意味深な言葉ってカッコよくない?
あれから数日過ぎた。その間に何か進展があったかと言われれば、特に何もなかった。というのもテストがもう間近であったためだ。
そのため奏さんも懸命に勉強に取り掛かっていた。流石にこの状況下で奏さんの問題を持ち上げるのはあまりにタイミングが悪く、状況を悪くする材料でしかなかったから俺はしばらく行動しないことに決めていたのだ。
そして今テスト当日。今日の科目は数学Ⅱ、化学、物理or地学である。因みに物理を選んでいる人間は大体理系であり、地学を選んでいるのは文系である。そのため俺と相太は地学を選択しており、潤は物理を選択している。
辺りを見回していると、テストならではの光景が広がっている。
いま必死に勉強している奴の中には必死に答え覚えている奴もいれば、テスト前の準備運動がてら軽く解いている奴もいる。多分後者のやつはテスト後絶望することになるだろう。それが嫌なら最初から勉強しておけという話だ。俺大して勉強していないわ〜と言っている奴、前のテストでまぁまぁ高得点取ったぜ!とか言ってた気がするけど気のせいだね!そして中には全てを悟ったかのように筆記用具だけを持ってきてカバンが空っぽなやつもいる。それを別の方向へと向けたら僧にでもなれそうだ。
そんな中俺はどの部類に入るかというと最後の部類に入るだろう。なんせ芯を入れ替えたシャーペン二本と消しゴム一個ポケットに入れてきただけだからね!カバンすらもってきてないです!
当然学年一位を狙おうと思うと流石にもう少し気合いを入れる必要はあるだろうが、そんな気はない。だからこれで十分なのだ。
そして蒼太と潤も一緒であった。あらやだ!結局同類ということですね!
尤も蒼太はそれでもA4の紙にまとめたものを見返しているし、潤は俺と同じように何も持ってきていないが、それは今日理系科目で勉強する必要がないだけであって、英語とかなら勉強するはずだ。
……いや、してないなあいつ。無駄なあがきをすることなく赤点取っていたな……
尤も今回は結構頭に叩き込んでやったから大丈夫……だと信じたい。
「早く始まってくんないかな〜」
潤は余裕の表情で呟きながら、ソシャゲに興じている。
「確かに。正直このテストが始まるまでの待機時間はあまり好きではないな」
「それは俺も同感だ」
蒼太も俺も口には出してこなかったが、それは同感だった。というか俺としてはさっさとテストが終わって欲しい。
「随分余裕ね。土師ノ里君」
随分と敵意を込めた声が聞こえてきた。
その声の主の方へと視線を向けると一人の女子生徒が腕を組んでこちらを見下ろしていた。
もちろんその女子生徒とは、我らのクラスの委員長である櫟本だ。
櫟本がそれはもう敵意丸出しの視線を向けていた。
俺は櫟本の存在を確認すると再び潤たちの方へと視線戻す。
「無視しない!」
テスト前だというのになんとも元気の良い声だ。感心感心。
さてまだテストまで時間もあり特にやることもない。少し暇つぶしでもしよう。
「何の用だ。櫟本?」
俺は若干笑みを浮かべながら櫟本を見上げる。多分側から見たずいぶん性格の悪い顔をしているのだろう。
「優等生様はずいぶんと余裕だなと思ってね」
敵意がずいぶんと含まれた口調だった。相も変わらず俺とこいつとの仲は最悪のようだ。
今回こいつが俺を敵視している理由は、どうせテストの成績なのだろう。こいつの成績は確か10位ぐらいだったか?俺よりも低いことがさぞプライドを傷つけているのだろう。さらにいえば俺は一部あまり熱心に勉強していない(とは言え、平均点を下回るようなヘマはしない、最低でも70点前後はとる。)ことも知っているから手を抜かれて負けたと思っているのだろう。
「俺に話しかけている時点でお前も随分と余裕そうだがな」
「ええ今回はしっかりと勉強してきたからね。土師ノ里君。あなたよりもいい成績をとって見せるわ!」
びしっと人差し指を俺に差しながらそう宣言する。
「はいはいそうですか。それは楽しみだ」
俺は面倒臭そうに受け流す。
「……本当に余裕そうね」
顔を引きつらせる櫟本。相も変わらず煽り耐性が低いことだ。その反応がまた楽しいものがあるのだが。
ちなみにこの光景は結構あるので、蒼太も潤も特に気にした様子もなく、テスト前の確認とソシャゲに興じていた。周りの人間も特に反応を示していない。みんな慣れていらっしゃる!助けてくれてもいいですぜ!
