたくの伝言役、普通の人には快適な移動屋さんという職をしているよ。……アイツは婆さんって呼んでるがまだピチピチの二百歳だから気にしないでくれ」


 ローノラさん。

 ピチピチの二百歳の。


「さて、まずは『異界人』について話そうか」


 ピチピチの……二百歳?


「大丈夫かい?」


「あっ、ハイ」


 年齢はとりあえず無視だ。上の空だった頭で首肯しゅこうする。

 自分がこの世界で生きてゆく為に必須な情報を教えてもらえるんだから、耳をかっぽじって聞かないと。清斗はそう意気込んで、ローノラと目を合わせる。


 「ちょっと待ってね」ローノラは部屋の奥に消え、戻ってきた時には手に水晶を持っていた。そして、ヴェールを外している。

 二百歳と言うのは嘘だと思った。若く見積もっても、三十代くらいには余裕で見える。この人を見てからだと、ソラノさんは可愛い印象の方が強いかもしれない。

 三つ編みで結っている髪は黄金に輝き、地面につきそうなほど長い。薄紫の外套がいとうから伸びる腕や足の白い肌には、宝石が散らばっている。

 瑠璃色の瞳が清斗を見据えた。緊張で全身に力が入る。

 ふっと紅の唇を歪め、ローノラは女神像の隣に座った。組んだ足から覗く素足が婀娜あでやかで、清斗は見ないように顔を上げる。


「『異界人』ってのはね、お前さんのように異世界から来た人の事を指す。特徴は、髪が白い事。元々なのかそうじゃないのか知らないけど、まだこの世界に染まっていないという、いわば判断色として見て良いだろう。例外もいるが大体この世界での白髪は仲間だと思って良いんじゃないかね」


 他にも仲間がいる、とここに来てやっと嬉しさが込み上げた。


「異世界と言えど、お前さんと同じ世界かは分からないよ。世界は無数にあるらしいからねぇ」


「えっ」


「でも、大体お前さんのような服だから仲間は多そうだけど……ま、それより大事な話をしようか。覚悟して聴きなよ?……異界人は、この世界の住人より遥かにもろくて弱い」


「えぇ……」


「私から見たら……そうだねぇ、足も遅いし剣も振れないし生きにくそうだよ」


 弱い、のか。

 わかりやすく落ち込む清斗に、ローノラは苦笑する。


 「そんなに暗い顔しない、今から聴く方が大事さ」ローノラが水晶を片手に乗せて微笑んだ。「これを覗きな」


 騙された気持ちでゆっくりと浅葱色あさぎいろの球体を覗く。そこで初めて自分の顔を見た。確かに髪は黒ではないのに、鏡で見ていたいつもの顔が映っている。

 ローノラは「それで」と続けた。


「耐久力が低いのに、体力も並以下の異界人は生きていけないと思うだろう?だけど違うんだ。これが、異界人唯一の強み……潜在能力もとい特殊能力だ」


 ああ、なんだかファンタジーのような響き。これぞまさに王道、自分も輝く事が出来そうだ。

 清斗の胸にじわじわと熱いものが込み上げてきた。


「この特殊能力には自動発動型と任意型の二種類がある。ま、どちらにせよキヨトだけのオリジナルさ、今まで被っているのは見た事も聞いた事もないからね。……私は仕事上その能力が分かる人でね、お前さんのも見てあげる」


 自動発動型と任意型。

 絶妙にダサいが、分かりやすくて覚えやすい響きだ。

 ローノラは三つ編みからあぶれた髪を耳にかけ、水晶から手を離した。一瞬どきりとしたが、水晶は落ちる事なく彼女の両手の上で浮遊した。水晶に映っていた清斗とローノラの顔が消え、白色に変化する。

 色について分からない清斗は、ローノラを見守る。強かったら言う事なしだが、せめて汎用性はんようせいの高い能力を——。

 真剣な眼差しだったローノラの表情が、悲しげに歪んだ。


「……あちゃー」


 ——運は味方してくれなかったのか?

 言われた途端、清斗の胸の奥で何かが砕けた。


 「そう落ち込むなって。戦いに向いてないだけさ」ローノラが慌てて付け足した。「キヨトの能力は『自動発動型・致命回避』だよ」


「致命回避?」


「そう。簡単に言えば、死ににくいのかね」


 ——果たしてそれは強いのか。


「強いとかじゃないけど、活かしやすい職業はいくらだってある。大丈夫さ!」


 ギフトといいローノラといい、何故こんなにも気配り出来るのだろう。

 そうだ、まだ異世界ここに来て人に会えただけでも幸運なんだ、きっとそうだ。

 心の中で言い聞かせながら、清斗は自分の特殊能力「致命回避」を繰り返し呟いた。言えば言うほど、身体に馴染んだ気がした。


「ありがとうございます!ローノラさん!」


 ローノラはぎょっと目を丸めたが「元気になったね」と柔和な笑みを浮かべた。

 清斗が「死ににくい、死ににくい」と喜んで良いのか微妙な能力を反芻していると不意にローノラが声を上げる。


「ついでに。お前さん達には名前が与えられるんだけど、聞くかい?」


「……名前、ですか?誰から貰えるんですか?」


「さぁ?聞くかい?」


 わざとらしく首を傾げた女性は、机に頬杖をついた。

 自分の名前は桜庭清斗。多分この世界で使えるのは、清斗の方だが。はて、と清斗は小首を傾げたが、折角の異世界なので聞く事にした。


「教えてください」


「はいよ」


 ふっ、と水晶に息を吹きかけ、ローノラが謎の言葉を発した。書くのは難しそうな、聞いた事のない文字の発音と羅列られつ

 数秒後、ローノラと目が合う。


「へぇ、なるほどね」


 神妙に頷いた美女は、清斗の目を正面から見据えた。穴が空きそうなくらい見られるが、しばらくの我慢だ。


 ローノラがようやく口を開いた。


「パルマコン、それがお前さんの名前だね」


 ——パルマコン?