「少なくとも今回の科目に関して言えば特段心配することはないからな」
「普段授業を真面目に受けていないのに?」
「授業を受けただけで成績がアップするという証拠なんかあるのか?あるんだったらぜひとも見せてもらいたいね。尤も俺と櫟本では当てはまらないけどな。なにせそれは今までの成績を見ればわかることだしな」
鼻で笑いながら俺が告げてやると、櫟本は大変顔を真っ赤にして、「今回は負けないんだから!」と吐き捨てて自分の席へと戻っていった。これがりんごとかなら随分とうまそうだなぁなどプラスの評価だったのだろうが、人間に対しては少なくともプラスの評価はもらえなさそうだ。
「ま〜た怒らせた」
潤が俺を非難するような事を言う。
「俺から何か仕掛けたのではないから責任は阻却されるはずだ」
「いや。残念ながらああ言う場合お前が悪く見られがちになるぞ」
「はっ!悪く見られると言っても俺がよく知らない奴からだろ?なら問題はないね。それよりも自分の判断をよくわからん理由でふさがれる方が嫌だね」
「その辺ブレないよなお前は」
「あとで謝っといた方がいいんじゃない?」
「断る」
謝る必要性がなかったために潤の提案を即時に却下する。
「いつもより煽りがすごかったように思えるぞ。特にお前顔がすごい悪だった」
呆れたように俺にその事実を告げる
「マジで…?」
俺が尋ねると2人ともうんと頷く。どうやら色々考えていたせいか少々気が立ってしまったようだ。
「一言言っとくわ……」
「それがいい」
蒼太は再び自分のメモ書きに視線を戻した。
「はいはい。みんな席についてくださ〜い」
それから数分後なんとも可愛らしい声が聞こえてきた。その声の主は我らが担任栂先生だ。どうやらテストがそろそろ始まるみたいだ。
それでもまだなんとか最後まで足掻こうとしている人間がいるが、漏れ無く全員栂先生に注意されて終わりだった。
「それじゃあテスト用紙配ります。くれぐれも問題を覗き見てはダメですよ」
おきまりのようにカンニングを注意して前からテスト用紙および回答用紙が配られる。
そしてさらに数分後栂先生はテスト開始の合図を送り、その場にはただ紙をめくる音と懸命に答案を作成するためにシャーペンを動かす音だけが鳴り響いた。
そしてそれからさらに数日が過ぎ、今日は最後のテストであった。科目は現代文に世界史、そして倫理という文系科目のオンパレードであった。そのため潤はテストが終わったあと死にそうな顔をしていた。ただ今回は俺たちとそれなりに勉強しただけあってか、赤点は回避した様子だった。ただ、まだ結果は出ていないため断言できないし、こういう時に限って赤点だったりするからなんとも言えないが……まぁ俺からすれば面白いからいいけどね!
「俺たちは帰るぞ俊。お前はどうする?」
蒼太は俺に訪ねてくる。いつもであれば「帰るぞ」など言うが、わざわざこう問いかけてくると言うことは俺がどうするかわかっているのだろう。それをわかった上で形式上言っているに違いない。
「俺は寄るところがあるからな」
「おう!それじゃあ俺たちは帰るぜ!」
「ああ」
「そうだ俊」
「?なんだ」
蒼太は俺と呼び止めて、ボソッと呟いた。
―――視点を間違えるなよ
どういうことだ?俺は蒼太の言葉が理解できなかった。だが、その真意を問いかけようとしても、蒼太はニヤリと笑い。俺が制止するよりも速くその場を後にした。
俺は2人と別れて、逆方向へと歩き出した。行き先は決まっていた。
だがその前に寄るべきところがあるのを俺は思い出した。
「櫟本」
「なっ…何よ。なんか用?」
俺が名前を呼ぶとそれはもう大変警戒しながら睨まれる。これといってこいつに対して危害を加えていないにも関わらずここまで嫌われるとは中々ない才能ではないのだろうかと最近思っている。全く何もしないぞ。
「そう警戒するな。テスト初日に少々言い過ぎたからその謝罪だ。すまなかった」
俺が謝罪の言葉を抜けるとなんとも間の抜けた表情をする。そこまでおかしいか俺が謝罪することは!滅多にしなけど、謝る時は謝る男だぞ?
「えっと…いや、その。わたしも御免なさい?」
「なぜ疑問形なのだ……」
「貴方がそんな風に謝ってくるとは思わなくて……」
「反省すべきことがあれば俺だってするさ。尤も自身の見解はそう簡単には曲げないがな」
ニヤリと俺が笑いながら告げると、またもやムッとした表情をする。本当に顔に出やすい奴だ。
「和を乱したら承知しないわよ」
「それなら納得いく理由を提示することだ。中途半端に周りを伺う奴らよりマシだろ?じゃあな!俺はいくところがあるんでな」
「ちょっ!待ちなさい!」
後ろから呼び止める声が聞こえてくるが俺はその声を無視した。悪いが重要な用事が終わっていないからこれ以上相手はできないんだ。
また空き教室で MASANBO @MASANBO
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