 どう感情を表現したら良いか分からず、清斗は「えっと、あのー」と引き延ばす。察したローノラがクスクスと笑った。


「キヨト、フルネームを教えな」


「……へっ?」


「良いから」


「……桜庭清斗です」


「サクラバ・キヨト。ふむ……」


 コツコツと水晶を何度か叩いて、笑いかけられる。


「命名してあげよう。もしお前さんが改名するなら、今日からサキヤノ・パルマコンだ」


 サキヤノ……とは。

 ファンタジーでも聞いた事のない名前だ。


「サキヤノってどこからきたんですか?」


「名前の頭文字さ。『サ』クラバ『キ』ヨト、サキだと女っぽいから『ヤ』を付けてやった。で、私は異界人であろうがなかろうが、名付ける時は必ず最後に『ノ』を入れるのがモットーだから、サキヤノだ」


「は、はぁ」


 「我ながら良い感じだ」ローノラは胸を張り、鼻を伸ばした。「ああ、そうそう」


「は、はい」


「私の他にも異界人を対象とした『神託者しんたくしゃ』がいる。そいつらだけがお前さん達の潜在能力が分かるから、名前も付ける権利と力がある」


「神託者って何ですか」


「さぁ、どうだろう」


 またわざとらしく肩を竦めるローノラ。わざとらしいのは、何か意味があるのだろうか。


「で、名前はどうだい?」


「あ、え……はい」


 サキ、では駄目だったのだろうか。だけれどもこんな機会滅多にないんだから、楽しんだ方が良いのだろうか。

 いや、異世界の人直々の命名だ。変わってて、かなり覚えにくい名前だが……受け取るべきだ。

 サキヤノは頷く。


「気に入り、ました?」


 サキヤノ・パルマコン。

 桜庭清斗に代わる、この世界での名前。

 自分の名前は好きだ、親につけてもらった大事なものだから。だけど理想だった異世界に来れたのは、嬉しいとしか言いようがない。

 もし、もしも知り合いがいた場合に備えてちょっとぐらいなら——と清斗は自分の二つ目の名前を噛み締めた。時と場合で使い分けるのも、悪くないだろう。


「疑問形なのは動揺かねぇ。で、改名するかい?」


「……その、名目上はそのサキヤノ、パル……えっと」


「パルマコン?」


「そっ、そうです。それでたまに本名で答えたりとか良いんですかね……?」


 ローノラは顎に手を添え、しばし黙る。だが「良いねえ、そういうのも」とすぐに納得した。


「それより、さ」


 ローノラの一言で、空気が変わった。

 彼女は立ち上がると、外套がいとうを引きずりながら徐にカーテンを開ける。

 ——光だ。

 人工的でも不可思議でもない、自然な陽射し。そんなに時間が経っていないと思っていたのに、外はすでに朝になっているらしい。


「朝になっちまったねえ。私はお前さんに最低限の事を教えたし、もう義務は果たしたね」


 カーテンに手を掛けたまま、ローノラはぶっきらぼうに言った。日光が邪魔して、清斗の位置からは表情が読み取れない。


「幸運な方だよ。最初の難関を一日かからずクリア出来た異界人なんて、中々いないからね」


 言っている意味がよく分からなかった。

 が、ローノラが態度を変えた事とわざとらしかった仕草から、嫌な予感が身体中を駆け巡る。


「サキヤノ、次会う時までは赤の他人だ」


「へっ……?」


「悪いね。神託者は余計な肩入れをしてはいけない義務なんでね」


 どういう事ですか、と話そうとすると「失礼します」という言葉と脇の下に手が現れて、後ろから羽交い締めにされる。

 黒髪が見えた。おそらく、いやきっとソラノだ。


「ちょっちょっ、ちょ……待って!?」


 過去最上級に頭がついていかない。


「時間は短縮してやったんだ。有り難いと思ってくれ」


 後方にはソラノ、前方には眉を下げたローノラ。

 ——あっこのままじゃヤバい。

 清斗は直感した。


「ちょっ……!!」


 しかしローノラは聞く耳を持たず、両手を広げた。


「さあ、もがいて抗えよ、異界人。お前さんの事は気に入ったからサービスだ。治安の良さげな都市に送ってやる。せいぜい売られない事だね、幸運を祈るよ」


 送ってやる?売られない?

 思考が追いつかなくて、脳が強制的に停止シャットダウンする。

 呆然と立ち竦む清斗を、ソラノが投げた。投げられた、と清斗が自覚したのは段々と離れていくローノラを見てからだった。無意識に手を伸ばすが、その手を掴んでくれる人は誰もいない。


 ——もしやいきなり独りぼっちハードモードに突入か……!?


 強風が髪を揺らした。


「痛っ!」


 呻き、身体を起こして慄然りつぜんとした。

 瞬く間に家は消え、背中から地面に激突した清斗の身体は、もう賑にぎやかな街中にあった。

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